寝起きの味噌汁の匂いっていい匂い?
トントントントントン
グツグツグツグツグツ
朝の日の光が差し込む中で子気味のいい音が遠くで聞こえる気がする。
昨日は確か遅くまで酒場で酒をーー誰だったか……思い出せない……眠気で頭がまだ呆けているせいか瞼も重い。
「……暑い…暑いな…」
まだまだ朝は寒い時期のはずなのにこの暑さは…。
ようやく目を覚まして周りを見回すと俺は縛られていてしかも吊るされていた。
「えっ?……ちょっと……ここは?」
近くには大鍋がグツグツと煮立っており、出汁のいい匂いがしてきて
「って!そういう場合じゃない!!」
思わず叫び声をあげた俺に気がついて少し離れた所にいた女の子が近づいて来た。
「おはよう!起きたのね、お寝坊さん♡」
目がぱっちりと大きく、赤茶けた髪を後ろで結えている……少女?なのか……ちっちゃいけどちっちゃくな……ってそんな場合か!学習しろ俺!
「えっ……ちょ、ちょっといいかな?君は何してるの?」
「何って、朝ごはんの準備だよ。もう少しでできるからね!」
いやぁーーいい笑顔…なおさらわからん。
「えっと…俺は何で吊るされてるのかな?降ろしてもらえない?」
「えぇぇー。ダメだよー。降ろしたら逃げちゃうでしょ?前にお母さんが逃した魚は大きかったって言ってたし……あれ?お兄さん…魚?」
なんだなんだなんだなんだ!なんなんだ!?
えっ…ちょっと…記憶にないが俺は昨日…どうしてこうなった?酒場で飲んでて…ダメだ!思い出せん。
「魚じゃないよ!ほら!エラないでしょ?足あるし!降ろしてくれないかなぁ?頼むよ」
「えぇーーでも……昨日一緒に帰って来た時に言ってたよ?『あらぁ…かわいい…食べちゃいたいかも』って」
それたぶん別の意味!!説明出来ないけど別の意味!ちょっとワクワクしてきたけど!
「だ、誰が言ってたの?お母さん?」
「おにいちゃん」
お兄さん!来たこれーー!怖すぎるって!お兄さんに運び込まれたのか俺は?やばいってぇぇ!!
「た、頼むよ!お願いだから降ろして!降ろしてくれたら言うこと聞くから!」
「ほんとに?」
「ほんと!ほんと!」
一刻も早くこんなやばいところから逃げないと、どちらにしても食われるかもしれない。
お嬢さんには悪いけどここはなんとか…。
「じゃあ…また会ってくれる?」
モジモジしながら上目づかいに俺の反応を窺ってきてる。正直なところ…この子はかわいい。それは間違いない…間違いないが……今はそんな場合じゃない。
「会うよ!会う!あははっ……」
何が何やらわからないけど…ここを凌げばなんとかなる気がする。
「絶対だからね♡嘘だったら赦さないんだから」
こうして…よくわからないうちに吊るされてた俺は解放されたのだが…明日あの子とデートをする事になった。まだ混乱しているが…デート、デートかぁ……何着て行こう……。
「今回は上手くいくかな?母さんどう思う?」
「素直で悪い子じゃなさそうだし……大丈夫じゃない?でも吊り橋効果だっけ?やり方これで合ってるの?」
「さぁ……奥手だからそのくらいやらないとって話から悪ノリしてこうなったけど……なんとかなるんじゃない?」
「あとは、若い二人でってね」
その後デートを重ねて、まんまと雑な罠にハマった子羊はなんだかんだ幸せだったとかそうじゃなかったとか。
おしまい
ありがとうございました。