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リリア

陽大(はると)は崩れた塔の瓦礫の上に腰を下ろし、空を見上げていた。全身が傷だらけで、息をするたびに胸がズキズキと痛む。体を動かす気力もなく、ただ呆然とするばかりだった。


「なんでこんなことになったんだよ……。」

思わず独り言が漏れる。異世界に飛ばされてからどれくらい経ったのかも分からない。自分がどこにいるのか、何をすればいいのか、すべてが手探りだった。


「ここで倒れてるってことは、運が良いのか悪いのかしらね。」

不意に女性の声が聞こえた。陽大が振り返ると、黒いローブを纏った若い女性が立っていた。背中に長い杖を背負い、冷静な表情でこちらを見下ろしている。


「……誰だ?」

陽大は警戒心を隠さずに尋ねた。


「リリア。カルドヴァ王国の魔法研究機関に所属している者よ。この塔の異常を調査しに来たの。」

その言葉に、陽大は思わず眉をひそめた。「カルドヴァ?……なんだそれ。」


「カルドヴァ王国を知らないの?この大陸で最も広大な土地を持つ国よ。」

リリアの答えに、陽大はますます困惑した顔をした。「いや、どの国も知らないし……そもそもこの世界のこと自体、何も知らないんだよ。」


リリアは目を細め、少しだけ警戒するような表情を浮かべた。「……本当に?」

「嘘ついても仕方ないだろ。俺はただの修理屋だよ。」


リリアは杖を少し掲げながら、彼をじっと見つめた。「修理屋……?なるほど、あなたがこの塔で何をしていたか、だいたい見当がついたわ。」



---


リリアはゆっくりと近づき、瓦礫の隙間を杖の先で照らした。「この塔は古い魔法炉を利用していた施設。ルース核を基にしたエネルギー供給装置よ。でも、崩壊するなんて普通はありえないわ。」


「だから、それがどうしたってんだよ。」

陽大はまだ状況を飲み込めないまま、苛立ち混じりに言い返した。


「崩壊はルース核の不安定化が原因でしょうね。これは大災害以来、各地で頻発している現象なの。」

「大災害?」陽大はその言葉に反応した。「それ、詳しく教えてくれないか?」



---


リリアは少し考え込むように沈黙したあと、話し始めた。「大災害……。それは、この世界が大きく変わるきっかけになった出来事よ。数十年前、ルース核のエネルギーが制御を失い、大陸全体に巨大な魔力嵐を巻き起こしたの。」


「魔力嵐……?」陽大は初めて聞く単語に戸惑った。


「その影響で、多くの国が壊滅状態になり、土地の一部は今も『禁域』として立ち入りが禁止されている。さらに、この大災害の余波で、今も魔法炉やルース核の安定が保てなくなっているの。」


「……なんでそんなヤバいもんが未だに使われてるんだよ?」

陽大の質問に、リリアは肩をすくめた。「それがないと文明が成り立たないからよ。魔力がこの世界のエネルギーのすべてを支えているの。」



---


リリアの説明に陽大は少しずつ世界の状況を理解し始めたが、同時に疑問も増えていく。「じゃあ、俺が今ここにいるのって、そのルース核と関係あるのか?」


リリアは彼の顔をじっと見つめた。「それはわからないわ。ただ……この塔の崩壊にあなたが関わっているのは確かね。」


「おいおい、俺はただ巻き込まれただけだぞ!」陽大は手を上げて否定するが、リリアの目は冷静に彼を見据えていた。


「そうかもしれない。でも、あなたはここで生き延びた。普通の人間なら、魔力の暴走に巻き込まれて消滅していてもおかしくないのに。」


その言葉に、陽大は思わず言葉を失った。「……俺が特別だって言いてぇのか?」


「今はまだ何とも言えないわ。」リリアは杖を下ろし、ゆっくりと立ち上がった。「でも、あなたの技術が役に立つかもしれないのは確かよ。」



---


「で、これからどうすんだよ。」

陽大がリリアに尋ねると、彼女は迷いのない声で答えた。「交易路に向かいましょう。このままじゃあなたの体力も限界だもの。」


「おい、俺の行き先勝手に決めんなよ。」

「他に選択肢があるなら教えて?」リリアは少し笑みを浮かべながら言い返した。


「……くそ、わかったよ。案内してくれ。」

陽大は不満げに返事をしたが、リリアは満足そうに頷いた。「いいわ。じゃあ行きましょう。」

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