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暴走十話

突如、里見軍の旗が翻り、空に黒い煙がたなびいた。小田原の家々は火に追われ、軒先の瓦が炭へと変わっていく。焼ける匂いが風に乗って城中に侵入する中でも、河東田清重はどこか落ち着いていた。焦土はまた人の手で蘇る。命さえあれば、いつかまた家は建て直せる。

だが敵は演出を忘れなかった。誰かが声を上げる。

「織田信長!よく見ておけ!」

すると、里見の側からさらに奇怪な所作が始まった。木の盾に子猫を縛り付け、兵は高らかに叫ぶ。

「これからこの子猫をいたぶって殺す!」

知らせはたちまち城内を駆け巡った。清重は刀を引き、城門めがけて走った。足音が石段を叩く。彼は声を振り絞る。

「やめろォッ! 今すぐ開ける、やめろォッ!」

その声は悲痛で、しかしどこか滑稽でもあった。城門が開く。清重の姿が門外へと現れると、兵たちは目を見開いた。彼らが求めていた織田信長の面影はまるでない。代わりに立っていたのは、小田原の城主、河東田清重その人だった。

「まるでペルシウムだな」

と、誰かがつぶやく。織田信長の真似のつもりがペルシア軍の真似であった。

堀江頼忠は呆れながら罵倒した。

「猫なんかのために降伏してんじゃねーよ! バーカ!」



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