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幼馴染登場はテンプレ

「はあ、ひどい目にあった」


「あら、なかなかよかったわよ。無難でラインらしかったわ」


「褒めてるのか...それは?」


 クレア理事長のサプライズという名の嫌がらせにより、ラインは新入生代表挨拶を行った後、こぼれるため息を抑えきれなかった。

 そんなラインに、まったく嬉しくない賛辞をリアラは送った。

 今は、入学式を行った講堂を後にし、新入生が各々のクラスに向かっている最中だ。


「それにしても、あの理事長はあなたが困っていて随分嬉しそうだったけれど、知り合いなの?」


「...一応知り合いではある。まあ、正確には爺ちゃんの知り合いだけど。昔の同級生だったらしい」


「ああ、グランと知り合いなのね...ん?でも、グランはもう九十歳を超えているわよね...。じゃああの理事長先生は...?」


「死にたくなかったらその口は閉じたほうがいい。クレアさんの前で年齢の話は禁句だ。リアラもわかってるだろ?スキルレベルによる不老効果を」


「ああ、なるほどね。グラン...あなたの祖父も見た目には一切年を取らないものね。わたしさまが五千年見た目が変わらないのもそのおかげだし」


「レベルⅡ以上のスキルを持つ人間は次第に老化が緩やかになり、レベルⅣ以上のスキルを持つ人間は完全に老化が停止するからな。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だけど。ずっと全盛期の状態を維持できるらしいな。まったくうらやましい限りだ」


「...本当にそうかしら」


 そう言うリアラの横顔からは、何の感情も読み取れなかった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 スキルレベルというものがある。

 例えば、同じ剣術スキル保持者でもレベルⅠだと、基本的な体捌きや剣筋に無駄が少なくなり効率的な動きができるようになるだけなのに対し、レベルⅡになれば自身だけでなく、相対した剣士の歪み、剣筋のズレが分かるようになり、その辺に転がっている木の枝でも戦うことができる。

 レベルⅢにまでいくと岩を真っ二つにし、レベルⅣは大地すら切り裂くらしい。


 スキルレベルは、『魂の器』と紐づいている。

『魂の器』とは、簡単に言えばその人間が抱え込めるスキルの許容量だ。

『魂の器』が広いと多くのスキルを習得でき、『魂の器』が深いとより高いスキルレベルへと到達できる。

『魂の器』の広さと深さは、生まれた瞬間から決まっている。

 今のところ、後天的に『魂の器』が変化したという話は聞いたことがない。


 少しして、ラインとリアラは目的のクラスにたどり着いた。

 入口の扉の上には、『一年C組』という立て札がかかっている。


 ガラガラッと少しつっかえる引き戸を開けて教室に入ると、どこか懐かしさを感じるような木の香りがした。

 教室内は半分程度の席が埋まっている。

 特に指定はなく、どこに座ってもよさそうだ。

 後方と窓側の席は全て埋まっていたから、ラインとリアラは廊下側の中央あたりの席に座った。


「あんた!やっと来たわね!」


 ふうッと一息つこうとすると、いきなり机をたたかれ強い口調で話しかけられた。

 静謐な水面のように深い青髪とは裏腹に、目の奥に炎のような怒りをたたえた美少女だった。

 起伏に乏しい華奢な体躯と、感情の激しさの不一致さが印象に残る。


「え、アンリか?なんでこのクラスに?」


「べ、別にいいでしょ!入学試験で変に緊張して実力を出せなかったとかじゃないから!あんたこそ、なんでこのクラスなのよ!」


「そんなの聞かなくてもわかってるだろ?実力だよ実力」


「...そろそろわたしさまにも紹介してくれない?」


 視線を向けると、リアラは少しむすっとした顔で頬杖をついていた。

 その妙に人間らしい仕草に、ラインは少しクスッとした。


「ああ、悪い悪い。こっちはアンリエッタ・グレイス。先々代勇者のグレイス家の長女で、レベルⅣの剣術スキルを持ってる。俺の幼馴染。で、アンリ、こっちはリアラ。教会の孤児院に昔いたんだけど、資金難で潰れちゃって行く当てがなかったからうちで預かってる」


 孤児院云々の話はもちろん嘘だ。

 リアラが魔王だなんて馬鹿正直に説明するわけにはいかないからな。

 まあ、今のリアラは『覇気(オーラ)』がなさ過ぎて冗談で流されそうではあるが。


「ご紹介に預かったリアラよ。これからよろしく頼むわ。一つ聞きたいのだけれど、アンリエッタさんはレベルⅣのスキルを持っているのになぜこのクラスにいるのかしら?それとも本当のクラスは違うの?」


「アンリでいいわ。よろしくねリアラ!...で、私がこのクラスにいる理由は、えっと、そ、そう!そこのラインと闘うためよ!!」


「えっと...先ほどの会話を聞く限り、アンリはラインがこのクラスにいるということを知らなかったように見えたけれど...それに、闘うだけなら他のクラスでも...ああ!アンリはラインに会いたかったのね。照れ隠しで初めて知ったような素振りをした。どう、当たってる?」


