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修理屋さんとガルド

陽大が酒場の隅でジョッキを手にしていると、ガルドが無言で椅子を引いて向かいに腰を下ろした。その無駄のない動きに気づいたちーこが目を細めるように陽大のそばへ寄る。


「ガルド、どうしたんだ?こんな場所で一緒に飲もうなんて柄でもないだろ?」陽大は軽く笑ってみせたが、ガルドは真顔のまま切り出した。


「頼みがある。」


「頼み?また面倒ごとか?」陽大はジョッキを置き、じっとガルドを見た。


「ああ、面倒だ。」ガルドは短く答えると腕を組んだ。「だが、お前ならどうにかなるかもしれねえ。」


「なんだそりゃ。具体的に言ってくれよ。」


「外に古い遺跡がある。」ガルドの声は低く抑えられている。「そこに何百年も開かない扉があるんだ。」


「何百年も?そんな扉なら誰かが何とかしてるだろ。」陽大は苦笑する。


「してねえよ。魔法も、力も、どんな技術も通じなかった。」


「……で、俺なら開けられるって?」陽大は信じられないという顔をした。「ちーこの修理を見て、無茶振りする気になったとか?」


ガルドは静かに頷いた。「あれを見れば分かる。お前はただの人間じゃねえ。」


「ただの人間じゃないって言われてもな……。」陽大は苦笑して、ジョッキの縁を指で叩いた。そこでふと思い出したように顔を上げる。「そういえば、リリアにも言われたんだよ。『キーパー』って言葉を。お前も知ってるか?」

ガルドは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに無表情を取り戻した。「聞いたことはある。」


「そうか。」陽大は少しホッとしたように頷く。「でも、リリアに聞いたら、なんか曖昧なことしか言わなくてさ。お前の国じゃどう考えられてるんだ?」


「帝国の記録に出てくる。」ガルドは短く答えた。「キーパーってのは、大きな災いか、時には希望をもたらす存在だって話だ。」


「うーん、その説明もリリアと似てるな。」陽大はジョッキを回しながら言った。「でも、そんな記録に残るくらい古い存在なんだろ?それなら、今の時代じゃただの伝説って扱いじゃないのか?」


ガルドは肩をすくめた。「帝国じゃ、伝説にしちゃ現実味があると考える奴もいる。何せ、キーパーが現れる時には世界が揺れるって言われてるからな。戦争が起きる前兆だとか、国が滅びる時の導火線だとか。」


「戦争の前兆って、なんか縁起でもないな。」陽大は苦笑いした。「でも、リリアはそんなに大げさには言わなかったぞ。お前らの国とリリアの国じゃ、キーパーの見方が違うのか?」


「違うだろうな。」ガルドは静かに答えた。「カルドヴァ王国の連中は、キーパーを『預言に記された救世主』みたいに考えてるって聞いたことがある。だが、それが正しいかどうかは誰にも分からねえ。国が違えば考え方も違う。」


「救世主って、また大袈裟な話だな。」陽大は溜息をついた。「そもそも、キーパーがどんなやつなのか、ちゃんと分かってる奴はいないのか?」


「いないだろうな。」ガルドは冷ややかに笑った。「それに、キーパーの記録が残ってるのは聖王国の古い書物くらいだろう。あの国の僧侶どもが何を隠してるのか、俺には興味もねえがな。」


陽大はその言葉に引っかかるものを感じた。「聖王国……?」


「アルヴェリス聖王国だ。」ガルドは言葉を切るように続けた。「奴らはキーパーの記録を独占してると噂されてる。神の奇跡だの、預言の成就だのと言ってるが、それが何を意味してるかは誰にも分からねえ。俺たち帝国の連中から見れば、ただの思い上がりだ。」


「へぇ、なんか色々あるんだな。」陽大は腕を組みながら考え込む。「でも、それだけの話なら、なんで俺がキーパーだなんて思うんだ?」


「お前が普通じゃねえからだ。」ガルドは即答した。「普通の人間が触れられないようなもんに触れられる。それだけで十分だ。」


「雑な理由だな……。」陽大は呆れたように呟いたが、心の中ではガルドの言葉が引っかかっていた。


リリアの言葉、ガルドの話、そして聖王国にまつわる噂――「キーパー」という存在に対する情報が曖昧で、一貫性がないことが逆に気になる。


陽大はジョッキを置き、真剣な表情でガルドを見た。「その遺跡ってやつ……そこに行けば、俺がキーパーだって確信できる何かがあるのか?」


ガルドは少しだけ間を置いてから答えた。「それは分からねえ。だが、扉の向こうに何があるかは、誰も知らねえ。それを確かめる価値がある。」


陽大はしばらく考え込んだ後、苦笑いを浮かべた。「まぁ、分かったよ。行くだけ行ってみるさ。ただし、何もなかったら責任取れよな。」


「それでいい。」ガルドは短く答え、立ち上がった。「明日の朝、広場に集合だ。それまでに準備をしておけ。」

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