序章終「折れた剣と羽」
弟子であるスフィアと別れた後、クーゼルト王国にたどり着いたシュメールは途中で出会ったブライトと共に試験を受けることとなり、無事合格することが出来た。
あの試験から7年の月日が立ち、俺は王国を守る騎士となっていた。
この7年間は激動の日々で【炎龍炎舞】と呼ばれ囃し立てられ、英雄街道まっしぐら!ということはなく、6年の学校生活は仲間にも恵まれ着々と騎士までの道のりを登り、その後は1年間、王国の騎士として王城を守っていた。
そうそう、1年前の騎士学校卒業の時、ようやくライトとセリアは付き合うことになったんだぜ?たく長い間ヒヤヒヤしたよ。
さて、それでは過去の話はここまで、荷物を纏めた俺、シュメールはそんな幸せな時間を過ごしている親友に別れの挨拶をするために森の恵み亭へと立ち寄っていた。
「寂しくなるな。」
寂しそうな顔をしながら親友であるライトはそう話す。
「まぁ、たまには帰ってくるからさ。」
「まぁ、そうだよな。」
「王国に戻ってきたときは私達2人の料理を食べに来てよね。」
ライトの腕にくっつきながらこちらへとそうセリアは話す。
「あぁ、勿論だよ。」
そうして返事をした後、エプロンをつけているライトをじっくり見る。
「なんだよ。」
「いやー、しばらくはお別れだからお熱い2人を目に焼き付けとかないとなと思ってね。」
「そんなこといいながらエプロンを見てるのバレてるからな?似合ってないなって思ってるんだろ。」
そう言ってライトは睨みながら俺のことを見る。
「いやいや、そんな事は思ってねぇよ、焼き付けようと思ったのは確かだし…ただ、騎士を目指してたお前が今では店主だからな何があるかわからんなぁと思っただけだよ。」
「はは、確かにね私も騎士の道に行くと思ってたし。」
「心配させたくなかったしな。そ…それに…お前と一緒に店を繁盛させていくのもいいなって思っただけだよ。」
「ライト…」
2人は頬を染めながら見つめ合う。
「あーあーお熱いこったぁ。それじゃあ、おじゃま虫は退散しますよぉっと。」
そうして別れが辛くならないために冗談を言いながら出ようとすると。
「おい!シュー!」
とライトに呼びかけられ歩みを止める。
「気をつけろよ。前線は他とは比べられないほど過酷だ。絶対に生きて帰ってこいよ。」
「あぁ、勿論だよ。美味しい料理頼むぜ。」
ライトに笑顔でそう言って俺は店を出る。
「…よし、行くか。」
そして街を出て魔王軍との戦争の最前線へと向かう。
ーー魔王軍前線対策部隊基地【ライツア】ーー
王国を出てから3週間、俺は数十人の仲間、4人の護衛と共に魔王領土へと入り、幾度もの戦闘を行いながら馬車で複数の基地を利用し湿地帯、砂漠を抜け最前線ライツア基地まで到着していた。
魔王軍対策部隊とは、クーゼルト王国、ピレッタ王国、ナルキア王国の3国が連携して、2年前から活発化した魔王軍の進行を防ぐため結成された部隊だ。
そして半年前から魔王討伐を目的とした別動隊『魔王討伐部隊』が設立。これから俺が所属する部隊である。そして、その最前線にある基地が『魔王軍前線基地ライツア』だ。
そして今はこれから仲間となるライツアの兵士たちに数十人の仲間と共に挨拶をしていた。
「今日から前線に合流しました。シュメール・スメルです。よろしくお願いします!」
そう言ってお辞儀する。
「こいつが…」
「そう噂の…無魔の…」
挨拶をしているとコソコソと声が聞こえてくる。
騎士学校での6年で大幅に成長できたが、魔法については結局からっきし、一つすら使えないまま…そう、どの魔法にも適性がなかったんだ。【無魔の騎士】魔法が使えない騎士はそう呼ばれている。そして無魔の騎士は過去3人ほどいたらしいが全員結果を残せず亡くなっていったとのこと。最前線にそんな戦力にあまりならない無魔の騎士を快く思ってない人は多い。
「なに来てそうそう不貞腐れてるんだよ。」
挨拶を終え、休憩室でコソコソ話のことを思い出し、少し落ち込んでいるところに誰かが肩に手を回してくる。
「っ!?カーマインさん!びっくりしたじゃないですか!」
「はは、すまないな。嬉しくてよ。」
そこには9年前俺を鍛えてくれた勇者がいた。
「ごめんね。新しく配属される兵士さんの名簿にシューくんの名前があるのに気づいてからずっとこんな様子だったんだ。」
