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○○王子と婚約破棄したい令嬢魔術師のお話。

作者: すばる

※変態注意。

※ざまぁ展開はありません。

※ダメだ苦手無理と感じたらすぐにブラウザバックをお願いします。




「オドラン辺境伯令嬢ディアーヌ! 第三王子ドミニクの名において、貴女との婚約を破棄する!」


 皿の上に小さく盛った大好物のブルーベリーケーキを黙々と頬張っていたディアーヌは、突然会場中に響き渡る大声で呼ばれてフォークを止めた。口の中の甘さを呑み込み、声の主へと振り向く。


 雄々しい美貌の青年が壇上に上がりこちらを指差していた。キリリとした表情の彼の傍らには青褪めて震える子ウサギのような少女。彼女は白い手が更に白くなるほど強い力で彼の群青の衣装の裾を掴んで引っ張っていた。


 状況はよく分からないがひとまず両手を空けるために、いつの間にか近くに控えていた給仕の盆に食べかけのケーキの皿とフォークを置く。ディアーヌが次にとるであろう行動を読んだのだろう。流石は王宮の使用人(プロ)だ、と彼女は舌を巻いた。


 ——もったいない。最後まで食べたかったのに。

 静かに遠ざかる給仕を視界の隅に捉え、ケーキを完食できなかったことに彼女は内心肩を落とした。しかし不満はおくびにも出さず一段高いところの二人を見上げて訊き返した。


「婚約の、破棄、ですか?」


 聞き間違いでないことの確認のためにあえて文節で区切ったディアーヌの問い掛けに、ドミニクの蔭で唇をわななかせていた少女はびくりとして小さな体を更に小さく縮めた。見開かれた濃いピンクの瞳はみるみるうちに潤いを増して、薄っすら溜まってきたようだ。目の縁が微かに光っている。普段はもちもちとしている肌は生気を吸い取られたように血の気が失せ、痛々しいほど。緊張のためか、白磁の額を透かす前髪は発汗でぺたりと吸い付いてしまっている。


 決して少女を脅かすつもりはなかったのだが、威圧と捉えられてしまったようだ。ディアーヌは彼女が怖がらないようにできるだけ柔らかい表情を作ってみせた。怖くないですよー……。


 少女の震えはより一層大きくなった。残念ながら逆効果だったようだ。


 一方、少女を背中に庇うようにこちらに強い視線を送るドミニク。精悍な顔には決意が(みなぎ)り、ディアーヌに王宮の大回廊に飾られた「魔王を討つ勇者」の絵を思い起こさせた。古代の逸話をもとにした絵画だが、勇者のキメ顔が絶妙にこちらを煽ってくると評判だ。実によく似ている。

 そういえば丁度今日はおろしたてのピンヒールを履いているのだった。グリグリと踏んづけてやったら楽しそうだ。


 ……ディアーヌの思考はちょっと危なっかしかった。


「そうだ! 貴女よりもこの私の正妃に相応しい者を見つけた! よって、婚約を破棄させてもらう!」


 それはそれは堂々たる契約不履行宣言だった。会場にいる者の目は死んだ。あっこれ面倒なやつ。逃げていいですか。彼らの心は一つだった。


 彼がいる演壇の近くの貴賓席からは「王妃様、お気を確かにィ!」「誰か、医師を呼べ!」と器用にも小声で叫ぶのがディアーヌの耳に届いた。王族の不調を知られまいとしたのだろうが、静寂十割の広間では声を潜めたところであまり意味はない。きっと多くの者に聞こえたことだろう。


 ディアーヌはふー、と細長く胸の澱を吐いた。この武術バカが。もっと穏便に内密に提案なり命令なりすればよかったものを。どうせ皆の前で表明するのが潔くて誠意もあるとか思ったのだろう。成績は決して悪くないどころか寧ろ長年の王族教育のお蔭でトップクラスだというのに、どうしてそうお育ちあそばした。なるほど、勉強ができるのと頭がいいというのは別物だというのはこういうことか。


 刹那の間に胸の内で一通りの罵りを済ませると、彼女の心に「でもこれは好機だ」と甘い囁きが忍び込んできた。そうだ。これは好機。多少名誉だとか体裁だとかが傷ついたところで、念願の婚約解消が叶えばそれでいいではないか。違約金、いやこの場合は慰謝料の方が正解かもしれないが、たっぷりと搾り取って魔術研究費の足しにしてやろう。


 方向性を決めたディアーヌは全身に行き渡る苛立ちを完璧な淑女の笑みでコーティングした。

 ——後にその笑顔を目の当たりにしてしまった者は語った。美しくも恐ろしい、迫力満点の笑顔だったと。


「——詳しい理由をお聞かせ願えますか?」













 オドラン辺境伯の娘であるディアーヌは、絵に描いたような脳k……武闘派達に囲まれて育った。


 朝は小鳥の囀りではなく修練をする父や兄たちの野太い掛け声(週に一、二回は母の声も混ざっていた)で目が覚め、太陽が真上に来る頃に玉のような汗を飛び散らせて剣を振る兵士達とそれを監督する父に軽食の差し入れをし、その日あった試合で用いられた剣術の流派が夕食の話題に上る。


