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黒龍剣豪伝【更新停止中】  作者: 蛇ノ目
【序章】旅立ち
7/7

漆.洞窟の主ー後篇ー

剣豪、リューク・ムリフェインに襲い掛かった無数の蜘蛛。

リュークはその出処を潰す為、洞窟の最奥に赴いた訳だが……


「……デケェ蜘蛛だな、おい」


民家ひとつはありそうな体躯の、巨大な蜘蛛。

リュークはひとつ勘違いをしていた事に気付く。この蜘蛛達は別の巨獣が掘ったものを再利用していたのではない。

元から、この巨大蜘蛛の巣だったのだ。


「(つまりこの小せェ蜘蛛はあのデケェ蜘蛛の子供か…? にしちャあ、なんか違和感が)」


剣豪は剣を振る。再び飛び掛ってきた、巨大蜘蛛の子供(推定)を一振で数匹を両断する。

その後もしつこくやって来る小柄の蜘蛛達をリュークは苦もなく斬り捨てていくのだが……


「……チッ、キリねェな」


如何せん、数が多い。

リュークとて、常に全方位を守れる訳ではない。このままでは押し通されるだろう。

リュークは剣の持ち方を変えると、緩やかな弧を描きながらも目で追えぬ速度で振り抜く。


「“虚龍一刀流”───“虚暴風(ウツロアバレカゼ)”」


刀を振り抜いた際に生じる真空波が、斬撃の間合いを拡張し……間合い外の蜘蛛をも切断した。

それにより大きな空間ができる。それでもなお、億さず突っ込んでくる無数の蜘蛛。

やはりリュークは違和感を抱く。たとえ腹を空かせているにして、子供がこんな躊躇無く突っ込んでくるだろうか。まるで、何かにそう命令されている様な……


「(そういう事か)」


リュークは察する。この蜘蛛の群れの禍根を。


「(あのデケェのは…()だ。そんでこの小蜘蛛は、雄)」


自然界には、雄よりも雌の方が身体が大きい場合がある。

勿論全ての種がそうである訳ではなく、雄の方が大きい事もざらにあるのだが……リュークが相対するこの巨大な雌蜘蛛は、それに該当するらしい。

もしこの雌蜘蛛がこの雄蜘蛛を操っているとした場合、雌を仕留めれば事は済む。

だが、簡単にはいかない。

如何せん、雄蜘蛛の数が多すぎる。一直線に向かうのは却って危うい。

だが。


「(アイツらより疾く走りャいい)」


いささか所ではない程の脳筋思考。リューク・ムリフェインはそういう男である。

しかしその手もまた前提条件がある故、簡単には出せない。

まずやるのは、その前提条件を通過する為の土台を作らねばならない。

リュークは駆ける。向かってくる小蜘蛛を斬り伏せながら。

途端、巨大蜘蛛……この群れの長たる雌が初めてリュークの方を見た。八つの複眼が、リュークという龍人(ドラゴニア)を見据えると……口から糸を噴射した。


(ケツ)から糸出さねェのかよ!」


リュークは走る姿勢を低くし、飛来する糸を躱す。

先程まで頭があった場所を通過した糸は、最奥の岩壁に易々と大穴を空けた。明らかに糸の威力ではない。

直撃すれば、たとえ龍人(ドラゴニア)であるリュークでも死ぬだろう。


「(早期決着……これが、最善だ)」


リュークは最初から目に付けていた、雄蜘蛛がほとんどいない空間に到達すると、姿勢を一層低くし、いつでも駆け出せる体勢となった。


「“虚龍一刀流・歩術”───」


───刹那、地を蹴る轟音が響いた。リュークの姿が掻き消える。

同時に、リュークの直線上にいた無数の蜘蛛が真っ二つに断たれた。


「“虚雷影(ウツロライエイ)”。……からの」


常軌を逸した足運びによる、超高速移動。

気付けば、リュークは雌蜘蛛の足下に忍んでいる。


「“虚龍一刀流”───“虚天裂(ウツロソラザキ)”」


駆け抜けながら上方を薙ぐ。

巨大蜘蛛の腹を掻っ捌きドバっと蜘蛛の体液が溢れる。自身の腹を斬られた事に、巨大蜘蛛は大きな悲鳴らしき声を上げた。

巨大蜘蛛は怒りのままリュークが居るであろう場所へと、その巨大な脚で踏み付ける。


……しかし、手応えはない。


「遅ェ」


背後…否、背中側の上空。

既に剣豪は、蜘蛛の背に回り込んでいる。


「届いてんぞ。オレの剣は、テメェに」


───“虚龍一刀流”。


「“虚瀑布(ウツロバクフ)”」


リュークが刀を下へと振り下ろす。

落下の勢いと、彼自身の常軌を逸した技量が、その斬撃の威力を何倍にも高め……


……雌蜘蛛の首を、刎ねた。


悲鳴も、ましてや死んだ事実すら知覚する事なく、その巨大な雌蜘蛛は死んだ。






「あァー……疲れた」


雌蜘蛛を仕留めた後、リュークはその脚の一部と糸を引っ提げて洞窟の入口に戻った。

あの後雄蜘蛛達は散り散りに逃げ回り、遂には洞窟内に一匹も残らず消えていった。

安全になった事を理解し、リュークは焚き火が燻る洞窟の入口でため息と共に座り込む。


「……乾いてンな。……やべ、走り回ったから疲れて寝みィ…………」


乾かしていた外套が既に乾いている事を確認するも、走り回った疲労がやって来て、リュークは外套に身を包んでは洞窟の壁にもたれ掛かりながら眠りについた───

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