と笑顔で話しながらローズさんが近づいて来る。
「そりゃあそうだろ、男と男の約束を守ってここまで来てくれたんだ嬉しいに決まってんだろ、なっシュー。」
「うん、そうだね俺も凄く嬉しい。」
そう俺は9年前、カメリアさんとの約束と共にカーマインさんとも約束をしていた。
憧れであったカーマインさんたちと一緒に戦う。その為に強くなる。形は少し違えどこうして僕はその夢を叶えることができた。そう、前線への配属は俺の願いでもあった。3国の連携に勇者も加わっているということを聞き、騎士になった時からずっとお願いはしていたが、直属の上司から複数の実績を積まないと前線には危ないから送れないということで、1年間王国でくすぶる心を抑えながらながら実績を積みここまでやってきた。
「そっかそっか!よしよし!」
「ちょ!?もう子供じゃないんだから!」
「うるせぇ、俺からしたらまだ子供なんだよワシャワシャさせろ!」
そうしてカーマインさんに髪をかき乱される。
「ふふ、相変わらず元気そうだね。」
そんな俺とカーマインさんを見て後から来たカメリアさんは笑っている。
「あっ!カメリアさんお久しぶりです!」
「うん、お久しぶり大きくなったね。」
「もう9年たってますから!」
「そっかそっか、立派になって誇らしいよ。」
そう笑顔でカメリアさんは話す。
「相変わらずカメリアの前では変になるなお前。」
そう笑いながらアクアさんは話す。
「あ、アクアさんいたんですね。」
「いたわ!最初から!てか、なんかカーマインたちと扱い違うくね?」
「ソンナコトナイヨ。」
「あるね!その反応あるね!」
そうしてカーマインさんたちと賑やかな再会をする。
夜も老けた頃、俺は訓練場でいつものように日課をしていた。
「熱心だな。」
訓練をしているとカーマインさんが飲み物を手に持ちながらいた。
「休憩しようぜ。」
「あっはい。」
そうして2人でベンチに座って話をしていた。
「懐かしいな。昔もこんな時間に一緒に特訓してたよな。」
「そうですね。」
空の月を眺める。
「どうだった、この9年間。」
「つらいこともありましたね。でもカーマインさんたちのおかげで今では最前線までこれました。」
「ふっそうか、力になれてよかったよ。」
そう言って微笑んだカーマインさんは立ち上がる。
「どうだ?思い出しついでに1戦しようじゃないか。その体でこの9年間を教えてくれ。」
「そうですね、話したいことは沢山あるけど、伝えきれないから剣で伝えさせてもらいますよ。」
そうしてカーマインさんと剣を交える。
「はぁ…はぁ…負けましたぁ…」
「はは、まだまだだな。」
結果は惨敗。
(やっぱり、カーマインさんは凄いな…)
天を見ながらそう考えているとカーマインさんが手を差し伸べてくれ、起き上がる。
「程々にしときなよ明日も早いし。」
「え?」
「ん?」
謎の声が聞こえてきて、振り返るとそこにはベンチに座っているカメリアさんの姿があった。
「へ!?いつの間に!?」
「えぇ!?いつからそこにいたんだ!?」
「いや、2人が戦ってる最中だよ。こっちには全く気がついてなかったみたいだけど。ほらタオルで汗を拭いてゆっくり休んでね風引かないように。」そう言いながら近づいてきたカメリアさんはカーマインさんの頭と俺の頭にタオルを乗っけてワシャワシャする。
「はは、すまないな…」
「あ…ありがとうございます。」
「うん、それじゃあまた明日ね。」
「はい!また明日!」
サイコクの森ーー
次の日、前線の偵察のため、勇者パーティーや騎士部隊とサイコクの森を進んでいたがその途中で魔物の群れと遭遇し戦闘になっていた。
「はぁ!!」
目の前の魔物を押し飛ばし一太刀で倒す。
「シューくん後ろ来てる!!」
「っ!!」
その言葉を聴き、攻撃の姿勢のまま後ろへと向き直り視界に入った犬型の魔物に攻撃を仕掛ける。
「うぐっ…!」
魔物は攻撃を察知するとギリギリで回避し肩へと噛みつく。
「たぁ!!」
噛みつかれそのまま地面に倒れた所をローズさんが助けてられる。
「いてて…ありがとうございます。」
「うん、気をつけてね。」
俺の返事を聞くとローズさん頷き再び戦闘へと戻る。
その視界の先でカーマインさんが戦っていた。
冷静に魔物の攻撃をいなし、適確に一撃で消滅させる。
(すごい…あれが勇者…)
改めて力の差を思い知らさられる。
(俺も負けてられない!)
