第23話 寄り道
未来は妃子の家からすぐに自宅へ帰らず、ダンジョンへ寄り道をしていた。
いつも家に帰る時間までまだ1時間ほどあるし、明日から護衛をするのだから今日も鍛えて行くか。というちょっと近所のジムへ寄っていくような感覚でダンジョンに通うようになっていた。
ゲートを通ってダンジョンのいつもの場所へ入ると、置いてある剣を持って感覚を確かめるように軽く振り回した。
ダンジョン探索を日課にし始めてもうすぐ2月程にもなるので、ダンジョンの効果による成長も伴って剣の扱いも様になってくきている。
武術を習っている人に2ヶ月で様になっているなどと言ったら怒られるだろうが、未来の取り回しは事実素人のそれではない。
通うごとにダンジョンのモンスターも強くなっており、最近は色違いのホブゴブリンが現れるようになっている。
とはいえ、魔力が付与されているだけで未来は自分も《魔力(物攻)》《魔力(物防)》がある為、調子に乗らず戦う事を意識している今、結局は今までの普通のホブゴブリンと変わらず戦えている。
とはいえ未来と出現するモンスターが一緒に成長しているから気を抜きさえしなければ力関係のバランスが変わらないだけであるのだが、ダンジョンに入れるのが未来だけの為、未来は自分がそこまで大きな成長をしている事が分かっていない。
精々テストが簡単に解けるくらい頭が良くなって、ヤンキー位なら怖くない程度だと思っている。
今日も危なげなくダンジョン探索を終え、体が光った所でちょうど良い時間になったので、帰宅する事にする。
「そういえば、あれからもう2ヶ月も経つのか」
100均で買った時計に表示される日付を見て未来はそう呟いた。
ダンジョンが出現して2か月。
そして、未来が振られてから2ヶ月であった。
「僕が落ち込まずに普通に生活できているのもこのダンジョンのお陰なんだよな。……死にかけたけど」
あの日、ダンジョンが現れなければ未来は振られたショックを今だに引きずっていただろう。
友達を失って1人の学校生活に耐えきれず、不登校になって家に引きこもっていたかもしれない。
ダンジョンが現れて一週間程彷徨ったおかげで振られたショックが薄れたし、学校で孤立してしまってもダンジョンで成長した能力のおかげで妃子先輩と出会うきっかけができ、1人ではなくなった。
それに、その上がった能力で学校の勉強もするする解けるようになり、テストでいい点が取れたおかげ高宮さんの後ろの席になって、最近は少しだけど会話ができている。
振られたのに未練がましいかもしれないけど、やっぱり可愛い。
「なんか、感慨深いな……」
未来はしみじみとこれまでを振り返りながら武器をいつもの場所に突き刺した。
「でも、門に書かれてた日まで後1月か。門が開いたらここはどうなるんだろ? 自衛隊の人達が入ってくるんだよね? 流石にダンジョンに入ってる事がバレるのは不味いだろうし入らない方が良いのかな?」
テレビのニュースでは一般人も参加させろと言う話が野党の一部や色々な団体から出ているとは聞くが、国の方針としては自衛隊のみで一般人の入場は認めない方向で話が進んでいるようである。
「まあ、その時になってみないと分からないか。それよりも、明日から妃子先輩と一緒に登校するのか。護衛って言っても今まで何も起こった事ないって言ってたし、お母さんがお父さん以上に過保護みたいだから納得させる程のいい人材だったってだけだよね」
でも、初めはグイグイ来る先輩だと思っていたけど、1人の学校生活で毎日お昼を誘ってくれたのは今となってはありがたかったと思っている。
自分が護衛を変わる事で周りの目が変わって妃子先輩に沢山友達ができると良いな。
「まぁ、妃子先輩は美人だし、親しみやすくなって友達が沢山できるだろうし、僕が心配するのも失礼だよな」
友達ができて、お昼に僕が必要無くなるのは少し寂しいと思うけど……
未来はそんな事を考えながら自宅へ帰宅するのであった。




