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第三話

私が英語の宿題を終えるのとほぼ同じタイミングで花恋が教室に入ってきた。クラスメイトの女の子二人と話しながら席に着き、私に手招きをした。呼ばれるままに花恋の席の近くまで行き、三人と挨拶を交わす。そして花恋から二人を紹介してもらう。花恋の前の席の子が矢野さくらさん、委員長の子が柊香織さん。二人ともフレンドリーで話しやすい印象を受けた。


「好永さんと守田さんさ、遠足の班、まだ希望出してなかったよね? 良かったら一緒の班にしない?」

「えっいいの?」

「うん、もう男子が四人決まっちゃってるんだけど…」


昨日のロングホームで、今月末に行われる遠足が『近くの大きい川でバーベキューをする』という内容に決まったのだが、まだ私と花恋は班が決まっていなかったのだ。今のクラスに友達あと六人もいないしどうしようと困っていたところを柊さんが誘ってくれた。感謝。


お昼になり、今日は花恋と矢野さんの席の近くに四人で集まってご飯を食べる。相変わらず私の席の隣では、このクラスで一番目立つ女子グループの六人組が割と大きめの声で噂話をしながらご飯を食べている。


「あのグループね、六人いるでしょ。六人全員が生徒会のファンクラブに入ってるんだよ」

「そうそう、しかもイイ感じに全員好きな役員がバラバラなの」


矢野さんと柊さんが少し声のトーンを下げて言う。柊さんが言うには、このクラスの女子は私達四人と愛中さん以外全員がファンクラブに入っているらしい。各クラスの委員長は委員会で生徒会の人と接触することもあるため、ファンクラブに入っていない人から選ばれるという噂を聞いたことがあった。柊さんは委員長になったことを不満に思っているらしいし、どうやら本当のようだ。因みに柊さんはアイドルに推しがいるから生徒会には興味がない、矢野さんは生徒会全員がそこそこに好きなミーハーだから誰か一人のファンクラブには入っていない、と言っていた。


「成程、そういう人もいるのか。ていうか早急に田中先生のファンクラブ作りません?」

「田中先生かぁ~。あ、生徒会顧問の東先生のファンクラブならあるっぽいよ」


冗談を言うと返ってきた言葉に、え、先生にもファンクラブあんの? と驚くと、まあ非公認だけどねと笑う矢野さん。なんでも、数学科の東先生は花影高校の卒業生で、生徒会長だったという。この花影高校にファンクラブというものが初めて公式でできたのは東先生のファンクラブが初めてだったそう。まあ確かに東先生はイケメンで授業も分かり易いと人気の先生だし、ファンクラブがあってもおかしくはないか。あと五歳程上だったら私も好きだったかもなあ。そんなことを考えながら最後のウインナーを口に放り込んだ。




「ゴミ捨て場、遠すぎでしょ」


全ての授業を終え、今は掃除の時間。箒を持ってゴミ箱の前で突っ立っていたら、ゴミ捨て係を押し付けられた。花恋が連いてきてくれて一人じゃないのがまだ救いだ。ゴミはそんなに溜まっていなかったため、正直一人でも大丈夫な量なのだが。二人で廊下を歩いていると、後ろから柊さんが走ってきた。教室に置いている予備のゴミ袋がなくなってしまったから取ってくるよう頼まれたが、どこで貰えるかわからないと言う。


「私ゴミ捨て行ってくるから、二人はゴミ袋取ってきて」


私の持っていたゴミ袋を手に取りながら言った花恋。どうやら花恋もゴミ袋がどこにあるのかわからないようだったので、申し訳ないがゴミ捨て係を変わってもらって花恋と別れた。柊さんと二人でゴミ袋を取りに行ったのだが、そんなに時間がかからなかったため、今度は柊さんと別れて花恋がいるであろうゴミ捨て場に向かった。ゴミ捨て場は人気がなかった。恐らく私達が教室を出たのが遅かったため、ほとんどのクラスはゴミ捨てが終わっていたのだろう。そんな静かなゴミ捨て場で、はっきりと聞こえた花恋の声。そしてもう一人、男子の声も聞こえた。物陰から声のする方を覗くと、ゴミの入った袋を持ったままの花恋と、その花恋の腕を掴む男子の姿が見えた。あれ、なんかデジャヴ…? 学校指定のカーディガンには五色くらい種類があるが、彼の着ているピンクのカーディガンを男子で着ている人はほとんどいない。女子でも少し着るのを躊躇ってしまうくらいだ。そんなピンクがよく似合う彼は、身長こそ高くないが、色素の薄いふわふわの髪に、可愛らしく端正な顔立ちをしたイケメンだった。


