入学式の話は長いと相場が決まっている
見切り発車です……!
拙い作品ですが、少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります!
このメルト大陸の歴史は、魔王との戦いで綴られている。
最古の記録は五千年前。
そこから凡そ五十年から百年のスパンで、魔王と人類が輩出した勇者が戦い、その全てが魔王の封印という形で勇者が勝利している。
「まあ、今まで八十回以上魔王に封印を破られている時点で、勇者は勝利していないと主張する連中もいるらしいけどな」
「まあ、それも一理あるわよね。この大陸が魔王の脅威に怯え続けている限り、真の平和とは言えないんだもの」
がやがやと騒がしい教室の隅で、一組の男女が雑談に興じていた。
お互いの机には一枚の用紙が置かれており、そこには『進路希望』と書かれていた。
「まあ、その魔王様のおかげで、国家間の戦争が起きづらくなっているのは皮肉な話だな」
「ふふん、そこは感謝してほしいわね。わたしさまに」
誇らしそうに胸を張る少女に、傍の少年がじとっとした目を向ける。
「お前なぁ。自分の正体バレたら一発アウトってことわかってる?なんなの?スリル楽しむ破滅系お嬢様なの?」
「わたしさまには守ってくれる素敵な騎士がいるもの。何も心配することはないわ。でしょう?」
「……はあ。プリント、書き終わったならよこせ。持ってってやるから」
そう言って少年は立ち上がる。
その頬が少し赤らんでいるのを見て、少女はクスッと笑った。
少年が親切に、されど乱暴に少女からプリントを奪ったのは、その笑い声が聞こえていたからだろう。
二人の会話は、周囲の喧騒に埋もれ誰の耳にも届くことはない。
もし届いていたら、二人の物語はここで終焉だ。
あるいは、聞こえていた方が良かったのかもしれない。
前代の勇者が実は魔王を封印しておらず、件の魔王があまつさえ人間社会の中でのうのうと暮らしているだなんて、タチの悪い冗談に違いないのだから。
少年が持つ二枚のプリント。
片方のプリントには達筆に、もう片方には歪んだ文字で、『勇者』と記されていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
曰く、聖剣の担い手は齢十五から十八でなければならない。
曰く、聖剣の担い手は強者でなければならない。
学校の授業でも聞いたし、果ては幼児向けのお伽噺ですら語られるような内容を壇上の老人―学園長が熱弁している。
少年は失礼だと思いながらも眠気に抗えず、船を漕いでいた。
突如、脇腹に激痛が走る。
「イィ……!?」
いかに学園長が熱弁を振るっているとは言え、講堂内は静けさが支配している。
その中で大声をあげれば悪目立ちすることは間違いなく、全力で我慢した。
そして、傍の少女を睨みつける。
(いきなり何すんだ、リアラ!?)
(何すんだとは心外だわ、ライン。わたしさまがこんなにも感動している有難いくそ長話を聞かないだなんて、勿体無いから起こしてあげようと思っただけなのに)
つまり、私を差し置いて寝るとは何事かと。
こいつはそう言いたいのだ。
少年──もといラインはいっそ無視して寝てやろうと思ったが、そうすればもう一度脇腹に激痛が走ることになるため眠気を噛み殺し、隣の少女──リアラを見る。
黒に近い艶やかなストレートの髪が特徴的な美少女だ。
髪色とは逆に、透き通っていると錯覚するほどに純白の肌は儚げな印象を抱きそうになる。
ラインとリアラの二人は、メルト大陸南部にあるアリアス学園の入学式に参加していた。
この学園に入学した理由は、単に家から近かったからともう一つ。
大陸に五箇所しかない『勇者科』が存在しているからだ。
学園長は、未だ冷え切った空気を暖めようと頑張っていた。