たかし、死す
児島たかしは30歳の独身男性である。
閑静な住宅街の一角に、父と母の3人で暮らしている僕はサービス業界で働いている。
子どもの頃は友達の喜ぶ顔が見たい為に、おこづかいで買ったお菓子を分けてあげたり、玩具をよく貸してあげていた。
喜ぶ顔が見たいという自己満足感に浸っていたのだ。
良いことをすれば自分に返ってくる事を信じて、ボランティア活動をやってみたり、信心深い訳でも無いのに日曜礼拝に参加してみたり。
それと人を疑う事も少なかった。お金に困っている知り合いにお金を貸したら、逃げられてしまった。
両親には呆れられたけど良いんだ。本当に困っていたなら、助けになる事が出来たなら満足なんだ。
助けを求める人がいたら、僕は自分の命を懸ける事もできる...と思う。
川沿いにある閑静な住宅街。その一件に住んでいる男性、名は児島たかし。
日曜日の昼、僕はお昼の時間を楽しむため近所のコンビニへ向かう。川岸を歩いてふと川沿いを見ると、バシャバシャと水しぶきが飛んでいた。
「魚か…?」と最初は思ったが、次の瞬間に人の両手が水面から出てきた。
「人が溺れている!」たかしは直ぐに理解した。(今なら手を伸ばせば届く距離だ!)
たかしは一目散に土手を下り、川沿いまで駆け寄るが…無情にも水しぶきは対岸の方へと流れてしまい、どうする他もなくなってしまった。
(通報は間に合わない!スマホで検索も間に合わない!泳げる道具もない!周りに人はいない!だったら…)
「飛び込むしかねぇ!!」
僕は躊躇なく川に入っていく。秋の終わり頃の水は冷たく、身体が水に触れる事を拒んでいるようだ。しかも途中で深溝に足をとられてしまう。どうにか体勢を建て直し、水しぶきの正体を右脇に抱える。そして左手で水を掻きながら岸の方へ泳いだ。(意外と何とかなりそうだ…。)
5歳くらいの子供だろうか?浅瀬の岩に少年(少女かもしれない)を乗せることが出来たが、ここで想定外の事が起きる。もう泳げる体力が残っていなかったのだ。僕は踠く事も出来ず流されてしまった。
児島たかし(享年30)