「ねえ、手紙くれたのってセンパイ?」


花恋に向かってセンパイ、と呼び掛けたその男子はネクタイの色から察するに一年生だろう。花恋は訳が分からないといった風に彼の顔を見上げている。


「あの、私じゃないです。ていうか会ったことあるかな? 私達」


その花恋の言葉に少し目を見開いた後、ニヤっと笑う一年生。そのまま花恋に顔を近づけた。


「僕のこと知らないの? …面白いセンパイだね」


面白いのは自分が有名人だと勘違いしてるお前だあー! と心の中で盛大なツッコみをしてしまった。聞いているこちらが恥ずかしくなるくらい自意識過剰な台詞に開いた口が塞がらない。そうそう、昨日攻略し始めた乙女ゲームのキャラもこんなこと言ってた。昨日はさらっと流していたが、現実で聞いたらそこそこにイタいな。イケメンじゃなかったらアウトだぞ。イケメンでもギリアウトだけど。そんな台詞を言われた当の本人である花恋は、引き続き訳が分からないといった顔をしていた。そしてそのまま一年生と距離を取り、ゴミを捨てた後、


「あの、掃除の時間だから…真面目に掃除した方がいいよ」


そう言ってその場を離れてしまった。さすがウチの花恋だぜ! と後を追いかけようと立ち上がった瞬間、それまで花恋の方を向いていた一年生に話しかけられた。


「で、そこで盗み聞きしてる失礼な人は誰?」


気付かれていたとは思わなかったので、そう言われた瞬間に肩が跳ねた。間違いなく私に向けての言葉だろう。私は渋々物陰から出た。さっきまでの微笑みはどこへやら。冷たい表情で私を見る瞳に泣きそうになる。誰か助けてくれ。確かに盗み聞きしたのは悪かったけどここに来たのは盗み聞きするためじゃないし、許してほしい。


「何? センパイ僕のファン?」

「アッハイ…ファンです…」


否定するのも面倒くさかったし、何より否定してさっきの花恋みたいに変な台詞を言われても困る。まぁあの反応は花恋が可愛かったからだろうけど…。念には念をだ。ファンなんているの生徒会の人だけだし、きっとこの人は生徒会役員の一人だろう。だったらさっきの自意識過剰な発言も頷ける。彼は私の手にゴミ袋が提げられていないのを確認して、小さく溜息を吐いた。恐らく、掃除もせずに追っかけか、とでも呆れているのだろう。掃除もぜすに女を口説いていたあんたには言われたくないけどね、と心の中で毒づく。


「僕、掃除とかしっかりやる人がタイプだなぁ」


そう微笑んで言った後、花恋と同じ方向に歩いていく一年生。無表情ではなくなったものの、さっき花恋に向けていた微笑みとは全く違うものだった。目が笑っていない。遠回しにタイプじゃない発言をされてムカついたが何も言い返せないままそいつの背中を見ていた。ふと足元に目をやると、ネクタイピンが落ちている。落とし物だろうかと拾い上げてみて、ついもう一度落とそうかと思ってしまった。私の手の中にある、花影高校の校章が付いたネクタイピンは、生徒会のメンバーにしか配られないと聞いた。だから一般生徒は誰一人として持っていない。役員を辞めるときには返却しないといけないので、持っているのは現生徒会の六人のみということになる。つまりさっきの一年生の物である可能性が高い。そのまま置いていくのも気が引けるし、かと言ってさっきの人ともう一度話す気にはならない。寧ろ一生関わりたくない。どうしたものか…ととりあえずポケットに仕舞って、急いで教室に戻る。

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