チャプター14「ヒアルムの森攻防戦Ⅰ」
2人を救い出すことに成功したシュウたちは、村長であるルディさんの家で話し合いをしていたが、その最中、村中に広がる爆発音が響き渡る。
「っ!?」
「なんだ!?」
「今の音、村の入り口の方からじゃ!?」
村中に広がる破裂音を聞き驚く3人、そこへゴブリンが慌てた様子で飛び込んでくる。
「長!!まずいです!!」
「何があった!!」
「そっ!それが門を破ってオークが侵入しました!!」
「なっ!?」
ルディは窓から見える砂煙に視線を向け、歯に力を込める。
「っ…!」
「バレたのか…でもなんで…」
「そんなこと今考えても何にもならないだろ、とにかく今は門へ向かうぞドルク!」
「そうだな…急ごう!」
そうして走り出すルディさんとドルクさんについて家を出ようとすると、
「シュウ、お前は逃げろ!」
「でも!」
「お前はお客さんだ、俺たちの問題に首を突っ込む必要はないさ。それに、妹達まで巻き込むのか?」
「っ…」
スーを引き合いに出され何も言えなくなる。その様子を見てニカッと笑顔を見せたルディさんは、
「ということで頼んだぞセルベール。医療所で治療を受けている2人と合流して隠し通路から村の外に脱出してくれ。」
「はっはい!」
と、セルベールさんへ託し、ドルクさんと先へと走っていく。
(っ!こんな時になんも出来ないなんて…クソッ!)
そう考えながらも俺は2人を見送り、セルベールさんと共に医療所へと向かった。
ーーヒアルム村(ゴブリンの村):医療所ーー
「おい!大丈夫か2人とも!」
「うわ!?お兄ちゃん!?びっくりしたぁ…」
そこには出発の準備をしている2人の姿があった。
「駄目だよお兄ちゃん。女の子しかいないのわかってるならノックしないと。」
「うっ!?すまない…」
予想外なお怒りを受け咄嗟に返事してしまう。
「あはは、それはおいといて、シュウくんが慌てて来たってことはやっぱり何かあったんだね?」
「うん、そうなんだ。」
そうして俺は2人に現状の状況を伝える。
「そんなことが…」
「あぁ、だから隠し通路へ急ごう。」
「でっでも、それじゃあ村長さんたちは…」
「それについては問題ありません。」
スーが心配そうにそう話すとセルベールさんが食い気味割り込む。
「そちらについては安心してください。それよりも、今は皆さんがこの村を脱出するほうが大事なので急ぎましょう。」
「っ…でも!」
「やめとけ…」
(多分スーが思っていることは、さっき俺が感じたことと同じだろう…だからこそ…)
「俺たちが行っても何にもできない…居ても足手まといになる。」
「っ…」
「今するべきなのはこの村から脱出して、元気に村に戻ることだよ。」
「…うん。」
俺の言葉とアルカさんの言葉を聞き、悔しそうに拳を握りながら頷く。
(助けてもらってばかりなのに何にもできないのは悔しいよな…)
そうして医療所を抜け俺たちは隠し通路へと向かう。
ーーヒアルム村(ゴブリンの村):隠し通路ーー
「これが隠し通路か…」
村の奥の高い岩肌の下、そこにあったデカイ岩が簡単にズレ、奥に隠し通路が現れる。
ちなみにセルベールさんが簡単に動かした、この岩はこの村の技術で作られた軽い素材で模倣されたものらしい。
「えぇ、この先は一本道になってるので道にそって進んでください。そして、外に出たら右方向へ向かい、真っ直ぐ進み出てくる川を下ってください。30分もすれば確か…ケイナカンシ村へとたどり着きます。そこからは行けますよね?」
「はい…道については…ですが、セルベールさん一緒に逃げないんですか?」
案内はここまでと言わんばかりの伝え方にそう話す。
「えぇ、まだ村には逃げれていない子供たちもいるので私はここから先には行けません。」
「そうですか…わかりました。セルベールさんありがとうございます。」
申し訳ない気持ちになりながらお礼を言う。
「いえいえ、それよりも急いでください。いつまで持つかわかりませんので。」
「はい、それでは無事を願ってます。」
「えぇありがとう、また元気に会えることを楽しみにしています。」
「うん、絶対に来るね!約束!」
そう話してスーとアルカさんはセルベールさんと握手をする。
そうして、セルベールさんと別れ、俺達は隠し通路の中を進む。
「この村のみんなには助けられてばかりだな…」
「そうだね…」
「うん…感謝しないと…」
「そうだな、そのためにもまずは村に戻らないとな。」
