港町グランヴァリス
港町グランヴァリスは、陽大が想像していた以上に活気に満ちていた。市場では商人たちが声を張り上げ、見たこともない魔法道具や異国の果物が所狭しと並べられている。
「すげぇな……これ全部、魔法の力で動いてんのか?」
陽大は目を丸くして市場を見渡した。だが、その横でリリアは呆れたようにため息をつく。
「そんなに驚くこと?普通の道具よ。」
「いやいや、俺にとっちゃ普通じゃねぇって。」
リリアが小さく笑うと、ちーこが陽大の肩からぴょこんと飛び出した。
「リリアさん、これ、何ですか?食べられるんですか?」
ちーこが目を輝かせて指さしたのは、カラフルなキャンディのような小さな玉が入った瓶だった。
「……それは魔法の補助薬よ。食べるものじゃないわ。」
「えー!美味しそうなのに!」ちーこが拗ねた声を出すと、リリアは思わずクスリと笑ってしまった。
「本当にあなたの相棒って面白いわね。」
「まぁな。だが、子供みたいな反応ばっかりで困るんだよ。」陽大は肩をすくめながら苦笑いした。
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陽大が市場を歩きながら観察していると、ふとリリアが足を止めた。彼女の視線の先には、小さな露店があった。そこには手作りの小さな魔法道具が並んでいる。
「懐かしい……。」リリアがぽつりと呟いた。
「どうした?」
陽大が尋ねると、リリアは少し気まずそうに目を逸らした。「いえ、何でもないわ。さ、次に行きましょう。」
だが、その直後だった。
「お兄さん!助けてくれ!」
突然の声に陽大たちが振り向くと、商人風の男が壊れた計量器を抱えて駆け寄ってきた。
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「これ、どうしたんだ?」陽大が尋ねると、男は計量器を差し出して言った。
「これが動かないと、今日の商売ができないんだ!誰か修理できる人を探してたんだよ!」
「修理ねぇ……。」陽大は計量器を手に取ると、じっくりと観察した。錆びついた歯車と、魔力を通すための接続部が破損している。
「どうする?やれる?」リリアが尋ねると、陽大は肩をすくめた。「まぁ、やってみるさ。」
ちーこが興奮した声を上げた。「はるとさん、かっこいいです!頑張ってください!」
「応援するなら手伝えよ。」陽大は苦笑しながら工具を取り出した。
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修理が始まると、リリアは杖を掲げて魔力を供給するサポートを始めた。
「ここに魔力を流して。過剰にならないようにな。」
「わかってるわよ!」リリアは少しムキになりながらも、的確に魔力を調整する。
一方、ちーこは計量器の部品に興味津々で触れようとしていた。
「これ、なんですか?」
「おい、ちーこ、それ外すな!」陽大が慌てて止めると、リリアが吹き出した。
「あなたたち、まるで親子みたいね。」
「勘弁してくれ……。」陽大はため息をつきながら作業を続けた。
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数分後、計量器が元通り動き始めた。
「おお!これはすごい!」商人が歓喜の声を上げ、陽大に金貨を手渡した。
「ありがとう!助かったよ!」
「どういたしまして。これで少しは飯代が稼げたな。」陽大は報酬をポケットに入れながら、安堵の笑みを浮かべた。
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その後、三人は市場の片隅で休憩を取ることにした。リリアは小さなカップに入った冷たい飲み物を差し出し、陽大とちーこに渡した。
「ありがとうな。お前も手伝ってくれて助かったよ。」
「当然よ。私はカルドヴァ王国の研究者だもの。」リリアは誇らしげに言ったが、その口調はどこか柔らかくなっていた。
ちーこは飲み物を両手で抱えながら、リリアをじっと見つめた。
「リリアさん、さっき笑ってくれましたよね!ちーこ、嬉しかったです!」
「笑った……?」リリアは一瞬きょとんとしたが、すぐに照れくさそうに顔を逸らした。「別に、ただあなたたちが面白いだけよ。」
陽大はその様子を見て、小さく笑った。「まぁ、そういうところが可愛いってことだよな。」
「何よそれ!」リリアが少し頬を膨らませると、ちーこが無邪気に笑い声を上げた。