 誕生日のプレゼントは武術の教本や刃を潰した修練用の剣。逆に彼女が両親や兄達に贈り物をする時は肩たたき券よりも「ディアーヌと剣の稽古ができる券」が喜ばれた。


 雑談をすると、なんの話題であってもいつの間にか剣術や槍術などの話に摺り代わり、最終的に「やっぱり武術は最高」と締めくくられる。


 初めて掴まり立ちをしたディアーヌを見た彼女の母の第一声が「凄いわ! しっかりと自分の腕で身体を持ち上げたわ! なんて力強いのかしら! この子はきっと最高の剣士になれるわね!」だったことからも、オドラン辺境伯一家の思考回路がどのようなものかが解るだろう。


 因みにその時母と共にいた乳母は「射手の方がよくありませんか? ご覧ください、的を決して外さぬような強い眼差しをしていらっしゃいますよ」と返したそうだ。


この話を乳母から聞かされたディアーヌは、「類は友を呼ぶって本当なのねぇ」と呟き何かを悟った遠い目を窓の外に向けた。きょうもいいてんき。


 その頃のディアーヌは剣術や弓術というものを嫌っており、それらを押し付けてこようとする家族や使用人達に辟易していた。


 彼らはディアーヌが武術の修練を嫌がって逃げ出すのを無理矢理連れ戻したり、逃げたことでペナルティを与えるようなことはしなかったので「押し付ける」というのは語弊があるかもしれない。しかし、彼女への期待で純粋無垢に輝く瞳には有無を言わせぬ力があり、その煌々とした瞳を前にした彼女は渋々武術に取り組むことになったのでそう表現したいところだったのだ。


 幼い頃のディアーヌの話を語って聞かせた乳母もまた、うるうるキラキラした瞳をしていた。その目にもやはり、ディアーヌに立派な武人になってほしいという感情が透けて見えていて、彼女は逃避気味に宙を見るほかなかったのだった。


 ディアーヌが家族から武術を強制されることがなかったのは、オドラン辺境伯家が比較的自由で寛容な家風であったことだけでなく、彼女が「魔術」を大いに好み、得意としていたことも大きいだろう。


 魔術は貴族階級において武術以上に重んじられることが多い。


 年頃の貴族の子女達が義務として通うことになっている王立学院では、歴史や算術と共に魔術が教科の一つとして数えられ、職種によっては王宮での就職に学院での魔術の成績が有利にはたらくこともある。


 武を重んじるオドラン辺境伯家でも基礎教養として魔術を子供達に教えていた。ディアーヌの兄達は「貴族に必要な教養」として受け入れていた。ところが、彼女だけは違った。


 どハマリしたのだ。それはもう、沈みすぎて沼の底に至るくらいに。


 ディアーヌは寝ても覚めても魔術に明け暮れ、朝は鍛錬をする父や兄(と、時々母)の横で魔力トレーニングを行い、太陽が真上に来る頃には図書室に籠りきりで密かに持ち込んだ軽食を摘まみ、その日に学んだ魔術についてのノートを晩餐の皿の横に開き復習をした。


 そもそもオドラン辺境伯家はこの国きっての「武術バカ」の家門である。方向性は違えど、一つのことに全てを注ぎ込むという一族の性質を、その血を継ぐ彼女が持っていないはずがない。


 余りに没頭しすぎて知恵熱を出して以来、倒れることのない範囲で取り組むようになったが、ディアーヌの魔術熱は留まることを知らなかった。


朝から晩まで魔術の研究と修練を嬉々として行い、誕生日にねだるのはドレスでも宝石でもなく魔術書。彼女にとって社交なんてものは良質な魔術的素材を手に入れるための情報交換会でしかない。


 だから邸宅の中では最低限に体裁を整えただけの質素な衣服(汚れるとメイド達がうるさい)を身に纏って下働きたちと共に汗を流し(廃棄予定の魔術素材の端材がタダで手に入る)、外では領地の特産である織物を用いたものを身に着けて(領地以外のことは良く知らないので)淑女の笑みを絶やさない(魔術以外の話題に一々反応するのが面倒なだけ)。


 そんな(表向き)理想の令嬢斯くあらんというディアーヌの姿にうっかり騙されてしまったのがこの国の王家だった。もちろん「影」を放って素行調査を行ったのだが、楚々とした立ち振る舞いで社交に臨む彼女が領地では簡素なドレスで勤勉に働き、王侯貴族の間で重視される教養である魔術の力を磨くことも怠らない様子に心を打たれて——いや、撃ち抜かれてしまったのだ。


