母の提言
わたしがシルバーブラッド家に嫁いでから2度目の秋を迎えた夜、人生で最高の山場を迎えていた。
「痛い――――――!」
淑女がみっともない悲鳴を上げながら痛みを堪えている。陣痛が来てから半日、痛みは最高潮に達していた。
「奥様、頭がでています!もう少しですよ!」
侍女のファリーンが出産の介助をする。
もう少しでこの苦痛から開放される。あともう一息!
「オギャー!オギャー!」
「おめでとうございます奥様。元気な男の子ですよ!」
「頑張ったなベトリッド!」
ファリーンが抱えた息子をわたしの腕の中に寄せてくれた。
黒い髪、父親似であることは一目で分かった。
「あなたにそっくりになるわね」
「でも目の色はお前に似てるな」
名前は事前に決めていた。男の子ならソーナー。女の子ならリズベットである。
「ソーナー、わたしのかわいい息子。これからよろしくね」
抱きしめるとさらに愛おしくなる。
「おい!ソーナーの様子がおかしい!」
主人が慌てて叫ぶ。
息子が泡を吹きながら痙攣している!
「ソーナー、どうしたの!?」
必死に呼び掛けるが、息子の顔はみるみるとうっ血していく。
(神様、お願いします…)
自身の無力感に絶望しそうになりながらも、必死に女神フローラに祈った。
すると、ソーナーの身体が白く発光した。いや、よく見ると身体からではなく、小さな手から発しているようだ。
(これは一体…ソーナーはどうなって…あぁ)
発光が消えると、ソーナーは何事も無かったように落ち着いている。
「オンドルマール、一体どういう事なの?」
わたしは宮廷魔術師に助言を乞う。
「御子息の具合から考えると窒息か、あるいは心臓の病によるものが原因です。それよりも先程の光…治癒魔法の光ですが、死の縁から生還させる程の強力な魔法を見たのは初めてです!」オンドルマールはやや興奮しているようだ。魔法の事となると、彼は見境が無くなる。
(これは奇跡ではなく、息子自身の力…この子は、もしかしたら…歴史に名を轟かせる偉人になるかもしれない!)
「シルバーブラッド卿!是非とも御子息の教育係りを私めにさせてください!将来立派なアークメイジにしてさしあげましょう!」
「いや、時期領主になるんだから必要ないだろ」
「しょんなぁ…」
憐れ、オンドルマールの野望は一瞬で潰えた。