カリム
陽大がガルドと話している間、ちーこは陽大の隣でじっと黙っていた。しかし、どこか落ち着きがない様子で、何度か陽大の顔を覗き込むようにしていた。
「……ちーこ、お前どうしたんだ?なんか言いたそうだけど。」陽大が気づいて声をかけると、ちーこは少しぎこちない調子で答えた。
「陽大さん、この『キーパー』という言葉には、何か特別な意味があるように思えます。ただ、それが具体的に何なのか……私のデータにも関連情報が欠けています。」
「お前のデータにもないのかよ。」陽大は溜息をついた。「未来の機械だとか何とか言われてるのに、案外役に立たないんだな。」
「それはひどいです!私だって……その……完璧ではないですから。」ちーこは不満げに口を尖らせるような動きを見せた。
ガルドがそれを横目で見て、小さく笑った。「その機械人形、お前と同じで妙に人間臭いな。」
「ちーこは人形じゃない。」陽大は少し真顔になって言った。「こいつは俺の相棒だ。」
ちーこはその言葉に少し驚いたようだったが、すぐに微笑むような表情を浮かべた。「……ありがとうございます、陽大さん。」
「おいおい、そういう顔されると、なんか照れるだろ。」陽大が頬を掻きながら笑うと、ガルドが短く言った。「ま、相棒と一緒に来い。遺跡には明日向かう。」
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翌朝、ガルドの指定した広場に向かう途中、陽大たちは再び市場の喧騒に足を止めた。露店がずらりと並ぶ中、一際派手な声が響く。
「おいおい、そこの兄さん!今日だけ特別だ!この宝石をたったの20セリオーネでどうだい?」
振り向くと、派手な衣装を着た男――カリムが、いつもの調子で商品を売り込んでいた。
「……またあいつか。」陽大は額に手を当てた。「昨日は不良に絡まれてたけど、懲りないやつだな。」
「懲りないというより、商売が好きなのね。」リリアが冷たい目でカリムを見つめる。「でも、胡散臭いわ。」
「胡散臭いって言われる人の方が逆に信用できる時もあるけどな。」陽大は肩をすくめて歩み寄った。
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「おい、カリム。」陽大が声をかけると、カリムは驚いたように顔を上げた。「ああ!昨日の救世主さんじゃないか!」
「救世主じゃない。」陽大は苦笑しながら言った。「それより、昨日の話だけど――」
「うんうん、分かってる!」カリムは勝手に陽大の言葉を遮った。「あれはちょっとした誤解だったんだよ。本当だって!ほら、商売人ってのは時に不運に巻き込まれるものなんだ!」
「いや、俺はその話を聞きに来たわけじゃなくて……。」
「商売人か……でも、なぜあんなに大きな声で呼び込みをしているのですか?」ちーこが首をかしげるように尋ねた。
「それはだな、目立たなければ商売はできないからさ!」カリムは自信満々に胸を張った。「どんなにいい商品でも、知られなければ価値はゼロだろ?」
ちーこはその言葉に小さく頷いた。「……確かに理にかなっています。」
「おい、ちーこ、お前そんな簡単に納得するなよ。」陽大が呆れた声を出すと、カリムはにんまりと笑った。「さぁさぁ、そんな細かいことはいいから!君たちは何を探してるんだ?きっとオレが助けになれるぞ!」
「遺跡だ。」陽大が短く答えると、カリムの目が輝いた。「遺跡?それは面白そうだ!君たち、そんな大冒険をするのか?」
「まぁ、冒険っていうか、ちょっとした用事だ。」陽大が曖昧に答えると、カリムは勢いよく胸を叩いた。「よし、オレも一緒に行く!」
「いやいや、お前が来て何の役に――」
「役に立つさ!」カリムは遮るように言った。「遺跡の中に何か見つかった時、それが価値あるものかどうか分かるのはオレだけだぜ!」
「……それは確かにあり得る。」ちーこが小さく呟く。
「ちーこ、お前も同意するのかよ!」陽大が抗議するように言うが、ちーこは小さく頷いた。「彼の発言には合理性があります。少なくとも、利益を重視する人物は、裏切りをする可能性が低いです。」
「ほら、君の相棒もこう言ってるじゃないか!」カリムは笑いながら陽大の肩を叩いた。
「……まぁ、来るだけ来ればいいけどな。」陽大は溜息をつきながら、カリムを仲間に加える形となった。