肩を抑えながら立ち上がり加戦する。
「いててて…」
数分後、無茶した俺は無理をしないようこっ酷く隊長から怒られた後、カメリアさんに手当てをしてもらっていた。
「もう、ヒールって体力の回復はできるけど怪我の治療は少ししか出来ないんだからね?無理しないでよ。」
「あはは、すみません…」
頭が上がらず謝罪する。
「まぁ、負けてられないっていう意志は伝わって来てるから…これから頑張ろうね。ほら、おしまい。」
そう言って治療を終えカメリアさんは立ち上がる。
「移動まではもう少し時間があるだろうし安静にしてなよ?」
「あっ、はい。」
そうしてそのまま木にもたれかかり休憩する。
「本拠地って後どれぐらいあるんだ?」
休んでいると、ふと隣で話をしている2人組の話が耳に入る。
「さぁな、距離は分からんがこの森を抜けた先の荒野を超えた先だとは聞いてるけど…」
「うっ…まだまだあるのか…死傷者も増えているし、本当に俺たち大丈夫なのかな…」
「おいおい、弱気になったらだめだろ家族が家で待ってるんだろ?絶対に生きて帰らないと。」
(やっぱりみんな心配なんだな…俺ももっと強くならなければ…)
2人の話を聞いて再び気合を入れる。
「おーい、それじゃあそろそろ出発するぞ!」
その掛け声で準備を整え再び出発する。
それから1ヶ月間森を野宿しながら進行し現在は暗くなった森で休憩していた。
その間、多くの戦闘を繰り広げ、被害も増加し何人かは撤退して24人ほどいたメンバーも17人まで減っていた。
「最近魔物の強さも増してきてしんどくなってきましたね…」
「まぁ…敵の本拠地に近づいているからね、近くに行けば行くほど敵の層も厚く強くなっていくだろうし。」
魔物の攻撃で怪我をした所を処置してもらいながらカメリアさんと話をしていた。
「そうですよね。カーマインさん…とまでは行かなくても、カイングさんぐらいは強くならないと…」
「へぇ、あの騎士隊長ほど強くなるねぇ…でかく出たねぇ…」
ニヤッとしながらローズさんが近づいてくる。
「だってそれほどじゃないと、魔法が使えない俺は全然役に立てない…」
「何いってんだよ。そんなことないって。充分頑張ってるし戦えてる、俺もマインたちもわかってる。そうだよな2人とも。」
そう言って近くで休憩していたアクアさんも話に混ざり、アクアさんの言葉を聞いたローズさんとカメリアさんは頷く。
「でも、それでもここでこんなに苦戦していたら、これ以降は…」
顔を下に向けようとするとカメリアさんの顔の前まで無理やり手で運ばれる。
「でも、じゃない。まず言うけど、この場に来れるの人は滅多にいない。実績を積まなければ危険として許可されないから、これはわかってるよね?」
「う、うん…」
「それに、小さな傷はあるけど、大怪我はしてないでしょ?」
「そうですね…」
真剣な眼差しで俺を見て話をする。
「大怪我や死者だって出る。だけどシューくんはそこまでは行っていない。それが強い証だよ。」
「そっ、そうなのかな…」
カメリアさんの迫力に押されながらも返事を返す。
「あぁ、そうだ。それに、足りないものなんてみんなにもある。それを補い合うのがパーティーであり、仲間だ。」
カメリアさんの続きをアクアさんが話す。
「そうそう、足手まといなんていないだよ。」
それに合わせてローズさんも話をする。
「…」
それを聞いて、沈黙している俺に、
「後、シューはまだまだ19歳だ。俺たちは君4年多く生きてる。その経験の差は大きい、けれど今のように努力すればたどり着くことができる。だから焦る事はないんだ。」
カーマインさんが近づきながらそう言う。
「そういうこと、1人で駄目だったとしても私達がいる。まぁ、私は戦闘に関しては無理だけど、みんなを頼ったらいいんだよ。わかった?」
最後はそうカメリアさんが質問する。
「うん…」
「よし!」
最後の俺の返事を聞いて、顔から手を離し距離を取ったあと、後ろに手を回しこちらに笑顔を見せてくれる。
その月明かりに照らされた笑顔にドキッと胸を撃たれる。
