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黒龍剣豪伝【更新停止中】  作者: 蛇ノ目
【序章】旅立ち
1/7

壱.プロローグ

人里離れた、木々が連なる森林。

のどかな自然が広がるこの広大な森の一角から、突然土埃と共に木々がなぎ倒れた。

倒れた木の元には、ふたつの人影が足速に駆け無数の細い閃光が飛び交っている。銀閃がひとつの木を通り過ぎると、木が斜めに滑り落ち、地面に転がった。

それが二度、三度と幾度となく繰り返される中、ふたつの人影がピタリと止まる。

相対する二人は、人間(ヒューマ)ではなかった。

片方は銀色の鱗に覆われた、大柄な龍。

もう片方は漆黒の鱗に覆われた、小柄な龍。

龍人(ドラゴニア)、と称されている地上最強とされる人族。龍を人族の骨格に置き換えた様な容姿を持つ彼等は、個々が莫大な魔力を有し、魔法を扱う事に長けているのだという。

だが、打ち合い稽古でもしているらしい彼等は、魔法を用いていなかった。


「シィッ!」


黒龍が駆け、一息で白龍まで距離を詰め手にある剣を振るう。

彼等の手にあるのは両刃の剣ではなく、緩やかな反りのある薄い片刃の剣。

東の果ての島国に伝わる“カタナ”なる剣。両刃の剣以上に扱うのが難しいとされる反面、優れた切れ味を持っているらしい。

そんな剣を、ふたりの龍人(ドラゴニア)は手足のように取り扱っている。

黒龍の振るった剣を、白龍は自らの手にある剣の刀身の反りに流す形で、斬撃の軌道を逸らす。

斬撃を逸らしながら構えた剣を、反撃する形で振り抜くと、黒龍は頭の位置を僅かにずらした。逃げ遅れた鬣の数本が斬られるが、彼は気に留めずに構え直した剣を横薙ぎに振るった。

轟速で振られた剣。

その光景を観戦する者が居れば、誰もが入ったと思うだろう。

しかし白龍は左手(ゆんで)の鞘を自身と、振り抜かれる剣の間に割り込ませてその斬撃を防ぐと、瞬く間に右手(めて)にある剣の柄で黒龍の頭を叩く。

予想外の攻撃を受けて体勢を崩した黒龍の手足を即座に制し、地面に組み敷いた白龍は、手にある剣を黒龍の首元に添える。


「……一本。私の勝ちだな。リューク」

「あークソ! もうちっとだったのによォ!」


リューク、と呼ばれた黒龍は悔しそうに両手足を伸ばして大の字となる。

負けた事が余程悔しいらしいリュークは、不機嫌そうに尾を叩く。それでも白龍は気にせず剣を鞘に納める。


「鞘はナシだろ師範(オヤジ)。オレは極力使わねェようにしてんのによ」

「おや。私はいつ鞘を使うな、と言ったかな」

「……言ってねェな。クソが」

「仮にも父親に対して、そんな事は言うんじゃない」


文句を言うリュークに、リンウェルという白龍は楽しそうにそう返した。

ふとリンウェルは空を見上げる。青よりも赤の面積が増えた空を見ていると、隣から腹の虫が鳴った。リュークだ。


「日も傾いてきたな。今日はここまでにしよう」

「オォ、飯だ飯。今日は師範(オヤジ)が作んだろ? 何にすんだ」

「リュークの好きな、鹿肉のスープだ」

「やりィ」


容姿も違い、鱗の色も異なる。ふたりに血の繋がりはないが、それでも親子と言っても遜色のない彼らには、確かな絆があった。




 ◇◇◆◆




「なァ、師範(オヤジ)


夕飯の席を囲み、食事をしている中で頬杖をついたリュークが声を掛けた。


「行儀が悪いぞ」

(わり)ぃ。……じゃなくて。師範(オヤジ)はなんでこんッなのどかな森ン中で隠れて暮らしてんだ?」


リンウェル・ムリフェイン。

リュークはリンウェル以外の剣士を知らぬが、不思議と彼以上の剣士など存在しないとすら感じている。

かれこれ十年と数年。リンウェルという剣士に鍛えられて育ち、未だにリンウェルに一撃を入れた試しがない。

故に不思議だった。彼ほどの剣士が、何故こんな場所でひっそりと暮らしているのだろうか。


「……別に、特に理由などないさ」

「嘘付け。オレが師範(オヤジ)の嘘を見抜けねェ訳ねェだろ」

「…………」


そう言われては、リンウェルは押し黙る。

実際、リュークに嘘を吐いて欺けた試しもまたない。幼子の頃から妙に勘が鋭く、秘蔵の酒やつまみなどを巧妙に隠しても、初見で見抜かれたのは一度や二度ではないからだ。

そこを突かれてもなお、リンウェルは話したがらない。

リュークは特に詮索するつもりこそないが、それでも気になるものは気になる。


「……いつかは、話すかもしれないな」

「いつかッて……いつだよ」

「いつかはいつかだ。……まぁ。いつか、必ず話すと約束する。それまで待っていてほしい」

「言ッたな? 約束、破んなよ」

「勿論だ」


リュークも、リンウェルも、交わした約束だけは何があっても違えない。それは、彼らがこうやって家族のように過ごし始めてから今に至るまで、ずっとそうだったのだ。


───そう、だったのだ。


この約束だけは、二人が初めて違える事になる。


片方が、もう間もなく死ぬからだ。

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