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第6話 二つ名持ち

「マルハスで出た『吸血山羊(ヴァンパイアゴート)』を狩った。依頼は出ているか?」


 村で馬を借りて一日。

 俺達は酪農都市ヒルテの冒険者ギルドへと訪れていた。


 この都市は周辺の村落から麦を始めとする作物、そして放牧で得られる牛乳や食肉が集まる交易都市でもあり、『王国の東台所』とも言われる場所だ。

 マルハスから出荷された未踏破地域産のあれこれも、ここへと集められる。


 そういった背景からか、ヒルテには冒険者ギルドの支部が設置されている。

 買い付けにきた隊商や行商人の護衛依頼、周辺村落からの様々な依頼などを受けるために冒険者も集まってくるからだ。


「ええと、出ていますね。最近、被害が多いらしく討伐対象になっております」

「討伐証の背ビレだ」

「この大きさは……成獣ですね。マルハスのどこで?」


 手に取った『吸血山羊(ヴァンパイアゴート)』の背ビレをまじまじと見て、受付嬢が鋭い視線を寄越す。

 どうやら()()()()()受付嬢らしい。


「村落のすぐそば、街道沿にある未踏破地域の外縁部だ。数日前から家畜被害が出ていた」

「……依頼はされていたんでしょうか?」

「いや、していないはずだ。のんきなもんでな」


 俺の言葉に、受付嬢が小さくため息を吐き出す。

 周辺の安全保障にも気を遣うべき冒険者ギルドとて、情報がなければ動きようがない。

 いろいろと苦労していそうだな。


「冒険者証を。お二人はパーティですか?」


 受付嬢の言葉に、思わずロロと顔を見合わせた。

 『シルハスタ』を抜けてから特に処理していないので、俺達二人はそれぞれがソロの冒険者という扱いになっている。

 しかし、しばらくマルハスで活動するのならば、一時的にパーティを組んでおいた方がいいかもしれない。

 ギルド的にもその方が、処理が容易だ。


「どうする、ロロ?」

「うーん、パーティってことにしちゃう? 冒険者信用度(スコア)の管理が面倒だろうし」

「そうすっか」


 二人でうなずき合い、受付嬢に向き直る。

 俺達のやり取りの間、じっと黙って待っていてくれるあたり、なかなかお行儀がいい。


「仕留めた時はそれぞれ個人だったんだが、二人で殺ったんだ。パーティ申請すれば適用されるか?」

「パーティの申請ですね? すぐにできますよ。冒険者証をお預かりさせていただきます」


 ロロと二人、首にかけた冒険者証をカウンターに置く。

 代わりとばかりに差し出された申請用紙を前に、俺は少し唸ってしまった。


「おい、ロロ。お前がリーダーだ」

「何言ってんの、ユルグでしょ。ボクはガラじゃないよ」

「俺もガラじゃねぇって。頭悪いんだからよ……」

「あの……」


 羽ペンを押し付け合っていると、受付嬢が妙に悪い顔色で俺達に声をかけてきた。


「〝崩天撃〟ユルグさん、です?」

「そうだ」


 息を吸い込んだまま固まる受付嬢。

 なんだか様子がおかしい。


「有名人だからね、ユルグは」

「俺はお前に二つ名がつかないことの方が不思議だけどな?」

「そうかな?」

「フィミアだって言ってたぞ。お前の魔法センスは異常だって」


 神聖魔法と真言魔法、扱う魔法体系の違いはあれど、やはり魔法を使う者であればロロのすごさは理解できるらしい。

 俺とて、魔法は使えなくとも、こいつの魔法の使い方がおかしいことくらい気付いている。


「低ランク魔法なら無詠唱で連射、中級魔法も詠唱短縮破棄、魔力切れも起こしたところもほとんど見たことがない。そんな魔法使い、ロロ以外に見たことねぇよ」

「ユルグに褒められると、ちょっとくすぐったいな」


 はにかむように笑うロロに、受付嬢がまたもや固まる。


「もしかして、ロロ・メルシアさん……!? 〝妙幻自在〟の?」

「? なんです、それ?」

「ご自分の二つ名ですよ? 知らないんですか?」


