表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

孫の子育て

作者: 竹宮小央里

 私の母が人生で一番楽しかった時は、初孫のサキと一緒に過ごしていた頃だったと、母は振り返る。母の子育て第二期の始まりである。


保育園バスがサキを降ろすと、母とサキは歌を歌いながら、草を刈る父の姿を見つけると、サキは精一杯の大声で叫んだ。


「じいちゃん!」すると、父が「おーい、サキお帰り。」と言って応えていた。


「サキ、きゅうり出来たよ。」といって、その場で一本を収穫して、サキに渡した。


母はキュウリをサキから受けとると、軽トラックの後ろに積んであるニℓの水を入れたペットボトルでそれを洗い、マヨネーズと味噌をつけて、サキに手渡した。


サキは「おいしい。おいしい。」と言いながら、きゅうりを頬張った。


サキが一本平らげると、母はオンブバッタや、とんぼ、蝶などをサキに見せ、軽トラックの助手席に乗っていたトイプードルのアンと追いかけっこをする。


サキより一つ年上のアンは、草の上をピョンピョン跳ねるように走って楽しそうだ。


ひとしきり畑で遊ぶと、母とサキは手を繋いで、また家へ帰るというのが平日の過ごし方だった。


帰ると、母とサキは折り紙をしたり、絵を描いたり、シャボン玉をしたりする。


やがて夕方になると、母はサキに食事をさせて、帯でおぶって、上からタオル地の掻い巻きで包んだ。


サキが夕方、暗くなると、姉を恋しがった。泣き出すのを知っていたからだった。


「あっち行く、あっち行く。」サキは東の方に延びている道路を指して、そう言った。


姉は通勤に二時間以上かかっていたのである。


朝の六時前に、姉が青いプリウスで走っていくのを知っているのだった。


サキはその方向から戻ってくることを知っているのだった。


サキは母のようこがおぶって、トントンとお尻を叩いているうちに寝てしまうのが常だった。


 ある日、なかなか寝ないサキが、前方から歩いてくる、首輪を着けたシベリアンハスキーを見つけた。


「ようちゃん、あの犬オオカミに似てるね。人間を食べる?」と母に尋ねたという。


「あの犬ね、オオカミからつくられたんだって、食べられるとしたら、ようちゃんとサキかもしれないよ。」


「ママは大丈夫?」サキは、自分の事のよりも、姉を心配した。


「サキのママは大丈夫。えいやってやっつけちゃうから。」


「よかった。」安心したのか、サキはやがて安堵して、寝息をかき始めた。


自分の事より、自分の母を気遣う。サキの気持ちに、私は胸が絞め付けられる思いがした。


 私は人に預けられることもなく、毎日、母と一緒だった。


それが、当たり前だと思ってきたが、それがどんなに幸せな事だったかと思い知らされた。


サキは夜九時に帰宅をする姉と、全く会わずに、また祖母である母に預けられてしまうのだ。


それでも、サキは母親が恋しくて、誰よりも心配しているのだった。


姪っ子のサキを大事にしよう。私はその時、改めて子供にとっての母親の大切さを認識した。


余談だが、朝目覚めたサキは「ゆうべの犬がね、さっき出て来てね。食べられそうになって、よく見たら、アンだったの。だからサキ。撫でてやったよ。」サキが三才の夏の出来事である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 取れたての胡瓜とスイカって、懐かしくなります。スイカ泥棒、許せん❗
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