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短編

君の瞳に映る世界

作者: 見伏由綸

綺麗な星が広がる空を見ていた。

君の瞳にキラキラと映りこむ小さな光は、喜びに溢れるように光をまとってとても綺麗だった。

楽しそうに空を見上げて「ほら、とっても綺麗!」と君は嬉しそうに笑った。

つられて空を見上げると、そこにはただ真っ暗な闇が広がっていた。


この世界にはいろいろな人間がいる。光に愛される人もいれば闇に愛される人もいる。森や水、火、氷、木、雷、風、木漏れ日、池、水たまりに愛される人なんてのもいる。複数のものに愛される人もいれば、何にも愛されない人だっていた。それでも、多少個性が異なるだけで同じものを見て同じ時を過ごすことができた。

そんな平和な世界に異物が生まれ落ちたのは十年ほど前のことだった。それは人の形をしていたけれどどの人間とも違った存在だった。あらゆるものに嫌われたその人間は、何をするのにも苦労をした。子供ながら自分と他者が異なることを感じとってしまうくらいには異質だった。火を起こそうとしても火はつかず、水を汲もうとすると家に着く頃には空になっている。木を切ろうとすれば怪我をするし、風に煽られて転んだことも数知れず。何をしようとしてもうまく行かず怪我をするのを見かねて誰かが代わりにやってくれる、そんな日々が続いた。

何からも嫌われているように思われたが、その人間を拒絶しないものもあった。それは闇だった。光があれば闇があると言うように昼も夜も存在する闇は、哀れに思ったのかその異質な人間を受け入れてあげていた。風に吹かれ火に嫌われ光にも嫌われてポツンと佇む人間を、物陰や日陰にできる小さな闇に入らせた。そこでは、何からも意地悪されることなく心と体を休めることができた。

その人間にとって闇が癒しの場となるのはすぐだった。何をしてもうまく行かない人間は、次第に昼間は闇の中に隠れ、夜になって闇が広がると外へ出て細々と活動するようになった。夜でも水や森に意地悪されることはあったが、真っ暗でどこにいても闇に包まれていられることがその人間にとって何よりの慰めだった。

そんなある日、森の奥の池まで魚を取りに行くとそこには見知らぬ少女が座り込んでいた。いろんなものに嫌われてはいたが人間には良くしてもらっていたから、困っているなら助けなくてはと思い人間は少女に声をかけた。すると、少女はただ星空が見たくて家を抜け出してきたのだと悪戯そうに笑った。


その日、人間は初めて夜の空には星が輝いていることを知った。

その時、人間は初めて自分に見えているものとみんなに見えているものが異なることを知った。


朝になって井戸に水を汲みに行った。水を入れても入れても空になるバケツにそれでもめげずに水を入れ、いっぱいになるくらい入れたところで慎重に家へと運んで帰った。石に躓くこともなく無事にバケツを持ち帰ると、君は穏やかな風に吹かれながら玄関前の椅子に座って待っていた。無言でバケツを差し出すと「綺麗なお水ね!ひんやりしてとっても透明!」と君は明るく笑った。バケツの水を覗き込む君の瞳には、透明な水がいっぱいまで入った重そうなバケツが映っていた。そっと自分の手元に目を落とすと、そこには空っぽで伽藍堂なバケツがあるだけだった。


異質だった人間は少女と仲良くなり二人が大人になると一緒に住み始めた。人間は相変わらずいろんなものに嫌われていたけれど水を汲むことも火をおこすこともできるようになった。体を鍛えたことで風に吹かれても小石に意地悪されても転ばずに踏ん張ることができるようになった。少しづつだが確実にできることが増えていく人間を大人になった少女は優しい笑顔で見守っていた。そして人間はそんな少女の目をじっと見つめては小さく満足げな笑みを浮かべていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

人間にとっての少女と見た夜空のように、忘れられない思い出はありますか。

みなさんの人生が優しい思い出にあふれる毎日となることを願って。

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