 焦った様子のロロが俺を見上げるも、俺だって聞いたことがない。

 というか、俺もロロもそういうことに無頓着なところがある。


「国選パーティ『シルハスタ』の縁の下の力持ち。前衛を鼓舞し、後衛の壁となる変幻自在の中衛。妙手の凄腕魔法戦士! きれいな男性とは聞いていましたが──想像よりずっと、かわいい……!」


 早口で興奮する受付嬢に、思わず一歩下がるロロ。

 そういえば、アドバンテでも男女問わず色んな奴に良く言い寄られていた気がする。

 とはいえ、ロロの実力がこうも認められているという事実は、少しうれしい。


「……と、いうことは。『シルハスタ』が来てるんですか?」

「いいや、俺達は抜けた。今はフリーの冒険者をしてる」

「抜けた!?」


 受付嬢がまたもや素っ頓狂な大声を出すものだから、周囲の視線がこちらに集まってしまった。

 最初はデキる受付嬢と思ったが、見当違いだったかもしれない。


「諸事情あってな。方向性の違いってやつだ。とりあえず、今後は俺らはペアで動く予定にしてる。パーティの申請はこれでいいか?」


 これ以上騒ぎになるのもまずいと思い、リーダーの欄に俺の名前を書いて申請書を突き返す。

 代わりに、パーティ名の欄には『メルシア』と書き殴ったが。


「あ……すみません。少し、驚きすぎてしまいました。パーティ申請と討伐達成の処理、すぐに行いますので、少々お待ちください」

「あ、ああ。頼むよ」


 窓口からぱたばたと離れていく受付嬢の背中を見つつ、小さくため息を吐く。

 まさか、こんな辺境の田舎にきてまでこんな扱いをされるとは。


「ボクの二つ名……公式登録じゃないはずだけど、誰が言いだしたんだろう?」

「さぁな。でも、二つ名のことがあれば追放もなかったんじゃねぇのか?」

「どうかなぁ……? アルバートはずっとボクのことを目の敵にしていたし」

「それもそうか。あいつはちょっと短絡的だしな」


 『シルハスタ』のリーダーを思い出して、軽く顔をしかめる。

 出会った頃はもう少し素直だったはずだが、国選パーティの話が出てからアイツは変わってしまった。

 効率を求めるというか、選民思想に染まったというか……どうも、俺達と意見がぶつかることが多くなったのだ。


「お待たせしました! パーティ結成通知書と報酬金です」

「ありがとうな。それで、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「もちろん! 何でも聞いてください」

「ここのところ、そうだな……一年間くらいの魔物(モンスター)出現推移ってわかるか?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、受付嬢の顔が小さく強張った。

 それだけで、悪い予想が進行中であると理解できてしまう。


「……増えてんだな?」

「はい、すごく。でも、調査依頼を出すための補助金が、国から下りないんです」


 眉尻を下げる受付嬢に、俺は笑って返す。


「しばらくはマルハスを拠点にしている。未踏破地域にも入っから、何かあったら情報を流す。いいよな? ロロ」

「もちろん。代わりに、ギルドでも何かつかんだら、ボクらに教えてください」

「ユルグさん、ロロさん……!」


 顔を明るくする受付嬢に、頷いて返してロロの背中を叩く。


「それじゃ、方針が決まったところでチーズを買いに行こうぜ。おばさんが待ってる」

「うん。それじゃあ、また」


 頭を深々と下げる受付嬢に軽く手を振って、俺達は冒険者ギルドを後にした。


第6話読了、ありがとうございます('ω')

お手すきでしたら、続いて第7話「ロロ・メルシアという冒険者」もお楽しみくださいませ。

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2025年1月10日発売('ω')!
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