暴走三話
佐竹義久の兵と刃を交えている最中、祇園城から結城晴朝の軍勢が鬨の声をあげて打って出た。兵は2000。だが戦場を覆う熱気の中では、砂粒の群れにすぎぬ数であった。
「雑魚がいくら群れようと、この刃の前に倒れるのみよ!」
御子神典膳が声を張り上げ、太田康資も快刀乱麻の勢いで敵を蹴散らす。対照的に、総大将の里見義弘は悠然と構え、若武者たちの奮戦を横目にどこか退屈げに馬上で眺めていた。
結城勢の水谷正村は齢60の老骨に鞭打ち、なお必死に采配を振るう。しかし白髪に汗は滲み、眼にはすでに限界の翳りが差していた。
「御子神……すさまじい。これが若さの烈火というものか……」
齢を重ねた男の呟きは、虚しく夏草のように風に消える。
義弘はその姿を見て心中で笑んだ。この逸材が我が陣に加わるとは。帰国した暁には感状81通ほど送ってあげよ!と。
戦場を裂いた閃光。
「ぬはぁん!」
結城軍の多賀谷政広が、御子神の剣閃に斬り伏せられて土煙に沈む。
小山秀綱の隊も、佐竹義久の兵も、次々と職場放棄のごとく戦場を離脱する。やがて結城軍は蜘蛛の巣のごとく崩壊し、祇園城の旗は倒れ、結城家はついに滅亡を迎えた。
敗走して戻った義久の口から、若武者の剣技と鬼神のごとき働きが語られる。
「里見義弘か……いや、それ以上に御子神典膳……」
佐竹義重の胸中に芽生えたのは、敵への恐怖ではなく、まだ見ぬ若者への燃えるような興味であった。




