第27話 冒険者ギルド・マルハス支部
アルバートは、檻に囲まれた罪人護送馬車で王都に運ばれることになった。
こういった問題は、本来この領の主であるヒルテ子爵が裁判官を務めるのだが、運が悪いというかなんというか……『シルハスタ』は国選パーティである。
そのリーダーが未遂とはいえ重犯罪を犯したというのはかなり大きな問題であり、王立裁判所で裁きを受けることとなったのだ。
見世物のように檻に収監されたアルバートは周囲を威嚇するようにがなり散らし、袂を分かったとはいえ少し見ていられなかった。
鼻につくやつではあったが、駆け出しのころはあんな風でなかったのに。
「未遂ですし、私も一筆添えました。死罪にはならないでしょう」
去っていく馬車を見送る俺の隣で、サランがそう告げる。
「俺があいつのことを始末しようとしていたことを、忘れてんじゃねぇだろうな?」
「殺ったら殺ったで、あなたは後悔するでしょう? 無自覚かもしれませんが、あなたは自分が思っている以上に、情のある人間ですよ」
果たしてそうだろうか。
そんなことはないと思うのだが。
「さて、望まぬ未来の布石を一つ崩したところで、次の手を打たなくてはなりませんね」
「ああ。要石の防護はフィミアと教会の連中に強化を頼んでおいたぞ」
「ええ。後で私も魔術的防御を構築しに行きます。それ以外は、これです」
手に持っていた羊皮紙の束を俺に押し付けるサラン。
ちらりと見ると、前回同様に魔物の討伐依頼票であるらしい。
「またかよ」
「こちらは、喫緊ですので、報酬額を上げてあります」
ぺらぺらと依頼票をめくって確認していく。
灰色背熊に森大蜥蜴、それに硬鱗の蛇竜まで……厄介で凶暴な奴が勢揃いって感じだ。
「フィミアさんに思い出してもらいました。大暴走で姿を見た魔物です」
「……ッ!」
「他の魔物に置き換わるだけじゃねぇのか?」
「その可能性はありますが、避けるべき要素を一つずつ潰していくのが定石ですからね」
フィミアの〈啓示〉による未来予知は、変えられる。
そもそも、あの魔法は解釈的には『神様お悩み相談室』みたいなものだと〝聖女〟が言っていた。
つまり、困ったことに対する備えを文字通り啓示してもらう魔法なのだ。
すでに、俺達は『要石の破壊』を阻止している。
うまく立ち回れば、〝手負い〟の計画を阻止できる。
……計画?
「なあ、サラン。〝手負い〟の目的って何なんだろうな?」
「魔物の考えることはわかりませんよ。なにせ、相手は人を喰う獣です。ただの食欲の可能性だってありますよ」
それはありえる。
ありえるが……その為にアルバートを唆すような回りくどい手を使うだろうか?
結界が邪魔だから利用したというのはわかるが、結界がない時でも襲ってはこなかったのだ。
「〝一つの黄金〟が本当にある可能性……は、ねぇな。じゃあ、なんで魔物どもの生息前線を押し出してる? 森の奥になんかあんのか?」
「いい着眼点ですね」
俺の独り言に、サランが返事をする。
こいつ、他にも何か掴んでやがるな……?
「やめだ、やめだ。考えるのはお前の仕事だしな。俺はこれを片付けてくる」
「わかりました。こちらもまとまりましたら、共有させていただきます。いまは、まだ推測の推測……くらいですからね」
「わかった。それじゃあ、俺は行く」
サランに軽く手を振って、馬車の轍が残るマルハスの広場を後にする。
村の外に続くその二つの線が、アルバートとの決定的に別れてしまった道に見えて、俺は小さくため息を吐き出してしまった。
◆
「ユルグさん……! いいところに!」
『新市街』に到着した俺を出迎えたのは、冒険者ギルドの『マルハス事務部長』を務めているカティだった。
よくやっているとは思うが、日々増えていく冒険者たちに完全にオーバーワークな状況だ。
「お、カティ。お前こそいいところにいた。仕事だ」
「ひーん! ユルグさんがいじめる……!」
「人聞きの悪いことを言うな。それで、そっちの用ってのは?」
「手伝ってください」
仕事を持ってきたのに、俺が仕事を手伝うハメになるとは。
これまで何度かあったことなので、もう慣れてしまったが。
「掲示板に適当に貼っ付けておけばいいだろうが」
「ユルグさんが割り振ったほうが、文句も出ないし効率がいいんですよぉー」
服の袖をつかんで涙目でこっちを見るカティ。
こんな辺境くんだりまで来てもらった手前、あんまり無碍にもできない。
しかも、今日俺が持ってる依頼票はサランにして喫緊と言わしめる依頼。
丸投げするのもなんだか気が引ける。
「わーったよ、椅子を出せ。ある程度捌けるまで手伝ってやる」
「やったー! さすが〝崩天撃〟! 話が分かる!」
二つ名は関係ないだろ。
逆に力任せに魔物を殴るのが仕事の〝崩天撃〟に書類仕事をさせようってお前の発想が信じられん。
「あ、ユルグさん」
椅子に座るなり、見知った顔の冒険者がやってきた。
中堅パーティ『サプティ』のリーダー、ドゴールだ。
「お、ドゴールじゃねぇか。ちょうどいい、仕事だ」
「え、マジすか。ちょうど探しに来たところなんで、いいンすけど」
「お前らなら灰色背熊いけんだろ? ぱっと行って狩ってきてくれ。今回は、ボーナス付きだ」
「おお、マジすか!?」
口調は軽いが確かな実力を持つヤツで、率いる『サプティ』もなかなかできる。
確実なところにこなせる依頼を振っていったほうが、早くて事故がない。
「じゃあ、それで!」
「おう。カティ、処理頼む」
「了解でっす!」
快活なカティの笑顔にドゴールが鼻の下を伸ばす。
冒険者が溢れるむさくるしい『新市街』において、受付嬢の存在は一種の清涼剤だ。
カティにしたって、うまく褒めそやすもんだから士気が高い。
もしかして、こいつって意外と有能だったりするんだろうか。
「それじゃ、いい報告をまっててくださいっす」
「おう、無理すんなよ」
去っていくドゴールに軽く手を上げてやって送り出す。
それを見た他の冒険者たちが、にわかに簡易カウンターへと集まってきた。
「ユルグさん、オレらにもお願いします!」
「いい感じのやつ、振ってくだせぇ!」
「わーったから、ちょっと待て。順番だ」
集まる冒険者の顔を見ながら、俺は依頼票を順番にめくった。