「な...な...ち、違うからぁぁぁッッ!!!」


 ボンッと顔を茹蛸のように真っ赤にし、目にもとまらぬ速さでアンリは教室を飛び出していった。

 ラインは額に手を当ててため息をつく。

 リアラはその様子を見て意地悪くケラケラと笑っていた。


「はあ、あんまりアンリで遊ぶなよ...。あいつ冗談抜きで強いんだから」


「あら、あなたはアンリからライバル視されているようだったけど?」


「昔の話だ。あいつも今やレベルⅣ。この学園でも間違いなくトップクラスだぞ?敵対なんてしたくない」


「ふーん...でもそれならなぜこのクラスにいるのかしら?()()()()()()()()


「さあな?ただあいつは昔から緊張で実力を発揮できないタイプだったから、それが原因かもな」


「アンリを随分買ってるみたいね」


「そりゃあな。レベルⅣなんて滅多にお目にかかれない。実力順でSからCにクラス分けされるこの学園でも普通なら余裕でSクラスだろう」


「ふふ、なんだか楽しそうね」


 リアラがラインの頬をつついた。

 どうやら、気づかないうちに口角が上がり笑みの形を作り出していたらしい。


「ようやく来たって感じだからな」


「もしアンリと闘うことになったら勝てる?」


「は、冗談言うな。......勝つしかないだろ?俺たちは」


「それもそうね」


 リアラはひどく楽しそうに肩を揺らした。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 アンリも教室に帰ってきて数分後、教室前方の扉がガラガラと開き、一人の女性が入ってきた。


 特徴的なのは白衣を着ていることと、目の下の隈だろう。

 身嗜みに頓着しないタイプなのか、整えたら綺麗であろうブラウンの髪はぼさぼさで、生気のない眼鏡越しの瞳は、端正な顔立ちを台無しにしている。

 その手には、折りたたまれたA3サイズぐらいの用紙を持っていた。


「あぁ...全員いるな。私はエレイナ。気軽にエリちゃん先生と呼んでくれ」


 一瞬、教室を静寂が包んだ。

 聞き間違えか?

 気だるげな声が聞こえてきたのは想像通りだったが、その声のトーンで違和感しかない言葉がぶち込まれた気がする。

 返事がない様子を変だと感じたのか、エレイナは首を傾げ、再度口を動かす。


「エリちゃん先生と呼んでくれ」


 ブフッと後方から噴き出すような声が聞こえた。

 ちらりと背後を見やると、リアラが机に突っ伏してプルプルと肩を震わせていた。

 耳を澄ますと、「メンタル化け物なのかしら...」と呟いている。


 少しして落ち着いたのか、顔を起こしたリアラは背筋を正した。


「エリちゃん先生、自己紹介をありがとう。私は、リアラ・アズベルグ。これからは親しみを込めてリアちゃんと呼んでくれて構わないわ。それでは続きをお願い」


 リアラがそう言うと、先ほどまで生気がなかったエレイナの目に少し優しさの色がこもった気がした。


「リアちゃん...ありがとう。他のみんなも、気軽に接してくれ」


 対応の仕方がわからないが、とりあえず頷いておくのが無難だろう。

 他のみんなもそう思ったのか、教室にいた生徒は皆一斉に頷いた。

 エレイナが満足そうに笑う。


「みんなありがとう。これからよろしく頼む。さて、さっそくだが今日はクラスの親交を深める日にしたいと思う。特に今年は、『勇者祭』に向けて各々の実力を伸ばすために実践的な授業を中心に行っていく。対人戦も多く行っていくから、お互いのことを知ることでより高いレベルで切磋琢磨できるだろう」


 エレイナはそこで一度言葉を切り、手に持っていた用紙を広げ、磁石で黒板に固定した。


「この教室には四十人の生徒がいるから、二十組のペアに分けた。みんな『闘技場』は知っているだろう。あらゆるスキルに耐えられるよう設計されている戦闘用施設だ。『勇者祭』の学内選抜戦もここで行われるな。今からその『闘技場』に行って、ここに書かれているペア同士で模擬戦を行ってもらう」


 ラインは、黒板に目を向けた。

 上から三番目にラインの名前があり、結ばれた線の先にはカイ・サンベルと書かれている。


 知らない名前だな。


「よし、いくぞ。ついてこい」


 エレイナが再び扉を開き、ついてこいと言わんばかりに手招きをする。

 俺はリアラと顔を見合わせ立ち上がった。

 ほかの生徒もぞろぞろと、エレイナに続いて教室を出ていく。

 曲がりなりにも『勇者』を目指している人間ばかり、入学式早々闘いをするという状況に、否定的な声を上げる者は一人もいなかった。

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