 調査結果が届けられた翌月には王子の一人との縁談が持ち込まれ、あれよあれよという間にディアーヌは第三王子ドミニクの婚約者として王宮で王子妃教育を受ける身になった。


 彼女は至極当然のことながら決死の抵抗をしたのだが、王家という絶対的なブランドと権力の前に屈せざるをえなかった。正確には、国王一家からの熱烈なラブコールに膝を折ることとなったのだ。


 婚約者として不適格だと判断されるように、ディアーヌは顔合わせで魔術の腕を披露することを求められた際に誤射のふりでドミニク王子に強力水鉄砲を打ち込んだ。若干十三歳にして彼女の魔術制御は完璧で、王族に傷を負わせない程度にぶち当てることに成功した。それでも王子は鳩尾を押さえて芝生の上に崩れ落ちることにはなったが(吐いたりはしていなかったのでセーフということにした)。


 しかし何故かその場に居合わせた王妃は目を輝かせ、「明日にでも正式に婚約しましょう! ほらここ。ここにサインを頂戴! 侍従長、早くペンを持ってきて!」と初老の侍従長を呼びつけた。黒い制服をきっちり着こなしたロマンスグレーの彼は、嬉々としてペンを取りに行った。

 戻ってきた彼の傍らには国王の姿があった。国王も全身からキラキラを溢れさせて、「すぐにサインを! 国王がここにいるんだ。明日と言わず今日中に貴族院に通して見せるさ!」と親指を立ててみせた。ディアーヌにとって非常に残念なことに婚約はその日のうちに整う運びとなった。


 オドラン辺境伯令嬢ディアーヌ、十三歳。世の中は理不尽に満ちているのだと実感した出来事だった。


 唯一王子と婚約して良かったと思えたのは王子妃教育の一環という名目で閲覧に王族の許可が必要な特別図書館の利用ができるようになったことだ。おかげさまで貴重な魔術書が読み放題。ディアーヌは授業の合間を縫って古びた重厚な樫の扉をくぐり、魔術書に耽溺した。


「はぁぁ最っ高……! この魔術式の美しさときたらもう現代魔術工学なんて及びもつかないわよね。特にこの起句から結句まで一貫して同じテンポで詠唱できるようになっているのが素晴らしいわ。作成者のセンスが感じられるわね。最近は魔石でブースト掛けて詠唱は無しが良いっていう風潮になっているけど詠唱には詠唱の良さがあるのよねぇ」


 ウットリとヘーゼルの瞳を潤ませるディアーヌ。視線の先には二百年ほど前に刊行された魔術書。状態保存の魔術が掛けられているために頁が薄くなったり擦れたりということもなく、彼女に高度な知識を与えてくれる。彼女をよく知る人物であれば、彼女がいっそ気持ちの悪いくらいに熱く嘆息して恍惚としているのが分かるはずだ。


 しかしディアーヌの内心を知る由もない者からすれば、小さく微笑みつつ書物を楽しむ嫋やかなご令嬢でしかない。まさに該当する大臣や高位貴族の当主といった他の利用者や特別図書館の司書達からは「図書館の天使」などといった赤面モノの異名で呼ばれているのを彼女は知る由もなかった。


「そうだわ! 帰ったら御者(ガストン)にお願いして郊外のひらけた場所に連れて行ってもらいましょう! たっぷり詠唱ありの狙撃練習ができるように!」


 哀れ、ガストン。その日はちょうど週末で、次の日が休みになっていた彼は仕事終わりに久々にちょっといい銘柄の葡萄酒を求めて酒場に顔を出すつもりだったのだが、彼のお嬢様の唐突な思い付きで残業に精を出す羽目になった。一面にディアーヌの魔術の痕跡が散る穴ボコの草原で、彼は休日の朝陽と夕陽を浴びることになった。日の光がやけに目に沁みたのだと翌日の出勤後に彼は同僚に語った。サービス残業にはならず時間外労働の手当はきっちり貰えたのが唯一の救いだろうか。


 兎にも角にも、ディアーヌの魔術狂いは年々その勢いを増し、周囲(※オドラン辺境伯一族の者は除く)からの勘違いもますます膨れ上がっていった。王侯貴族達は彼女を「王族に迎え入れられるに相応しい存在」と口々に賞賛した。


