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ある日、世界に出現したダンジョンは、開門前にバカスカ敵を倒した僕のせいで難易度が激高したらしい。  作者: シュガースプーン。
一章

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第22話 その頃の1

 未来が妃子の家に向かったのと同時刻、井尻は下校途中に苛立たしげに舌打ちをした。


 いつもなら学校帰りは友人達とファミレスやファストフード店に寄り道をして帰えるのだが、今日はここ数日のいや、元を辿れば数ヶ月のイライラが溜まっており1人先に帰る事にしたのだ。

 いつものように友達と駄弁ったほうがストレス発散になったのかもしれないが、不意に友達にイライラをぶつけてしまうのも嫌なのでこうして先に帰っているのである。


 それもこれも、全部アイツのせいだ!


 イライラの原因は同級生の日和未来。


 教室で目立たない陰キャで、あまり気にしたことはなかった。

 なのにあいつは分を弁えずに高宮さんに告白なんてしやがった。


 それを聞いてすぐに、俺は日和を加害者(悪者)に仕立て上げた。

 正直ムカついたというのもあるが、ヒーローになる為、高宮の為だ。

 世間の風潮的にハラスメントに敏感なご時世であり、日和は告白をして高宮に不快な思いをさせた虐めの加害者だという噂を広めたらクラスメイトや他のクラスの同級生達は簡単に信じた。


 そして俺の予想通り、日和は学校に来なかった。

 俺でも振られたら落ち込んで学校に来る勇気があるか分からないのだから、陰キャのアイツが登校して来ないのは当然だと言える。


 先手を打って正解だったと思った。


 先手を打たず、高宮が振ったせいで日和が学校に来れなくなったという噂が流れれば、虐めの加害者は逆に高宮になる可能性がある。


 告白で嫌な思いをするのはなにも嫌な相手に告白された側だけではない。


 振られた事に対して精神的苦痛を訴えれば、勇気を出して告白した相手の気持ちを踏み躙ったモラルハラスメントだと言われ、虐めの加害者となる可能性は十分にあった。


 日和が学校を休んだとなれば尚の事。


 だから俺が高宮を庇って日和を加害者にしてやったのに高宮はそれを否定しやがった。


 それどころか、最近は席が近くなったからってよく話していやがる。

 それに美人で有名な先輩の欅神楽先輩とも仲良さそうにしてやがる。


 今日もなぜか2人で下校したって噂だ。

 欅神楽先輩と一緒に帰ったって噂されてた冴えないヤツは日和の事だろうからな。


 1人で考えれば考えるほどムシャクシャしてくる気持ちに道端に咲いた草花を蹴っ飛ばした。


 イライラしていたので歩くペースが速くなっていたのであろう。

 前には誰も歩いていなかったはずなのに、同じ学校の制服の女生徒の背中がみえた。


「いや、やっぱついてるかも!」


 前を歩く女生徒は高宮悠里であった。


 井尻は何かを思いついたとばかりに口角を上げると、少し歩くペースを早めて小走りで移動する。


「よう、高宮は今帰り?」


 井尻は悠里に追いつくとそう言って声をかけた。


「井尻君」


 悠里の声は少し低かったが、そんな事は井尻は気にも留めなかった。


「俺も帰りなんだよ。ちょっと話そうぜ?」


 井尻がそう提案して悠里に歩幅を合わせる。


「なあ、聞いたか? 日和のやつ欅神楽先輩と一緒に帰ったらしいぜ。高宮に告白して振られたすぐに先輩に乗り換えるとか節操無しだと思わねえ?」


「別に……」


 悠里の眉がピクリと動いたが、井尻は自分の話に夢中で気づきはしなかった。


「高宮も余計な優しさはやめとけよ。席が近いって言っても振った相手と仲良く話すのはおかしいって。それに、陰キャの癖に女たらしとか性格終わってね?」


「井尻君!」


 気持ちよさそうにスラスラと話す井尻の名前を、悠里は大きな声で叫んだ。


「な、なに?」


 その大きな声に驚く井尻の方を向いて悠里はニコリと笑った。


「私、スーパーによって帰るからここで失礼するわね」


「そうか。高宮は家の手伝いして偉いよな。じゃあな」


 井尻が手を振る前に、悠里は背中を向けてスーパーの方へ歩いて行った。


「たまには1人で早く帰るのもいいもんだな」


 井尻は悠里と2人で帰れた事に気をよくして鼻歌を歌いながら家へ帰るのであった。



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