たかし、赤ちゃんになる1
その先は真っ黒な世界だった、と感じるまもなくして場面が切り替わる。薄暗い部屋のような場所だ。
瞬時に場面が切り替わるから僕の思考が追い付かない。場面の切り替えが終わった事を確認して、自分の状況を確認する。男女の喜ぶ声と赤ん坊の泣き声が耳に入る。
(人の声が聞こえる!)声のする方に目を向けようとするが、身体が思うように動けない。それと赤ん坊の泣き声。これ僕が発しているんじゃないか?
視界がぼやけて何が何だかわからない。僕は出来る限りの力で状況を把握しようとする。
(巨人…?巨人達が代わる代わる僕を抱えて運んでいる?)巨人らしき者は聞き慣れない言語で発話している。そして僕はふかふかした感触の場所に置かれた。ぼやけた視界の目の前に女性らしき巨人が横たわっている。何を言っているのかわからないが優しく語りかけてくれている事は理解出来た。それと同時に自分が置かれている状況も何となく理解した。
(赤ん坊になってるんだ)
アズラにこの状況を説明してもらおうと、彼女の名を呼ぶが、無情にも声は言葉にならず、産声だけが響いていた。
彼女の声は聞こえない。その後数分くらい立って、僕はこの赤ん坊に転生したのだと気付いた。
察しの悪さに嫌気がさす。(ついさっきアズラから説明されたばかりじゃないか。いやでも、この短時間でこんな奇跡を何度も見せ付けられたら人は思考を止めたくなるんだよ!)僕は今の心境を誰かに伝えたくて仕方ない気分だった。
アズラの説明を思い出す。(この赤ん坊は生まれて直ぐに死んでしまう運命にある)
いつ何処でどの様な死に方をするのか説明は無かったが生まれて直ぐに死んでしまうらしい。
(そこはきちんと説明して欲しかった、聞かなかった自分もアレだが、重要な事は言わないタイプの神様らしいやれやれ…やれや…あれ?)
何だか胸の辺りが苦しい。
(息が出来ない!胸が苦しい、というか痛い!意識を失いそうだ)大人達の慌てる声が聞こえてくる。(このままでは良くない気がする…何とかならないのか、どうにかしなければ…どうにか…!)その時、視界が白く光る。同時に胸の痛みがみるみると治っていく。
(呼吸が出来る…助かったのか?胸の痛みを取り除きたくて踠いていたら、突然光って…。これが魔法なのだろうか…。)
光は胸を押さえている自分の腕から発していた。
胸の痛みから解放されて落ち着きを戻すと、倦怠感と強い眠気を感じてくる。大人達の喜ぶ声が聞こえる。
(これからの事は起きてから考えよう)
僕は心地よい眠気に身を任せる事にした。