 しかし、彼女とドミニクが貴族の子女が通う王立学院(アカデミー)に入学してから状況が一変した。


 ドミニクが、とある下級貴族の令嬢と行動を共にするようになったのだ。


 決して友人の距離ではない。時間があれば隣に寄り添い、熱の籠った視線を彼女に送っていた。子ウサギのような可憐な令嬢は彼の想いに応えるように控えめに笑っていた。


 誰がどう見てもただならぬ仲であることは明らかで、二人の様子を目の当たりにした者は困惑に眉を顰め、ドミニクの婚約者たるディアーヌの顔色を窺った。


 しかし彼女は微笑むだけで、目くじらを立てているようではない。彼女の意向を読み解こうとしていた者達の方が面食らうばかりだった。


 ディアーヌ本人としては、彼らがオロオロとする方が理解不能だった。なにせこちとら王家から是非にと乞われ否応なしに婚約を結んだ身であり、あの押しの強い国王夫妻が今更婚約の解消を認めてくれるとも思えない。彼女自身ドミニクと何度も面会するうちに、彼らがディアーヌを婚約者に据えた決定打が何なのか察するようになっていたことでもあるし。それにこの国の王家は王子も側室・愛妾可なので、王族籍にある限り他の令嬢と親密にしていたところで彼が責められる謂れはない。


 でも運が良ければ(ワンチャン)婚約解消できないかしら。勿論ドミニク側有責で。違約金はがっぽり獲ってみせる。そう、全ては魔術の研究資金のために。ディアーヌは衝ける穴がないか思考を巡らせ始めた。

 彼女はなかなかに抜け目がなかった。


 ディアーヌがそんな腹黒いことを考えているとは露知らない取り巻きの令嬢達。彼女達に囲まれて茶を楽しみつつ、淑女らしく春の花のような笑みを口元に刷く。これくらいの芸当は難関たる王子妃教育のおかげで全自動(フルオート)でできるようになった。朝飯前というやつだ。


 季節は瞬く間に過ぎ、あと数週間で冬期休暇に入る頃。ディアーヌの身の回りは随分と様変わりしていた。


 秋口に入学してからというもの、ドミニクとあの下級貴族の令嬢——ネリーとの噂は坂道を転がるように広まり、ネリーは彼の側室候補とみなされるようになった。傍目から見ても相思相愛そのものであり、ネリーの実家が側室としては些か低い爵位であることもあって、身分違いの彼らの恋愛は憧れの的となっていた。


 その一方でディアーヌは少々の面倒を(こうむ)っていた。何しろ(ちまた)のロマンス小説には恋のライバルはつきもので、ネリーが健気に王子を愛するヒロインだとすればディアーヌは正にそれ。恐らくはお目出度(めでた)い正義感に駆られた者達によってディアーヌのブローチや櫛などの小物を隠されたり、身に覚えのない罪を着せられたりするようになっていたのだ。


 しかし当のディアーヌはと言えば、持参している魔術書や魔道具など魔術に関わる物品以外がどうなろうと構わないというスタンスだったので持ち物が紛失しても「あら、どこかに落としたのかしら? まあいいわ」と無関心を貫いていた。


 これがそこらの令嬢であったなら、淑女の嗜みとして髪を整えたり身を飾ったりできないことや自分に属する物を隠されたという事実そのものに対するショックで涙の一つでも零していたのかもしれないが、生憎彼女は生粋の魔術狂い。魔術のみに心血を注ぎ、それ以外は心を痛める価値のない些末事(さまつごと)でしかなかった。


 そもそも彼女が学院に持ってきている物は全て替えがきく物だ。宝石類は全て模造品。櫛は金ではなく真鍮だ。それに本当に大切な物は空間魔法で異次元に厳重に保管しているので、コソコソとちょっかいを掛けることしかできない者如きでは手が出せる筈がない。


 また、彼女の取り巻きであることを選んだ令嬢達は高位貴族の家柄が主で王家の事情に明るく、ドミニクとディアーヌの婚約の経緯をよく知っていた。彼女達はディアーヌを国王夫妻が逃がすことは絶対に有り得ないだろうと考えていたので、彼女に着せられた無実の罪を利用して追い落としてやろうなどと企てる令嬢は一人もおらず、寧ろここが売り出し時だと言わんばかりに彼女が可能な限り不利益を被ることのないように競って手を回していた。


 おかげでディアーヌはどうでもいい物が度々無くなる以外には特に不便もなく入学してからの数か月と少しを過ごせていた。


 王立学院には冬期休暇直前に学生懇親会が催される。年度が始まってだいぶ経つこの時期に行うのは今更であるようにも思われるが、この懇親会の本当の目的は学生同士の親交を深めることではないのだから当然かもしれない。来賓として招かれる大臣や有力貴族家の当主が優秀な人材を学生のうちからスカウトする場となっているのが実質だ。この時期は学院の支援者でもある彼らの都合がつきやすく、学生達にとっても利のあることなので、学院側も懇親会には力を入れている。


 今年度は特に第三王子が入学してきたことで国王夫妻が来賓として出席することになっていることもあって、王宮側と協調して念入りな準備がなされていた。間違っても国王夫妻の不興を買ったり怪我を負わせたりなどしないように、当日配置される給仕や警備の者は王宮の者が行い、振る舞われる料理や菓子も十分に信用のおけると判断された料理人や菓子職人が作ることになっていた。もちろん、事前に参加する学生達には耳が痛くなるほどに釘を刺しておいた。