「それじゃあ、暗い話はやめて次は楽しい話をしようよ。ほらこの戦いが終わった後とかさ。」
そうしてローズさんは話題を変える。
(凄いな…みんなの話を聞いたら不安がなくなってきた…)
「ならどっかでみんなで食事でもしようぜなんかいい店ないかな?」
「アクア〜また食べ物?たまには遊ぶことも提案しようよ…」
「上手いもん食って、上手い酒に酔うこれ以上の贅沢はないだろ!」
「はいはい、シューの前だ落ち着け落ち着け。」
そうしてローズさんとアクアさんは言い合いを始めそうになり、カーマインさんに止められる。
「あははそれなら、みんなで行きたいところがあるんですよ。」
「へぇ、なになに?」
興味深そうにこちらに視線を向ける。
「騎士学校からの親友がやってる飲食店がありましてね。親友も紹介したいですし。行きましょうよ。」
「おお!美味いのか?」
「はい、勿論。まぁ、店員の接客はイマイチだけど…」
「それは…大丈夫なの?」
俺の話を聞いて微妙そうな顔をするローズさん。
「あはは、冗談ですよ。絶品なので楽しみにしていてくださいね。」
「うん。それにその親友の子のことも楽しみにしてる。話してる時のシューくんを見ていい人なんだろうなって思ったし。」
「はい、いい奴なんですよ。」
そう言ってライトを思い出しながら笑顔のカメリアさんに返事する。
「それじゃあそのためにも魔王を早く倒さないとな。」
そのカーマインさんの言葉にみんなが頷く。
そうしてしばらく話をした後、先に進み始めたが…
「なんかおかしくないか?」
「ん?何がです?」
騎士隊長がそういうと兵士はわからない様子で聞き返す。
「あぁ、魔物がいなさすぎる。」
カーマインさんが騎士隊長の質問にそう答える。
確かに…とざわざわ兵士のみんなは周りを確認する。
そして、周りの草がカサっと揺れ、
「みんな構えろ!何がいる!!」というカーマインさんの声が響く。
「っ!」
その声を聞き構えた瞬間真横にいたカメリアさんの背後に黒い影が映る。
「カメリアさん危ない!!」
「避けろ!!」
僕の声で少し離れた先でアクアさんとカーマインさんも気づき、そうカメリアさんに声をかけるが、一瞬の出来事で動く前に剣がカメリアさんを通りすぎる。
「ぐっ!!!」
ということはなくその前にカメリアさんを全力で引っ張り僕の近くへと移動させることができ、剣の軌道から外れることが出来た。
「大丈夫ですか!?カメリアさん!」
咄嗟のことで力を制限できず全力で引っ張った左手は打撲したのか熱くなっていたがそんなことよりもカメリアさんの全身を確認する。
「え…えぇ…大…丈…夫。」
余程驚いたのか返事が辿々しい。
「よかった…カメリアさん後ろに下がっていて。僕が守るから…」
そう言って熱くなっている左腕を上げ、敵からカメリアさんの行く手を阻む。
周りを確認すると数名の騎士が謎の黒い影と戦っている。
そして正面の黒い影がこちらの出方を見ているのか、停止している。
(なんなんだこいつら…)
「っ!!??」
その直後カメリアさんから声にならない悲鳴が聞こえ、その次の瞬間、
「腕が!?左腕が!?」
「え?」
カメリアさんの発狂じみた声を聞き、カメリアさんと敵の進行を妨害するために上げた左腕を見ると、そこにはあったはずの左手…いや腕の肘から先がなくなり血が溢れ出していた。
(うそ…だろ…)
そして、動揺しながらも前の影に向き直るとそこにはニヤッとしながらこちらを見る黒い影がいた。
(いや…こいつは…)
そう考えた瞬間少し離れた距離にいた黒い影は目の前にいた。
「なっ!?」
咄嗟に剣を動かし、攻撃を防ぐ。
しかし片手で、痛みで力があまり入らなく、押される。
(やっぱり、こいつは魔物じゃない…人間だ…)
「くっそぉ…カメリアさん!離れてください!俺じゃ守りきれない!」
「でっ…でも!」
「でも、じゃないんです!カーマインさんのところに早く!!」
「っ!」
そうして離れたのを確認して後ろに下がる。
(危なかった…もうすぐで斬られるところだった…)
しかし休息の暇もなく、複数の風の斬撃が接近する。
「ぐっ!!」
(エアロスラッシュか!)
