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たかし、暴露する

僕は新入生歓迎会に向けてダンスの特訓をしている。ソーンヴァーにダンスの講師を頼んだら意外とあっさり了承を貰えたのだ、僕は月曜から金曜の午後3時から2時間みっちりと練習してダンスの腕を磨いている。

「お疲れさまでした。今日の練習はここまでです」

(やっと1日が終わった…)

この頃、入学に向けて勉強、練習、練習で忙しい日々を送っている、妹と顔を合わせられなくて寂しい。

(まぁ、それはそれとして…)

夕食の後はマルグレットと一緒に過ごせる。

その間が唯一の癒しだった。

「今の教育係はどうですか?」

オンドルマールが暇なのか、広間の入り口で立っている。

彼は僕を危険な場所へ連れ出したとして、教育係の退任と接近禁止令が出されたのだ。

「…ねぇ、ブランディルの事だけどさ、昨日あのまま街の外へ返しちゃったじゃない?」

「あぁ、彼にはまだ使い道がありますからね。何処かで野垂れ死にしないように、見張ってないといけません」

見守っているなら良い、何故か彼の事は放っておけないのだ。

「この前、彼に聞いたんだ。下水道にあった山のような死体を1人でどうやって調達したんだって。あの死体はもともと下水道にあったものだって言ってた。廃鉱山で死んでた野良ネクロマンサーの手記を読んでみたら。死霊術師の集団がアンスに潜伏していた記録があったから、自分もそこに参加しようと思っているって。もしかしたら…」

「ぼっちゃま」

話を上手く纏められない、オンドルマールが話を遮るように喋りはじめる。

「ここから先は我々大人達の仕事です。貴方は事件の事はもう忘れて、学園に向けて鍛練を怠らないようにしてください。くれぐれも王女の前で粗相のないように」

この件には関わるなという事か。

「地元が危ないかもしれないのに…悠長に勉強なんてやってられないよ」

「大丈夫ですよ。それにこの件は魔法協会とも因縁があるので、私が必ず解決してみせます」

今はオンドルマールを信じるしかない。

彼の性格は良く分からない。

昔は、ぼっちゃま~とか言いながらすり寄ってくる気色悪い人だったけど、今はサバサバしているというか、何か僕に対する扱いが明らかに変わっている。

「…信じてるからね」

「ぼっちゃまも魔法協会から目をつけられないように気を付けてくださいね、あの組織は魔法の事となると正常な判断が出来ない魔法馬鹿集団ですから」

「う…うん」

最後に意味深な事を言われた気がするが、特に追及する事なく彼と別れ、自室へ向かった。


最近、夕食はマルグレットと一緒にとる事にしている。

1人で食べるより、好きな人と一緒の方が寂しくない。

(最近、家族とご飯を食べていないな…去年の誕生日の時でさえ普段通りの食事だった)

この世界では一定の年齢になったら1人で食事をとる習慣があるのだろうか。

「ソーナー様、難しい顔をしてどうしましたか?」

対面に座っていたマルグレットが心配そうに問いかける

「うん、あぁ…最近家族と食事をとれてないなって考えてたんだ。どうすれば皆で食事をとれるかなって思って」

「それは殊勝な事です。そういえばマルグレットの友人は狩猟が趣味で、天気の良い日はよく家族で狩りをしているそうです。狩った動物は父親が捌いて調理して、家族に振る舞っているそうですよ」

「それだ!」

家族でレジャーに出かけるのだ。そうと決まれば情報収集をしなければいけない。

「あ、でもソーナー様、確かお母様は…」

「え、お母様がどうしたの…?」

「ベトリット夫人は女神フローラの信徒です。それも最も厳しい宗派の…」

(しまった、教義か…)

