修理屋さんとリリア
「なぁ、リリア。」陽大は少し後ろを歩くリリアに声をかけた。「さっきから『キーパー』って言葉が出てくるけど、それって具体的に何なんだ?」
リリアは歩みを止め、ため息をついた。「キーパーは……簡単に言えば、この世界に存在する異質な存在よ。」
「異質な存在?俺が?」陽大は自分の胸を指差し、苦笑いを浮かべた。「修理屋が異質って、どんな冗談だよ。」
「冗談じゃないわ。」リリアは冷たい目で陽大を見つめた。「あなたのような存在は、この世界において特別なの。ルヴァンテール大陸の歴史の中で、『キーパー』と呼ばれる人が現れるのは稀よ。でも、その役割が何なのかを本当に知っている人は少ないわ。」
「役割って……俺にそんなのがあるのか?」陽大は戸惑いを隠せなかった。「俺はただ、家電を直すのが得意な普通の男だぞ。」
リリアは目を細めた。「この大陸には、3つの大国と1つの宗教国家があるのは知ってるわよね?」
「いや、そんなこと全然知らないけど……。」陽大が答えると、リリアは肩を落とした。「やっぱり何も分かってないのね。」
「教えてくれよ。この大陸のこと、そして俺が関係してる理由を。」陽大は真剣な目でリリアを見た。
リリアは少し考え込むように黙った後、ゆっくりと話し始めた。「ルヴァンテール大陸は、3つの大国――ヴェルドナ帝国、セリオーネ連邦、カルドヴァ王国――によって分割されているわ。それに加えて、唯一神アルヴェを信仰する宗教国家アルヴェリス聖王国が独自の立場を保っている。」
「それぞれの国が独自の文化や技術を持ち、時に争い、時に協力して大陸を形作っているわ。でも……」リリアは少し言い淀んだ。「すべての国が共通して恐れるものがあるの。」
「恐れるもの?」陽大は首をかしげた。
「そう。それが『ルヴァンテールの心臓』よ。」リリアは静かに続けた。「それが一体何なのか、誰も正確には知らない。でも、すべての国がその存在を警戒し、探し求めている。」
「心臓ねぇ……。」陽大はその言葉を呟きながら考え込む。「でも、それとキーパーがどう関係あるんだ?」
「キーパーは……」リリアは言葉を選ぶように一瞬黙り込んだ。「この大陸に混乱をもたらすか、平和をもたらすかの分岐点に立つ存在だと言われているわ。」
「おいおい、なんだよその曖昧な説明は。」陽大は苦笑した。「俺が混乱をもたらす?それとも平和をもたらす?それって、まるで俺が救世主みたいな響きだけど。」
「救世主なんて甘い言葉じゃないわ。」リリアはきっぱりと言った。「むしろ、あなたが存在することで世界が破壊される可能性だってあるのよ。」
陽大はその言葉に少し背筋が寒くなった。「待てよ……俺が何をしたって言うんだよ。」
リリアはその問いには答えず、再び歩き出した。「これ以上の話は、私が教えられる範囲を超えてるわ。ただ、知りたければ自分でこの世界を見て回るしかない。」
その言葉に陽大は返すべき言葉を見つけられなかった。ただ、リリアの背中を見つめながら、この世界に来た理由や自分の役割についての疑問がますます深まっていくのを感じた。