左に転倒しながらも避け一瞬で立ち上がる。後ろの木々は風魔法を受け粉々に切れている。
(この魔法…こんなの食らったら今の俺じゃ一撃で終わる…)
「おい!ローズ!シューがまずい!!」
「わかってる!けどこいつら振り離せない!」
と遠くでカーマインさんとアクアさんが話しているのが聞こえる。
激流の音も聞こえる多分アクアさんだろうな。
続けて接近する敵の攻撃を受け流し攻撃を仕掛けるが避けられる。
(今だ!!)
一気に接近し着地を取ろうとするが、一瞬視界がぼやけ、ふらっと体から力が抜ける。
「くっそぉ!!」
ワンテンポ遅れて剣を振るうが防がれる。
受け流し、避け、何度も攻撃を仕掛るが全て空振りに終わる。
(なんなんだこの異常な行動速度…身体的にも、魔法的にもこんなの聞いたことない…何か見つけなければ…)
攻防を続ける間に蹴りや、斬撃、魔法がかすり疲労などでどんどん動きが悪くなる。
そんな時、激流が敵に向かって飛んでくる。
(アクアさんか!?)
視線を向けるとその先には敵と戦ってるアクアさんの姿があった。
(流れ弾か…でも…)
それを避けるため敵は空中へと飛び上がっていた。
(これなら!!)
空中での行動は制限される…なら今まで当たらなかった攻撃も当たる可能性はある。
そうして、俺は力いっぱい振り絞り、空中に舞う敵へと接近する。
「捉えたっ!!」
体をひねり最大火力の剣を振る。
そして、その剣は敵当たることなく空振る。
「な…んで…」
敵との距離は6歩ほど離れている。
そして敵は足元に何か魔法を構築してそれを足場に飛び上がり、更に上昇する。
「あれは…」
(何だあれ…見たことも聞いたこともない魔法…さっきの攻撃が当たらなかったのはあれのせいか…)
謎の魔法に意識を取られ上から攻撃を仕掛けてくる敵に反応が遅れてしまう。
「しまっ…!」
剣で防ぐが力と重力を受けそのまま地面に叩きつけられる。
「がはっ!?」
地面に叩きつけられた拍子に吐血する。
(死ねるかよ…カーマインさんたちだって…戦ってる…)
痛みで瞑った目を開けると空から無数の光が降りてくるのが見えた。
(違う!!これはさっきの!!)
そして気付いて避けようとするが体が動く前にその光いや、エアロスラッシュが体を通り抜ける。
「うがぁぁぁ!!??」
大量の痛みに無意識に声が上がる。
しかし、幸いなことに発動距離が遠かったのか先程より威力は落ちていた。
何とか傷だらけの体を立ち上がらせるもふらふらとし、視界もぼやけていた。
(くそ…)
そしてとさっという着地音らしき音を聞き後ろを向いた次の瞬間、腹部に熱さを感じ、再び吐血する。
そして腹部を見るとそこには黒い影が持っていた剣が突き刺っていた。
(父さん…母さん…スフィア…みんな…ごめん…もう…無理みたいだ…)
そして全身から力が抜け始め瞳も閉じる。
「…」
「駄目!!シューくん!!!起きて!!生きて!!」
次の瞬間、体が少し軽くなり、瞳が開く。
視界の端に魔法を使ったばかりのカメリアさんが立っていた。
(なん…で…もどって…来たんですか…!これじゃあこのままこいつを野放しにできないじゃないですか!!)
「っ!殺す!!お前だけは殺してやる!!カメリアさんには指一本すら触れさせはしない!!」
全身の力が再び少し戻る…いや振り絞り、敵の両腕を掴む。
「っ!?」
「逃がすかよ…!」
振りほどこうとする手を押さえつけ、敵ごと木に接触する。
「ぐはっ!?」
「ぐっ…!!」
剣首が腹に衝突した衝撃を受け敵はたまらず声を漏らす。
俺の腹に突き刺さった剣もその衝撃でより深く刺さり、更に吐血し、視界も殆ど見えなくなる。
「まだだ!!」
そうして首に噛みつこうとしたが避けられ肩に噛みつく。
「シューくん駄目!!もうやめて!早く処置しないと死んじゃう!!」
(駄目だよ…カメリアさん…ここで離したら貴方も一緒に殺されてしまう…)
敵は振りほどこうと更に力を入れる。
(逃さねぇって言ったろ!!)
