たかし、お散歩する
転生してから3年。邸の暮らしにも随分と慣れてきた。
昨日3歳の誕生日だった僕は最高のプレゼントを貰った。
「うわ―!ここが今日から僕の部屋かぁ」
僕は大手を振って喜ぶ。
ロココ様式の家具が揃えられており、荘厳な雰囲気である(僕の好みではないのだけれど…)
そんな雰囲気に似つかわしくない絵画が壁に飾ってある。大陸の一部の地図絵画だ。こども部屋のインテリアを決めるときに、ベトリットとファリーンに我が儘を言って買って貰った。
駄々を捏ねるなんて前世からの人生以来初めてかもしれない。何たってこの絵はディルーン帝国全土の地図だ。首都フローラリアを中心に東西南北4つの都市を伯爵貴族が管理している。父の管轄は南のアンスという沿岸都市だ。
漁業や貿易が盛んに行われており、港には多くの市場がならぶ。町は綺麗で美しく、観光客や旅人がよく立ち寄っていく。つまり全体的に賑やかな都市なのだ!
父、ソーンヴァーの子孫はアンスの豪商だった。そこから紆余曲折を経て都市を築き上げていき現在の地位に経っているわけだ。
ソーンヴァーは酒に酔う度に「時代が違ってたら私は王になっていたんだ。あ、この話は皇帝に内緒ね。ガハハハ!」と冗談を言って屋敷内の空気を凍りつかせている。
というわけで僕の1日はここから始まる。
「オハヨーございまーすソーナー様。お召し物をご用意いしますね☆」
彼女はマルグレッド。今春から僕の世話係りをしているメイドだ。
身の回りの世話だけではなく、母国語も教えてくれる。
元気が良くて快活で僕の心を明るくしてくれる存在だ(正直いうと好きです付き合って欲しい)
「朝食の準備を致しますね☆」
着替えの介助をした後に、食事が乗ったトレーをテーブルまで運ぶ。
今日の朝ごはんは…パンと豆のスープだ。
食事を口にすると前世の食べ物が恋しくなってくる。この国の食文化にも早く慣れないとな…。
「ソーナー様、この後はお散歩の時間ですね。マルグレッドはとても楽しみです♪」
(あぁ、僕は幸せだぁ…はっ!?)
扉の方から鋭い視線を感じる…恐る恐る振り返ると。
覗いてたのはオンドルマールだった。
「…おはようオンドルマール。授業は散歩の後でしたよね?」
「ぼっちゃま~、お父上に授業の時間を増やしてくれないかと打診したのですが…彼はどうしても首を縦に振ってくださらないのです。ぼっちゃまも魔法の素晴らしさはご存じでしょう?散歩の時間も大事ですが、あなた様はここで一生を終えるには惜しい人材なんです!そうだ!これから私と一緒にリュネルの森でドラゴンを討伐しに行きませんか!?あなた様ならうんたらかんたら…」
オンドルマールは宮廷魔術師だ。理由は解らないが
邸で働いている魔術師はみな宮廷魔術師と呼ばれている。彼らを雇いたい時は北の魔法都市マギアの魔術師ギルドを利用すると、ギルドが選りすぐりの魔術師を派遣してくれるのだ。彼らの仕事は魔法の指南、呪いの研究、錬金術、占いなど多岐に渡る。
オンドルマールは初代シルバーブラッドの時からの仲だ。そこまでいったらほぼ家族である。齢3桁歳は行ってるがその姿は2~30代くらいと若々しい。エルフは種族の中で最も長命なんだってさ。
この邸の実権を握ってるのはソーンヴァーではなく彼なのかもしれない。
「オンドルマール、魔法は素晴らしいけど散歩の時間もそれと同じくらい大事なんだ。僕から散歩の時間を奪わないでおくれよ」
「おぉ…ぼっちゃま。3歳とは思えない程の流暢なお言葉!しかし私は諦めませんぞ!では授業の時にお会いしましょう!」
(やっと行ってくれた…)
僕の魔力量が膨大なのはアズラのお陰である。
通常、体外から放出されて空になった魔力は大気中に漂う魔力を取り込んだり、薬等で補充する。しかし僕の場合は体内で魔力が自然生成されており、膨大な魔力が体内を循環してるお陰で魔力が尽きない。つまり魔法が撃ち放題なのだ。因みに発見したのはオンドルマールである。こう見えても魔術師の腕は確かなのかもしれない。
おっと、貴重な散歩の時間が割かれてしまう。
「マルグレッド、お散歩いこ!」
ずっと何かを言いたげな表情だった彼女の顔がパッと明るくなった。
「はい、ソーナー様♪」
僕たちは庭園へと向かった。