 だから、まさか王族たるドミニクが騒ぎを起こすなど、学院の教職員達は思ってもみなかったのだ。


 第三王子ドミニクは特に武に優れた王子として有名だ。騎士養成の最難関と目される王立学院騎士科入学前からその実力は貴族達の知るところとなっており、実戦経験もそこらの近衛騎士よりもあるくらいだ。そのことをディアーヌが初めて耳にした時、護られるべき存在が護る者達よりも経験豊富なのは果たしてアリなのかと首を捻った覚えがある。


 その彼が懇親会で放った衝撃的なセリフ。会場の参加者たちは一瞬で氷雪地獄に突き落とされる錯覚に陥った。ダンスの曲を演奏していた楽団さえも凍りついている。最前列のヴァイオリン奏者は大事な弓を取り落とした姿勢のまま固まっていた。


「——詳しい理由をお聞かせ願えますか?」


 静まり返った広間で、ディアーヌの涼やかな声が通る。修羅場に巻き込まれた参加者は氷を通り越して石になった。哀れにも彼女の纏う殺伐とした空気を直に浴びてしまった者は魂を飛ばした。


「理由か。今言った通り、私は自分の妃には彼女が——ネリーが相応しいと感じた。それだけだ」

「具体的に、どういった点が好ましく感じられたのですか?」


 え、それ聞くの? 聞いちゃうの? 会場が無音で戦慄にざわめいた。というかもう誰か止めてよ。

 しかしそれが唯一可能な地位にある国王夫妻はと言えば、一人は泡を吹いて卒倒、もう一人は清らかな笑みを浮かべて天上で悟りを開いてしまっていた。お願いだからどうか戻ってきて。


「ふむ、好ましく思った点か……ならばネリーに出会った切っ掛けから語らねばなるまい」

「ぜひお聞かせください」


 ディアーヌが促す。戦々恐々として固唾を呑む参加者達や葬式でもあるのかと聞きたくなるほどどんより沈んだ貴賓席には目もくれず、ドミニクは暫し宙に焦点を彷徨わせて記憶を探ったようだった。そして薄い唇を開く。


「——あれは、入学式の翌日だった」

「……」


 出だしからディアーヌの口角が引き攣った。駄目だこいつ酔ってる。話し始めた途端、ドミニクは夢見る乙女のような色を瞳に映した。彼の背後のネリーの顔はもはや見たこともないような色になっており、今にも白目を剥きそうになっているのをディアーヌは意識の隅に捉えていた。


「廊下を歩いていて、丁度階段に差し掛かった時だ。階上から、ネリーが降ってきたのだ。舞うように、後ろ向きに。私は彼女を受け止めた」


 そこで一度言葉を切り、ドミニクは胸に手を当てて頬を薔薇色に咲かせた。形の良い艶やかな唇がふわりと綻ぶ。




「彼女は——彼女の肘鉄は、実に……ッ。実に重く、臓腑を抉るようで、溜息を吐きたくなるほど最高の一撃だった……ッ!」




 訪れる空白。会場は宇宙に放り出された。


「そんなことだろうと思いましたわ」

「おお、分かってくれるか!(彼女の魅力を)」

「はい(彼女を気に入った理由は)」


 ディアーヌが二人の噂を耳にしたとき、当たり前だがネリーの身の上やドミニクと出会った経緯についても調査している。誰かが落とした紙のせいで階段から足を踏み外したネリーを彼が抱き留めた件ももちろん把握済みだ。更にその日彼が保健室を利用して魔法医によって内出血の治療を受けたとくれば、おおよその事情は察せられるというものだ。


 もとよりディアーヌがドミニクと婚約せざるを得なくなったのだって、顔合わせで彼女がぶっ放した水鉄砲の威力に惚れ込んだ彼(恍惚として起き上がれなかった)に気づいた国王夫妻以下彼の性癖を知る者達によって外堀から埋められたからである。あの水魔法はそれなりに強力だったが、ドミニクに怪我をさせない程度に威力を抑えられたものだ。その威力を超える打撃を与える令嬢が出てくる可能性だって無くはなかった。


 ネリーはその僅かな確率の(貧乏)(くじ)を引き当ててしまったのだ。


「そうか……それで、理由を話したからには、婚約解消の書類に署名してくれるか……?」

「ええもちろんですわ喜んで」


 窺うように懐から書類と携帯用のペンとインクを取り出すドミニクに、ディアーヌは彼の準備の良さに感心しつつそれはそれは快く頷いてみせた。


 当然だ。誰だって、受け入れられない性癖の人間との結婚なんてしたくはないのだから。ただでさえ魔術のことで頭が一杯なディアーヌにとっては、彼の趣向に付き合うエネルギーが惜しい。婚約してから彼に何度か攻撃してくれるように頼まれたが、一度たりともあの強力水流よりも威力の高い魔術は使用していない。

