たかし、初めての魔物退治2
どこかで合流したのか、3体のゾンビが同時に向かってくる。
「こ、これでもくらえ!」
僕はゾンビに向けてアイスストームを撃ち込む。
ゾンビの身体を凍らせて動きを鈍らせる。
そこへオンドルマールがサンダーボルトでトドメを刺す。
僕が範囲攻撃で動きを鈍らせ、オンドルマールが単体攻撃でトドメを刺す段取りだ。
どちらとも決めずに自分の役割をこなしていく。お互いに息があってきている気がする。
「ぼっちゃま、少しペースをあげましょう」
オンドルマールは理由も言わずに足早に進んだ。
「あ、待って」
僕も急いで彼に着いていく。
「何故急ぐのですか?」
「生命探知の魔法にもう1人の反応がありました。遭難者か、あるいはネクロマンサーの可能性があります」
(ネクロマンサー…死体を操る人か)
死霊術は死者を冒涜する行為だとして、法律で禁止されている。
もし、このゾンビ達がネクロマンサーによって殺められた罪の無い人達だとしたら、逃げられる前に捕まえなければ。
僕たちは急いで反応があった場所へ向かった。
「ま…待って、もうちょっとゆっくり…」
子どもの足では大人に着いていくのは一苦労である。
「もう少しですよ」
通路を抜けると、開けた部屋に出た。
そこは出入口を繋ぐエントランスホールのような場所だ。辺りを見回すと死体がそこら中に転がっており、思わず目を背けたくなる光景が広がった。
(ひ…ひどい)
「上です!」
彼が指差す方向を見ると、出口へ向かって梯子を登っていく人が見えた。そしてその人(仮に"梯子の人"と呼称する)に向かって躊躇なく雷撃魔法を放ったのだ。
雷撃をまともに喰らってしまった梯子の人は梯子から手を離してしまい、結構な高さから落下してしまった。
「ちょ、大丈夫!?」
「ぼっちゃま、危険です!」
僕は慌てて安否を確認しに行こうとするが、行く手を遮られる。
「いててて…」
梯子の人はゆっくりと立ち上がった。良かった、骨折などはしていないようだ。
汚れたシャツに麻のズボンを履いている。そして背中には髑髏の装飾が付いた禍々しい長杖を背負っている、10歳前後のダークエルフの…少年!?
(えっ、子ども?どうしてここに、遊んでて迷子になったのかな)
僕はどこからどうみても、僕と同世代くらいの少年と対話を試みた。
「良かった。大丈夫?頭打ったりしてない?」
少年は僕を見つめた…というより睨み付けているようだ。
「うるせー!余計なお世話だ!」
梯子の少年は何か文句を言いたいようだ。僕はまだ察してなかった。
「ど…どうしたの?」
「俺様の研究を邪魔しやがって!守衛に突き出すなら2人とも殺してやる!」
梯子の少年が背中に背負っていた杖を持ち、頭上に掲げた。髑髏が黒く発光すると周囲の死体が次々と起き上がる。人だけじゃない、動物の死骸も含めて大勢いる。
「俺様はブランディル·テルヴァンニ!独自に開発した死霊術の杖でこの世界を支配してやるぜ!」
そこでようやく僕は気が付いた。
「君、ネクロマンサーなの!?」
「物量作戦ですか。一端距離を起きましょう!」
僕達が行動を移そうとした矢先に、突然ブランディルが叫び声を上げた。
「おい!何やってんだお前ら!」
起き上がった死体群が背中を向け僕たちと反対方向へ歩き始める。思念が残っていたのだろうか、大量の死体を制御させる為の魔力が足らなかったのか、術者を襲い始めたのだ。
「こっちに来るな!何なんだよこれ!」
持っている杖で振り払おうとするが、彼らの歩みは止まらない。死者の集団にとうとう壁際まで追い詰められてしまった。死体がブランディルに掴みかかる
(考えてる時間は無さそうだ!)
僕は両手を頭上に目一杯高く翳した。
騒がしかった下水道内がひっそりとしている。
死体はみな氷漬けになり、動かなくなった。掌に魔力を有りっ丈に溜めて爆発させたのだ。
「ブリザード…ぼっちゃま、達人級の魔法をこの若さで習得したのですか」
オンドルマールは声を震わせている。
「オンドルマール、大丈夫ですか?」
「えぇ、魔法壁を使わなきゃ私まで氷漬けになるところでした」
「ご、ごめんなさい!」
またやってしまった。目の前の事に夢中になり、周りが見えなくなるのは前世からの悪い癖だ。
「構いませんよ。それに…死霊術の少年も死体が壁になってくれたお陰で無傷のようです。運が良い人ですね」
死体が崩壊して、ブランディルの姿が見えた。
驚いた事に死体だけが氷漬けになってくれたようだった。一か八かだったけれども上手くいったようだ。
「良かった…」助けられた事に安心して、気が緩んでしまった。
「ち…チクショウ…」
ブランディルは観念したのか、床にへたり込んでしまった。ともあれ、魔物退治は無事に完了したのだ。