魔術師の提言
魔物討伐は完了した。この件はネクロマンサーが絡んでいる事は予想していたが、主犯が少年1人だとは思わなかった。夥しい数の死体を何処から調達してきたのか、何故目立つ場所で実験を繰り返していたのか。
聞きたい事は山程あるが、全て聞く時間は無い。
「ブランディル·トレヴァンニとは本名なのですか?」
魔術の名門、多くの魔法の功績を残しているトレヴァンニ一族は既に没落している。もし直系の生き残りだとすれば、こいつを牢獄に閉じ込めるのは惜しい。
「親父の日記がある」
少年は、鞄から1冊の本を取り出した。
拝借して読んでみると、内容は真実のようだ。
「何時から持ち歩いてるんだ?」
「ずっと前から持ってたよ。俺様を売り飛ばした男爵にパクられた事もあったけどよ。戻って取り返してきたんだぜ」
信憑性は高いが…まだ確証はない。こいつの処遇をそろそろ決めなければならない。どうしようか考えていると。
「そこのガキ、お前の体内魔力どうなってるんだ」
「あ…僕?分からない。生まれつきなんだ」
これは驚いた、魔力を可視化出来るらしい。だとすれば少年の潜在能力は高い。直系なのも強ち間違いではないのかもしれない。
「よし決めた。君を私の弟子にしましょう」
「……?」
2人とも唖然とした顔をしている。驚くのも無理はない。私は安心させるように言い聞かせる
「大丈夫です、私があなたの潜在能力を限界まで引き出して差し上げしょう」
少年に魔法の才能があろうと無かろうとも使い道はある。
「その必要は無いぞオンドルマール」
横槍を入れられ、思わず声がした方を睨んでしまった。見れば執政が兵をゾロゾロ連れてやって来たではないか。
「市民から爆発音が聞こえたと通報があってな。」
あぁ…フロア内に結界を張っていたが、音までは誤魔化せなかったらしい。
「2人とも、領主様が話したい事があるそうだ。後は俺が引き継ぐよ」
「イグマンド、この子はどうなるの?」
ぼっちゃまが執政に問いかける。歳が近いからか、気になるのだろうか。頼むぞイグマンド。
「…裁判の準備が出来るまで投獄ですかね」
投獄…この近くならシルヴァンディ要塞か。
これ以上は情報を引き出すのは難しいだろう。
今は諦めて、後で情報収集しておこう。
「ぼっちゃま、私のせいで迷惑をかけて申し訳ございません。お父様の所まで帰りましょう」
「全然謝ってる態度じゃないでしょ。帰る道すがらに言い訳でも考えておこうよ」
大丈夫ですよぼっちゃま、私があなた様を導いて差し上げますから。短命のあなたはこんな地方都市で一生を終えるべき人ではありませんから。