 彼女は()()を立ててでも逃亡するつもりでいた。そこにお誂え向きに(ネリー)の方から飛び込んできてくれた上、ドミニク側から言い出してくれたのだ。この絶好の機会を利用しない手はない。嬉々としてペンを握った。


「い、嫌ですっ!」


 その時、少女の高いトーンの叫びが彼らの会話に水を差した。待ったをかけた張本人であるネリー(生贄)はドミニクの背中からまろび出て、足を(もつ)れさせながら演壇から降りる。


「わ、私は殿下の妃を望んだことはありません! 肘鉄だってわざとじゃないんです! 何度もお断りしているんです! 本当なんです信じてください!!」


 純真そのものといった風のか弱い少女が決死の覚悟で懇願してくるさまは同情を誘う。だがディアーヌとて覚悟を決めた身。ここで引くつもりはなかった。ネリーから投げ渡された嘆願書(ヘルプ)を中身も見ずにくるりと丸めてドミニクにバトンタッチ。


「と、彼女は申しておりますが?」

「? 申し入れを断って無視するという放置遊戯(プレイ)の一種だろう? 大丈夫。ネリーの気持ちはよく分かっている。痛みの大きさこそ愛の大きさだ」

「…………然様ですか。仲のよろしいことですね」

「だろう?」


 無視されていたのか。ドミニクの被虐趣味(マゾヒズム)については知っていたが、まさかここまでだとは。高度過ぎてディアーヌには理解できなかった。深く聞くのは地雷だという直感が働いたのでとりあえず相槌を打っておくと、ドミニクは満足そうに胸を張った。


「嫌です助けてください変態だけは勘弁してください! そういう趣味を否定はしませんが私は付き合いきれませんっ! 痛めつけたりとか無理なんですぅ〜!」


 流されてドミニクの婚約者に収まりそうな気配を察知して遂に涙声になってしまったネリーは、グスグスと鼻を鳴らしながら膝をつき上目遣いでディアーヌの足元に縋りついた。ドレスの裾を掴まれたディアーヌはやる気が失せたのか、心底嫌そうな顔を隠そうともしない。


「うぇぇぇぇえええん! お゛願いしま゛す゛ううう゛う゛っ!」

「嫌です」

「え゛ええぇぇん!」


 すげなく断られてネリーは大理石の床に崩れ落ちた。ぐしゃ、と破砕音じみたえげつない音がしたのだが大丈夫だろうか。


「そんなバッサリと……」


 招かれた大臣の誰かだろう。貴賓席からボソリと覇気のないツッコミが入った。ディアーヌはそれを物理法則のように華麗に無視してペンを唇に当てて小首を傾げてかわい子ぶった。


「嫌です♡」

「ぞごをな゛んどがぁぁぁああ゛あ゛!」


 大事なことだから二回繰り返したらしい。

 イイ笑顔で再度放たれた拒絶に、ネリーは遂にびぃびぃと本格的に泣き出してしまった。声はガラガラで、顔面は鼻水や涙でぐちゃぐちゃ。身も世もない泣き方は童顔と相まって幼児そっくりだ。


 その様子に、ディアーヌは背筋にゾクゾクとしたものが走るのを感じた。あら、カワイイじゃない。もっと甚振(いたぶ)りたいような衝動が湧き上がる。しかし今はもっと優先すべきことが他にある。彼女は努めて欲求を抑え込み、ペンを持ち直した。


「お、オドラン辺境伯令嬢」


 さぁ、いざ署名をとディアーヌが構えたところで漸く国王の魂が肉体に帰還した。再起動した彼は爆発物に触れるかのようにディアーヌに呼び掛けた。

 存外戻ってくるのが早かった。彼女は心の中で舌打ちすると、愛想百パーセントの表情筋で迎えうった。


「はい、何でございましょう陛下」

「どうか何卒婚約を継続してくれないか……」

「まぁ! 先に婚約破棄を申し出られたのはドミニク殿下なのですが……?」


 ディアーヌはわざとらしく目を見張ってみせた。もちろん嫌味である。


 そうは言うものの公的書類へのサインをしていない上、国王の承認を得ていないのでドミニクの婚約者はまだディアーヌだ。そして国王がしゃしゃり出てきた時点で今回は婚約解消不可能になった。革命でも起こさない限り婚約解消には至らないだろう。

 国王だって、武人としては天才と言って差し支えないのに特殊な趣味のせいで度々暴走する息子を自分の退位後も上手く手綱を握って監督してくれる者がいないと困るので。


 一般的な下級貴族家の令嬢で、裕福な平民に近い生活をしているネリーでは、そもそもドミニクを制止するだけの能力も権力も持ち合わせていない。事実上、どちらもバランスよく兼ね備えたディアーヌとの婚約が最後の頼みの綱であり最善手だった。