必死で必死で繋ぐ。必死で時間を稼ぐ。
しかしその抵抗も虚しく1分しか持たなかった。
「うるがぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
最後に力を絞るが、その瞬間全身から力が抜ける。
「あっ!?」
倒れる瞬間カメリアさんの声が聞こえた。
敵の顔が最後に視界に入る。ニヤッとした笑みと首筋に緑の剣と羽が2つに折れている紋章が見えた。
(何勝ったつもりでいるんだよ…俺は…一人じゃない!)
「はぁっ!!」
倒れた次の瞬間誰が敵に攻撃を仕掛け、銀色の稲妻が走る。
(エターナルブレイカー…カーマインさんか…)
「っち!何人いやがる!!」
倒しても倒しても敵がウヨウヨと出てくる。このままじゃ、シューが危ないってのに!!
(サンダーボルト!)
広範囲の雷魔法で5体の敵を攻撃し粉々に消滅させる。
「っ!くそったれ!」
シュメールの元へ駆け寄ろうとする、その前に再び5体の敵が現れる。
周りの騎士たちもどんどんやられている。駄目だ…このままじゃ…
「アクア!!適当でいい!遠距離にいる敵にめがけてジェットスクリューを飛ばしてくれ。俺は近距離全体を!」
近くで戦っていたアクアへ指示を出し拳に電撃を纏わせ電撃の速度で拳を地面に叩きつける。
(ボルトチェイス!)
地面の中で雷魔法が暴れ爆発を起こし、周辺の敵を一掃、アクアもジェットスクリューを放ち遠距離の敵を1人打ち上げることに成功する。
「アクアよくやった!」
(ライトニングブレ…っ!)
詠唱を唱えようとした時、シュメールが接近していることに気づき詠唱を止める。次の瞬間敵の攻撃を受け、地面に吸い寄せられるようにシュメールは落ちていく。
(シュー!!!くっそ、急がないと!ライトニングアクセル1V!)
移動系魔法を詠唱し、シュメールの元に向かおうとするが、足を誰かに掴まれてしまう。
「しまった!」
焦るあまり地面に倒れている敵に気づかず不意をついて掴まれてしまった。
「たぁ!!」
そこへローズが合流し、敵を仕留める。
「ローズ!!」
「お礼は後早く!」
そうして、再びライトニングアクセルを発動させた俺は目の前の敵を倒し、シュメールの元へと急ぐ。
「くっ!邪魔だ!!」
再び2体の敵が前に現れるが、そのまま攻撃をしかける。
「っ!?」
しかし、その攻撃は空を斬る。
「一体どういうことだ…」
困惑しながらも見えなくなった敵を探すために周囲を確認すると、周りで戦っていた騎士たちの前にいた敵も消えてる。
「っ!そうだそれよりも!!」
そうして、走りシュメールが落ちた場所へと近づく。
「どこだ!!シュー!!」
暗闇で中々見えない中、声を出し必死に探す。
その時、「あぁぁぁぁぁぁ!!」という叫び声が聞こえる。
「そこか!!」
(ライトニングアクセルv2)
加速度を上げ声が聞こえた先へと向かうとそこには倒れかけたシュメールと敵の姿があった。
「っ!」
そして敵に対しエターナルブレイカーで攻撃を仕掛るが、敵には避けられてしまう。
「っ!!よくもシュメールを!」
再び敵へ接近するが防がれる。
そして、再び敵が後ろへと下がった瞬間、敵の周囲に竜巻が起こる。
「ぐっ!!風魔法か…」
そして風魔法消えたと共に敵は消えてしまう。
「くそ!逃した!!」
近くの木に拳をぶつける。
そうして、敵を逃したカーマインは倒れるシュメールの元へと急いで戻る。
目は殆ど見えない…声も上手く出せてるかわからない。だけど、濁りながらだけどみんなが…カーマインさんが…アクアさんが…ローズさんが…カメリアさんが…隊長が…泣いてくれているのはわかった。
「おい!!何とかならないのか!!カメリアお前のヒールで!!」
アクアはそう言って必死にカメリアへ伝える。
「もう何回だってやってる!けど駄目なの癒えないの…」
その返事に首を振りそう答える。
