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ヌイザガとガルド

ヌイザガは斧を肩に担ぎ、ゆっくりと陽大たちに近づいてきた。その姿は、獲物をじっくり追い詰める捕食者そのものだった。


「お前ら、俺の名前くらいは知ってるよな?」

彼は刺青の入った腕を見せつけるように斧を振り上げた。その腕には、無数の傷跡が刻まれている。


「聞いたことないな。」陽大はスパナを握りしめながら、強がるように答えた。


「ふん、まぁいい。」ヌイザガは鼻で笑った。「俺はこの辺りじゃちょっとした有名人だ。街の連中は俺を見ただけで逃げ出すか、道を空ける。」


「ただの暴力で脅してるだけじゃない。」リリアは表情を曇らせながら冷静に言った。


「脅し?それもあるな。」ヌイザガは笑いながら地面に斧を突き立てた。「でもな、俺が本当に求めてるのは強ぇ奴と戦うことだ。弱ぇ奴はただのゴミだ。見る価値もねぇ。」


「ゴミだなんて……。」リリアの眉がわずかに寄る。


「そうだよ。ゴミは踏みつけられて終わり。それだけだ。」ヌイザガは冷酷な笑みを浮かべ、陽大をじっと見下ろした。「けどな、強い奴と戦うのは楽しい。それだけが俺の生きがいだ。」


その言葉を聞き、リリアは静かに問いかけた。「それがあなたの誇りなの?力で他人をねじ伏せることだけが目的だなんて……悲しい生き方ね。」


ヌイザガは一瞬、目を細めたが、すぐに大声で笑い出した。「悲しいだと?面白ぇこと言うな!勝つか負けるか、それだけの話に余計なもんを持ち込むなよ。」


陽大はスパナを構え直し、怒りを込めて言った。「だったら、俺たちを放っとけよ!」


「無理だな。」ヌイザガの目が鋭く光る。「お前らがどれだけ弱くても、俺が興味を持った瞬間、それがゲームの始まりだ。」

陽大はちーこを抱えたまま、必死に後ずさった。


「まだやる気かよ?」ヌイザガは肩に担いだ斧を軽く振りながら、陽大を嘲笑うように見つめた。「お前の限界はもう見えちまったんだよ。守るってのは力がある奴だけができるもんだ。」


陽大は歯を食いしばり、震える手でスパナを構え直した。

「それでも、ちーこだけは……!」


ヌイザガは鼻で笑い、斧を振り上げる。「その根性だけは褒めてやるよ。でもな――それで勝てるほど甘くはねぇんだ。」


斧が陽大の近くに振り下ろされ、地面が震えるような音を立てて崩れた。

「っ……!」陽大は咄嗟に横へ飛び退くが、その衝撃で足元が崩れ、倒れ込んでしまう。


「おいおい、そんなに簡単にバランス崩してどうすんだよ。」ヌイザガはゆっくりと歩を進め、陽大を見下ろした。


リリアが杖を構え、風を纏わせる。「風よ、彼を退けなさい!」


突風がヌイザガを包み込むが、彼はその場を動かずに立ち続けていた。

「そんなんじゃ俺は止まらねぇって言ったろ?」彼は余裕の笑みを浮かべながら、風を切り裂くように斧を振る。


「嘘でしょ……!」リリアは目を見開き、呆然と呟いた。


陽大は這いつくばりながら声を張り上げる。「リリア、逃げろ!」


「逃げられるわけないだろ?」ヌイザガは冷たく言い放ち、陽大に目を戻した。「お前ら、諦めるのってそんなに難しいか?」


陽大は必死に立ち上がろうとするが、足が震えて動けない。ヌイザガはゆっくりと陽大の前に立ち、斧を構え直した。


「もう終わりだな。」ヌイザガは斧を軽く振り下ろし、陽大の手元からスパナを弾き飛ばした。


「くっ……!」陽大は反射的に腕でちーこを抱え込み、身を丸める。


「何を守ってるつもりだよ?」ヌイザガは呆れたように首を振った。「お前みたいな弱い奴が何かを守れると思ってんのか?」


「それでも……ちーこは渡さない……!」陽大は震える声で答えた。


ヌイザガは一瞬、陽大を見つめた後、鼻で笑った。「そうかよ。なら好きにしな。」


斧を肩に戻しながら、彼はリリアに目を向ける。「次はお前の番だな。」


ヌイザガがリリアに向き直り、斧を軽く振り上げた。

「魔法使いが一番厄介だからな。まずはお前を――」


その瞬間、乾いた音が路地に響いた。


「何だ?」ヌイザガが不機嫌そうに振り返ると、路地の入り口に立っていたのは、一人の大柄な男だった。大剣を片手で軽々と担ぎ、無造作な足取りでこちらに歩いてくる。


「……誰だよ、お前。」ヌイザガが目を細める。


「通りすがりだ。」男――ガルドは無表情のまま答えた。


「通りすがりが、何しに来た?」


「ちょっと、面白そうなもんを見つけてな。」ガルドはちらりと陽大とリリアに視線を向けた。「そいつらがやられるのを見てたが……正直、見てるだけで飽きた。」


「飽きた……だと?」ヌイザガの顔が険しくなる。「てめぇ、俺をナメてんのか?」


「ナメてる?いや……お前は弱そうだなって思っただけだ。」ガルドは軽く肩をすくめた。「強いやつってのは、もっと違う目をしてるもんだ。」


その一言に、ヌイザガの顔が赤く染まった。「言いやがったな……!」


「やってみろよ。」ガルドは挑発するように大剣を軽く地面に突き立てた。「俺はこの剣、あんまり使いたくないんだけどな……。」


「ふざけんなああ!」ヌイザガが斧を振り上げ、一気にガルドに突進する。その巨体が突風のように迫りくる。


だが――ガルドは一切動じない。


「……遅い。」その一言と共に、ガルドの大剣がヌイザガの斧を軽々と弾き飛ばした。


「な、なんだと!?」ヌイザガが動揺する間もなく、ガルドは間合いを詰め、その巨体を軽々と投げ飛ばした。


「うっ……ぐはっ……!」ヌイザガは瓦礫の山に叩きつけられ、苦痛の声を上げる。


「力だけで何とかしようってのは、悪い癖だな。」ガルドは冷静に呟きながら、再び大剣を肩に担いだ。「もっと鍛え直してから出直してこい。」


ヌイザガは必死に立ち上がろうとするが、ガルドが一歩前に出ただけでその動きを止めた。


「……クソッ、覚えてやがれ……!」ヌイザガは悔しそうに斧を拾い上げ、逃げるように路地を去っていった。



---


陽大は呆然としたまま地面に座り込んでいた。「おいおい……今の、見間違いか?」


リリアもまた、驚きを隠せない表情でガルドを見つめる。「あのヌイザガを……一瞬で……。」


ガルドは二人に目を向け、軽く笑った。「無事だったようだな。」


「お、おい、あんた……何者だよ?」陽大が恐る恐る尋ねると、ガルドは大剣を軽く振って背負い直した。


「ただの傭兵だよ。名前はガルド。」


「……ガルド。」陽大はその名を呟きながら、目の前の男に圧倒されるような感覚を覚えた。


「まあ、助けてやった礼は……いらねぇよ。」ガルドは背を向け、路地の奥へと歩き出す。その背中は、陽大たちの目には果てしなく大きく映った。

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