「そなたなら、前言を撤回させるも容易いだろう? 隣国の『大賢者』との会談をなんとか取り付けるから……頼む……ッ」


 国王は苦しげに絞り出した。目鼻口が中心に寄ってくしゃくしゃだ。提示された対価に、ディアーヌは目を細めて内心の驚愕を覆い隠した。


 最高位の魔術師である隣国の『大賢者』は滅多に人前に出ない気難しさで有名で、かの国の女王でさえ面会を断られることがあるという。居所である学術院の建物には限られた者のみが立ち入りを許され、弟子は二人しかいない。食事と睡眠以外の時間を研究に費やし、学術院に席を持ちながらも講義は免除されている。


 王子の婚約者とはいえ、()()()他国の辺境伯令嬢のディアーヌごときが目通り叶う人物ではないのだ。それを国王は魔道具越しでも手紙越しでもなく、直接面会する機会を設けるという。彼は現在の大賢者との面識があり若い頃はそれなりに交流があったと聞いたことがあるので、もしかしたらその伝手かもしれない。


 どのみち公の場で口に出したなら守らなければならないので、反故にされるようなことはないはずだ。国王の言葉はそれだけの重さをもつ。きっと何としてでも面会の約束を取り付けてくれることだろう。


 ()()ここらが潮時か。諦め時も肝要だ。ディアーヌはにこりと笑んで付け加えた。


「あちらの学術院への短期留学もお願いします♡」

「ぐッ……相分かった」


 ちゃっかり追加条件を出した彼女は交渉成立にほくほく顔だ。対する国王は生命力を根こそぎ奪われたようなげっそりとした様子だ。


「はぁ……仕方ありませんね」


 溜息を零したディアーヌは壇上のドミニクに目を遣る。彼は不思議そうに彼女を見返してきた。彼女はそんな彼に真っ直ぐ歩み寄る。彼が立つ半円形の演壇は床から階段状にせり上がっているため、どこからでも登ることができる。小さくヒールの音を鳴らして数段の階段を上がり彼の前に立つ。そしてスッと目を細めた。その表情にハッとしたドミニクは体を固くして、


「ふ、ッ!」

「ガフッ」


 初動は緩慢。しかしそこから確かな加速度によって振り上げ振り抜かれ加重された踵は、しなやかな弧を描いてドミニクの脇腹に鋭利なインパクトを(もたら)した。


 見事な後ろ回し蹴りだった。


 倒れ込んだドミニクは攻撃を受けた箇所を押さえる。微かに呻き声がした。

 食事で使うナイフより重いものを持ったことがなさそうな、なよやかな令嬢が放った熟練感のある蹴り。信じがたい光景に一同は唖然として立ち竦んでいた。


 そうこうしているうちに、向き直ったディアーヌは吹き飛んだ第三王子に接近していた。ドレスから小鳩のような足を覗かせ、アーモンドトゥの先端で彼の手を退かす。そして無防備な横腹を踏んづけて踏みにじり始めた。


「で、殿下ぁあああ!? オドラン辺境伯令嬢ッ! 何をなさっているのですか!?」


 王族への無礼甚だしい彼女の行動に、やっとのことで硬直状態から解放された来賓の一人が悲鳴を上げた。しかし止めようと動いたところで、彼の忠義は国王の手の一振りで縫い留められた。国王は疲労と諦観に満ちたとても穏やかな微笑みで首を横に振ってみせた。黙って見ていなさい。


 一方的に蹂躙されるばかり(だが十中八九ワザとそうしている)のドミニクは、床側に伏せていた顔をゆっくりと上げた。端麗な面が晒され、「はぁ……」と熱っぽい吐息が漏れた。更にたっぷり潤んで輝く瞳が彼を踏みつけるディアーヌの姿を捉える。


「貴女が……こんなに素敵な一面(蹴り)を隠し持っていたなんて……ッ! ああ、イイ! イイぞ! もっと踏んでくれ!!」


 国王が静かに涙を流し始めた。「おいたわしや……」彼の周囲の大臣もハンカチを取り出し始めた。この混沌とした場に留学生および他国からの者がいなかったのは唯一の幸運だった。


 ドミニクはますますデヘデヘと笑い、だらしなく全身を緩ませて悦びを露わにする。そしてタラリと垂れた鼻血が一筋。彼にゴミを見るような目を向けたディアーヌは、ぐりぐりとヒールの先端を食い込ませつつ()()()