フローラは自然や動物を守護する女神である。

宗派によって違うが、女神が守護する動物達を狩ったり食べたりする事を禁じている所もある、魚も例外ではない。

「狩りは駄目だ、別の方法を考えなければ…」

「ではお茶会はどうでしょうか?」

「お茶会か、それならいけそうだ!」


「主殿!」

突然、ムルシュが扉を勢いよく開けて入室する。

「うわぁびっくりした!ていうかまだいたの君ぃ!?」

召喚魔法は一時的な契約の為、ディルーンに留まっていられるのは長くても半日程度なのたが、何故か彼はこの世界に留まり続けている。

服を仕立て直して貰ったのか、使用人服をしっかりと着こなしていた。

女性用の服を…。

「突然の入室をお許し下さい。ソーンヴァー様がお話があるそうなので、夕食を終えたら応接室に来るようにと」

「お父様が?わかった、食べ終わったらすぐ行くと伝えておいて」

「承知、では失礼いたしました!」

僕は夕食を済ませてから、執務室へ向かう。

中ではソーンヴァーとイグマンドが仕事の話をしていた。

「お父様、失礼します」

「おぉソーナーか、中に入りなさい」

ソーンヴァーは毎日仕事している。

朝から晩まで執務室の机に座って書類を眺め、時々誰かと話をしている。

でもたまに僕や妹、ベトリットの事も気に掛けており、家庭に感心が無いわけじゃないとも感じられる、きっとそれがソーンヴァーにとっての父親像なのだろう。

「お父様、先に僕の話を聴いて貰えませんか?」

「なんだ、どうした?」

僕はオンドルマールの研究室で話した事を説明した。

王族とコネを作ろうとしている事、学園を卒業しても家の仕事をするつもりは無い事を。

ソーンヴァーは頑固な所はあるが、話し合いは出来る人だ。

説明を終えると、ソーンヴァーは眉を潜めて黙ってしまった。

「…やはりオンドルマールは早々にクビにすべきだった。おまえは奴の悪事に染まりすぎている」

否定出来ない。でもソーンヴァーが選択を見誤った部分もある。

「王族と橋渡しが成功すれば損は無いと思います。将来、孫が王位継承権を得られる可能性だってあるかも」

わからんけど…とりあえず良い事を述べておく。

「勝算はあるのか…?奴は何て言ってるんだ」

「学園のパーティで王女とダンスをしろと…」

「成る程、それでダンスの講師か…おまえはそれで良いと思っているのか?奴の思惑に流されていないか、もう一度よく考えてみてみなさい」

流され気味なのも否定出来ない。

オンドルマールの思惑の先に何が待っているのか、検討も付かないが、これは僕の意思でもある。

「僕なら出来ると考えたのでしょう。オンドルマールは胡散臭い奴ですが、僕もこの作戦を成功させたいと思っているんです」

「ソーナー、上昇志向があるのは感心するが、地位の向上は並大抵の努力では不可能だ。それに地位が高くなる程におまえは死に近づく事になる。陰謀、裏切り、暗殺。少しでも気を緩めれば貴族の暗部に取り込まれ正気を保てなくなるぞ、それでも良いんだな」

やはりソーンヴァーはこの作戦には乗り気ではない、むしろ本気で止めたがっているように感じる。

陰謀論や強迫で言いくるめようとしてくる。

だが、ここで引くわけにはいかない。

「構いません。僕は本気です」

構わない。ここで一生を過ごす事になったらアズラの布教は不可能になるだろう。

出来れば穏便な方向で布教を広めたいところだが…女神が僕を信じて託してくれた特別な能力がある、出来れば期待に応えてあげたい。

力はまだ使いこなせていないけど。

「…10年待ってやる。それまでに王に謁見出来なければ、おまえをこの家の後継者として働かせる」

「あ、ありがとうございます!」

限定付きだが了承は貰えた、これで堂々と動く事が出来る。

「ソーンヴァー、あんたは今の地位に甘んじてるが、息子の出世欲はあんたの親父さん以上だな。ソーナーは大物になるぞ、俺が言うんだから間違いない!」

イグマンドがソーンヴァー以上に誇らしげだ。

褒めてるんだか貶してるんだかよくわからない。

ソーンヴァーは、その話は止めろと手を横に降るジェスチャーをする。

「何処に息子を死地に追いやる親がいる。娘だって普通は上流貴族に嫁がせるのも気が引けるものだぞ」

「ソーナーぼっちゃん、おまえが進もうとしている道は棘道なんて生易しい物ではない。闇の道だ、少しでも足を踏み外せばもう後戻りは出来なくなる。それを肝に命じておけよ」

肝心の台詞をイグマンドに取られてしまったソーンヴァーは少し呆れていた。

僕は分かりました、と返事をして自室へと戻って行った。

「本当にこれで良かったんですかぃ?」

「…ソーナーはまだ6歳だ。世間もなにも分かっていない子どもなんだ…なのに、何故か息子の言葉に心を打たれてしまった。息子は馬鹿だが私も相当な親バカなんだろう、あいつに少し期待してしまった」

「別に、普通の感情だと思いますけどねぇ」

はっ、とここでイグマンドが我に返る。

「ソーンヴァー、明日の予定!」

「しまった!」

かくして、ソーナーは明日から叔父家族と鹿狩りに出掛ける事になった。

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