そうして頷き合った後、俺たちは駆け足で通路を進んでいく。
ーーヒアルム村(ゴブリンの村):正門ーー
「ぐあぁぁぁ!!」
「!」
2分後、ルディ達が村を守護する門に到着すると付近へ仲間が吹き飛ばされてくる。
「おい!大丈夫か!!」
すぐに仲間の元へ駆けつけ声をかけるが意識がなくなっていた。
「っ…」
「大丈夫、そいつは気絶しているだけだ、それよりも今はあっちが優先だろ!」
そうしてドルクの視線の先、門の付近ではオークとの交戦が始まっていた。
「そうだな…」
そうして、飛ばされた仲間を戦闘の影響があまりない場所へ移動させた後、戦闘に参戦する。
「待たせたな、みんなありがとう。」
「怪我した奴は後ろに下がって治療を受けろ!」
「長!ドルクさん!!」
「おぉ!2人が加戦したら百人力だ!!」
俺たちの言葉を聞いて辛い顔をしていた仲間たちに希望の表情が見える。
「ドルク、わかってるよな?」
「あぁ、接近戦は頼んだぞ。」
そうしてオークの前に俺は立つ。
(でかいな…)
身長差は絶望的で4倍ほども違う。
(種族の差を恨むぞ神様…)
そうして、俺は剣を構え戦闘体勢を取る。
「何だまたゴブリンか、人間の子供は何処にイル。」
(こいつ…シュウ達を狙っているのか!?)
「知らないね。」
「嘘だな、この村に人間の子供の匂いが続いているのは知ってイル。」
「匂いだと?」
そう言って、ふと脳裏にシュウと道しるべを辿ってきたことを思いだす。
(そうか…なんで今まで村付近に来たことがないのにここが見つかったのかわかった…あの道しるべの匂いを辿ったのか。)
オークは視覚が弱い代わりに普通の生物よりも嗅覚が鋭い。
だからこそ、道しるべの残り香を辿ることができたんだろう…
(逃がして本当に正解だったな…)
そうして、3人を隠し通路から逃がす選択を取って本当に良かったとオークに気づかれないよう心の奥でホッとする。
「それはご愁傷さまだな。残念ながら本当にここに人間の子供なんていない。なんせゴブリンの村だからな。どうやらお前の鼻は馬鹿になっているみたいだぞ?」
(挑発をし、注意を引き寄せる。少しでも、シュウ達がこの場を離れる時間を作るんだ…)
「何だと?」
「あれ?怒ったのか?すまないなオブラートに包まず本心を言ってしまったよ。おっとこれも失言だな。すまないすまない。」
「下等なゴブリンごときが…今俺のことを侮辱したノカ?」
「さぁ?どうだろうな。」
「ぶっコロス!!」
そうして戦いが始まる。
(早く逃げろよ?シュウ達…)
ーー10分後ーー
ゴブリンとオークの戦いは続き、オークにも少しダメージは入っているがそれよりもゴブリン側の戦える戦力が減って苦戦を強いられてしまっていた。
「ぐふっ!?」
棍棒による攻撃は避けることが出来たが、その衝撃で打ち上がった土の塊に吹き飛ばされる。
「長!!」
「俺のことはいい!攻撃と避けることを考えろ!!」
上手く着地をした後、こちらを心配する仲間に指示をするが、
「ぎゃっ!?」
仲間はオークの薙ぎ払いもまともに受け吹き飛ぶ。
「どうしたお前たちの力はこんなものなノカ?」
そうしてニヤニヤしながらオークは俺に近づく。
「うるせぇよ。まだまだここからだ。」
そうしてオークへと接近し、攻撃を回避しながら、対策として作っていた粉塵を顔めがけてぶつける。
「なっ!?目が!鼻がいテェ!」
「そうだろうな!お前特性に作っていた特製粉塵だ効いてもらわなきゃ困る!」
(といっても、2つしかないからまだ戦闘はしたくなかったんだがな…でも、やっぱ使うことになるよな…)
後1つになった粉塵を確認して不安になるがそれは隠し、待っている仲間ヘ合図をする。
「いけドルク!」
「スパイラルエア!」
と詠唱が聞こえた後、オークに突如竜巻が飛びかかる。
「ぐっ!」
オークは魔法をまともに攻撃を受けるが、手を割り込ませ踏ん張り耐えきる。
「っ…何発耐えるだ…」
何度も魔法を放った疲れからドルクは膝をつく。
「ぐっ…マジックゴブリンさえ居なければこんな奴ラ……」
ダメージは着々と蓄積され、徐々に焦りが見えてくる。
「まだだ!続け!!」
合図を聞き、門の上にいたゴブリンが弓での追撃を行う。
「ちっ!チクチクといてェナ!!」
ダメージ自体はあまり入らないが気を引くことはできた。俺はその間に背後を取り、首近くに接近することができた。
(取った!)