「ネリーさんよりも私の方がいいわよね? ほら、ディアーヌと婚約します、って言いなさい?」

「ふぁい……でぃあーぬとこんやくしましゅ……」

「よろしい」


 まぁ既に婚約者だけど。ディアーヌはフン、と鼻で笑った。逃げるつもり満々だったが致し方ない。


 何物も、何者も。魔術には代えがたいのだから。











 ——学院のとある一室にて。魔術書に囲まれたディアーヌはゆったりとした姿勢で寛いでいた。


 ディアーヌはあの学生懇親会から、ささやかながら学院内に研究室を持つことを許された。約束にはないが、恐らくは国王からの賄賂だろう。小さな部屋なので簡易的な実験設備しかないが、彼女には十分だった。実験器具は私物を持ち込めばいいので。


 更に彼女には助手が付くことになった。あのウサギのような令嬢、ネリーが自ら申し出たのだ。曰く、望まぬ婚約から救ってくれた恩義に報いたいとのこと。ネリーは元々珍しい魔法の使い手ということから特待生として学院に入学しており、ディアーヌにとっても彼女の助力が得られるのなら万々歳だった。喜んで彼女を受け入れた。


 研究施設と優秀な助手。この二つの要素のお蔭でディアーヌの研究は飛躍的に進展した。きっと大賢者に面会する際の手土産になることだろう。現在は論文の審査中で、少し時間ができたところだった。


 設備と同じく実家から持ち込んだ革張りのソファーは柔らかく彼女を受け止め、脇に置かれた背の高いランプが膝の書物のページを明るくしている。最近設置した足乗せ用ソファー(オットマン)の使い心地もまあまあだ。彼女は知らず鼻歌を歌っていた。


 そんなディアーヌのリラックスタイムに()()()()水を差すものがあった。


「ディ、ディアーヌ! 私は……!」


 数時間にわたり同じ姿勢のままで痛みがないことに焦れた脳筋オットマンからの読書の妨害に、ディアーヌは柳眉をピクリとしならせた。


「あらあら。——脚置き場が喋るな鬱陶しい」


 穏やかな聖母の如き声は一転、低く殺気立つ。言い終わりしな、彼女の履いた靴の鋭いヒールがドミニクの脇腹に突き刺さった。(※良い子は真似しないでください)


「ごふッ!! っは、あ、イ……イ。イイ、蹴りだ、ディアーヌ……!!」


「万一にも責任問題にならないように、尚且つ王子を程よく痛めつける」という目的のため、血を流さない程度に大きな威力とそれによる痛みまで完璧に計算しつくされ、「(すこぶ)る痛いけど怪我はしない」ように打撃と同時に治癒魔法まで掛ける徹底っぷりだ。


 その色々と百点満点な一撃にドミニクは雄々しく麗しい顔立ちを蕩けさせた。息を荒げて身悶える姿からは、普段の武勇に優れた王子像は欠片も窺えない。


「『ディアーヌ』? 違うでしょう? 二人きりのときはなんて呼ぶのだったかしら……?」


 ディアーヌは紅い口唇を歪ませ、尖った踵をさらにねじ込む。冷徹な視線を受けているのを肌で感じたのだろう。ドミニクは喜悦に溢れた声で答えた。


「ぁぐ、ご、『ご主人様』ぁ……」

「そうよ。私が貴方のご主人様。いい? 表ではその汚らしい表情を見せては駄目よ? もし先日みたいに皆の前で貴方のその(おぞ)ましい性癖を表に出すような真似をしたら、二度と甚振ってあげないんだから」


 途端、ドミニクは顔を青くした。この世の終わりだと言うように身を震わせて懇願する。


「た、頼む、それだけはやめてくれ!!」

「『いい子』にしていてくれる?」

「もちろんですご主人様!!」


 彼の首肯にディアーヌは満足して足を一旦退ける。

「二度とドミニクに公式の場で性癖を露呈させないようにする」というのは、国王夫妻と交わした契約項目の一つだ。これをドミニクに守らせなければ、ディアーヌに与えられた大賢者との面会の権利は奪われてしまうことだろう。憧れの人に会うまでは何としてでもドミニクを御する必要があった。


「全く、私に痛めつけられて悦ぶなんて……なんって気持ち悪い男なのかしらねぇ!?」

「あふんッ」


 再度振り下ろされた足に、ドミニクは満面の笑みを浮かべた。ディアーヌは彼の無様な姿に目を細め、片頬を吊り上げている。


 二人の様子を部屋の隅の作業台から窺っていたネリーは器具をいじる手を止め、助手になってからずっと思っていたことを半目でポツリと呟いた。


「…………ディアーヌ様、実は甚振るの大好きなんじゃ……」


 彼女の呟きが耳に届いたのだろう。ディアーヌはくるりと振り向いた。キョトンとした顔をしている。そして純粋な疑問百パーセントの仕草でチョコンと首を傾げた。


「え? そんなわけ無いでしょ?」

「まさかの無自覚」




“ドM”王子と婚約破棄したい令嬢魔術師のお話。

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