「そん…な…これから…一緒に…冒険するんだろ!なぁ!!マインと約束したんだろ!!おい!親友も紹介してくれるんじゃなかったのか!!」
アクアさんが…俺の肩を揺らす。
「アクア止めて!!」
カメリアさんがアクアさんを止める。
「は…は…すみ…ません…俺…約束を…破っ…て…」
「うんん、いいの大丈夫…残念だけど、そんなことで…気を落とさ…ないでいいよ…」
そう言って優しくローズさんは言ってくれる。
「そうだ…1つ伝えて…おかな…いといけない…ことがある。」
緑色の刻印を思いだしそう話す。
「無理しなくていいよ!この…」
心配してくれているカメリアさんの言葉を遮り伝える。
「駄目…これ…は絶対に…伝えないと…」
「あの黒い影のやつに…噛み付いた時…見えたものがあった…緑色の折れ…た剣と羽。たったそ…れだけだけど…あいつの…正体を明かして…捕えて…みんなの…未来のために…」
「わかった!ありがとう…最後まで…俺たちのために…」
「へへ…少しでも…役に立…てたかな…?」
「もちろんだ!お前のおかげで救われる命がこれから増える!」
「それに私のことも救ってくれた!役に立ってないわけない!!」
「それなら良かった…」
2人はそう言ってくれる。
「ごめん…それ…と…最後に…2つ…だけ…お願いしたい…ことがあるんだ…」
「何だ!!何が望みだ!!絶対に答える!!」
「1つは…ブハッ!…」
話している最中に吐血する。
「シュー!?」
吐血した俺のことをみんなが心配してくれる。
「大…丈夫…それ…よりも…母さんと…父さん…ライト…にセ…シリアへ…」
そうして、4人への遺言を聞いて残してもらう。
「もう一…つが…俺の弟子について…母さん…に伝えて…おいてほし…いんだ…来た時に…これ…を渡してほ…しい…本当は俺が返す予…定だった…んだけど…せめて血縁のある…人から渡し…てほしい…」
そうしてスフィアが作った指輪をカメリアさんへと渡す。
「はは…ごほっ…ごほっ…結構…喋れる…んだな…死ぬ前って…」
「おい!変なこと言ってんじゃねぇよ!」
アクアさんが泣きながらそう言う。
「はは…いい…ツッコミだね……ってそうだ…忘れてた…みんな…ありがとう…この…1ヶ月間…本……当に………幸せ…………だ………………っ………………………」
そうして力は抜け手は落ちる。
「ばかやろう…なんで…目の前に…いる俺たちへの…言葉の途中に…死んじまうんだよ…」
そうしてアクア、カメリア、ローズは泣き崩れる。
数分後、静かに近くで立っていたカーマインはそうつぶやく。
「…行くぞ。」
「え!?」
「こうしても何もかわらない…」
「こいつの死を無駄にするわけには行かない…さっさと魔王を倒してこいつを弔ってやらないと…」
そうして…カーマインはシュメールを抱えあげる。
その後、カーマインたちは近くに簡易基地を設置し、棺桶にシュメールを入れる。
その後、暗闇が広がる森の中で一人怒りを込めて木に拳をぶつける男性の姿があった。
「緑色の折れた剣と羽の紋章がついた男…お前を追い詰めてこの手でぶっ殺す。」
そう言って、カーマインは歯を食い縛る。
半年後ーー
ーークーゼルト王国:城下町ーー
1人の少女がクーゼルト王国へと立ち寄っていた。
「ここが…クーゼルト王国。騎士の街…すっごい!!」
人が多くごった返している。
「こんなに人がいるなんて…初めて。」
そうしてワクワクしながら町を歩き…
「大事なこと忘れてないか?」
「はっ!こんなことしてたら師匠に怒られちゃう。」
脳裏に師匠の顔が浮かび上がる。
「ダメダメ、結局1年遅れてしまったし、心配させたらいけない!しっかりしないと!確かここが南地区だから西地区はこっちかな…」
そうして西地区にある王国騎士第2学園を目指して少女は歩く。
これにて序章は終了次回より本編がスタートします。はは、すっごい長くなったなぁ。
これから始まる「転生師弟の復讐」!是非!見て行ってください!