そうして首へ剣を振り下ろすが、その前にオークの拳の甲が体に到達し、そのまま吹き飛ばされる。
「ぐぁ!?っ!ぶは!」
地面にバウンドしながら転がる。
「あまり調子に乗るナヨ?」
(ぐっ…慢心してしまった…)
大ダメージを受けてしまい体を起こすがフラフラとし、まともに立つことができない。
「滑稽な姿だな。」
「…」
そうしてオークは俺に接近してくる。
(チャンスは一回…外せば終わりだ…)
そうして粉塵袋を手に持つ。
「長から離れろ!!」
そうして、オークの背後から弓で攻撃する仲間たち。
「うるさい、黙ってイロ。」
そうして、周りの瓦礫などを拾い、門の上にいる仲間たち目がけて物凄いスピードで投げる。
「ひぃ!?」
何度も飛んでくる瓦礫などに驚き、攻撃を止めてしまう仲間たち。
(今だっ!)
そうしてオークの顔に向けて粉塵を投げつけようとしたが、虚しくも粉塵袋は手を滑り落ちそのまま地面へ落ちていく。
(しまった…これじゃもう…)
「ルディ!どけぇ!!」
「っ!!」
ドルクの声掛けに反応して横へと避けると、「エアブリッド!!」という詠唱と共にスパイラルエアよりも大きな風の渦が俺がいた場所を通過し粉塵を巻き上げながらオークへと衝突する。
「グッ!?」
「ちっ!!これでも踏ん張られるのか!」
オークは魔法が飛んできた瞬間にしっかりと両手で受け止め、数歩後ろ側までずらすことは出来たが耐え切られてしまう。
「はぁ…はぁ…いテェ…」
「くっそ…粉塵混ぜた中級魔法だっていうのに…なんてタフさだ…」
(これで粉塵がきれちまった…今は粉塵で行動を止めれているが、俺もドルクも怯えた仲間たちも動けない…最後のチャンスだっていうのに…くそ!!)
そうして俺は不甲斐なさから地面に拳を叩きつける。
そうしている内に粉塵の効果が解けたオークは立ち上がる。
「どうやら、限界のようダナ…」
「あぁ、そうだよ。」
「はは、さっきまでの威勢が嘘のようダナ。」
そうしてニヤニヤしながらオークは俺のそばまで近づいてくる。
(ここまで…か…)
そうして、死を覚悟し俺は目を瞑った。
「ン?」
そんな時、オークが素っ頓狂な声を出す。
「クックックそういうこトカ…」
そうして、目を開けるとニヤニヤしながら門の外を見ているオークの姿があった。
「お前たち命拾いしたな…本来なら皆殺しだったが今は気分がいい。また今度にしてやるよ、じゃアナ。」
そう言ってオークは門を出て森へと帰っていく。
「一体何が…」
困惑した様子のドルクがぼそっと言葉をもらす。
「わからない…だけど助かった…のか?」
その言葉に返答してドルクと向かい合う。
周りも突然の状況に沈黙が広がったそんな時、ある可能性が思い浮かぶ。
「っ!まさか!?」
「おい!何処に行くんだ!!」
俺の行動に驚きそう質問するドルクへ、
「シュウ達が危ないかもしれない!!」
そう言って、俺はある場所へと向かう。
ルディの脳裏には一体見えたのか…果たして、シュウたちに何が起ころうとしているのだろうか…




