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第一話

「あ、湖。おは…どうしたの? 大丈夫?」


次の日の朝。家を出たら、いつも通り我が家の前の道に立って待ってくれている花恋。挨拶をした私に同じく挨拶で返そうとしたが、あまりにも私の顔色が悪いことに驚いたようだ。実は昨日、木実が友達から借りたという乙女ゲームを貸してもらい、プレイしてみた。するとまあ話が面白くて一晩で一周プレイしてしまった。最後の方は感動で涙が止まらなかったから、目が腫れているし頭も痛い。乙女ゲームの醍醐味は何周もプレイして違うエンドを探すことだと友達が言っていた、と木実が言っていたから、今日は二周目に挑戦してみるつもりだが、流石に睡眠時間二時間は身体に良くない。自重しなくては。


隣を歩く花恋に、ゲームをしていて寝不足なだけだから心配ないと笑いながら伝えると、ゲームは程々にね、とお咎めを受ける。それに軽く返事をする私に、花恋はまだ心配そうな視線を向けるが、話はすぐに学校の話題に変わった。花影高校は昨日入学式を終え、今日から授業がスタートする。クラス替えでは、めでたく花恋と同じ二年B組になれた。二年連続で同じクラスなのは、私にとっては有難い。しかし昨日、花恋ばなれをすると決めたばかりだから、少しずつ他の友達も作らなければいけない。…不安でしかない。


「転校生、どんな子だろうね?」

「転校生?」


花恋に「先生の話聞いてなかったの?」と呆れられる。今年の担任、話長いんだわ! と内心担任に毒づきながら、花恋の話に耳を傾ける。昨日担任から、私達のクラスに転校生が来るということが伝えられたらしい。しかし、転校生が来るというのは少し前から生徒の間で噂になっていたという。どうやら、見たことないくらいの美女がお母さんらしき女性と二人で学校に来ていたのを、部活生が春休みに見かけたそうだ。そんな噂私のとこまで流れてこなかったんですけど。改めて自分の友達の少なさを思い知った。少しショックを受けている間に、今度は昨日のドラマの話になり、盛り上がったところで学校に着いた。




「出席とるぞー。安達~…」


ホームルームが始まり、先生が出席番号の順番で名前を呼んでいく。クラス替えしたばかりということで、先生や生徒が名前と顔を覚えやすいように今から一週間は出席番号順で並んだ席らしい。非常に有難い。最初に呼ばれた安達さんの方を見ると、不自然に彼女の前の席が空席になっている。あそこが転校生の席なのかな。てか昨日あの不自然な空席に気付かなかった私、普通に周り見えてなさすぎだわ。


「じゃあ、お待ちかねの転校生を紹介しまーす。愛中~」


出席確認してる間ずっと待たせてたのかよ、とは思ったが、前の席の男子が興奮してうるさすぎるのですぐにどうでもよくなった。静かにしろ。お前その頭野球部だな。今私の中で野球部の印象めちゃくちゃ悪くなったぞ。

騒がしい教室に入ってきたのは、本当に芸能人でもなかなか見ないのではないかと思うくらい可愛い顔の女子だった。一瞬静かになる教室。前の席の野球部が小声で「ガチじゃん」と呟く。ガチなのはお前の反応だ。


愛中(あいなか)(あんず)です。よろしくお願いします!」


愛中さんが、ぺこっと効果音がつきそうな可愛いお辞儀をすると、また教室が騒がしくなった。照れた表情を浮かべながら空いている席に座る愛中さんを、ぼーっと見つめる。白い肌にくりっくりの目。ふわふわ揺れるロングの髪に華奢な身体。一言で言うと、絶世の美女。この間、好きな俳優が相手役として出ていた恋愛映画のヒロイン役の女優を思い出す。ふと例の野球部を見ると、頬を赤らめて愛中さんを見ている。これは恋に落ちた顔してるわ。


担任の長い話が終わるや否や、愛中さんの席に人が集まる。おい安達さん困ってるぞ。廊下にも人だかりができている。私はあれに混ざる気力がないので自分の席で机に突っ伏して寝ている。当然輪に混ざりに行った野球部の席に座って、私の方を向いている花恋が何かを言いかけた瞬間に、廊下から女子の黄色い声が聞こえた。こちとら寝不足なんだよ! と心の中で理不尽なことを叫びながら、ざわついている廊下を見ると、なるほど女子が叫ぶはずだ。生徒会六人の内の二人がいた。二人とも一年時の後半から生徒会に入ったから残念ながら名前はまだ覚えていない。花影高校は中高一貫校だが、他の中学からも結構な人数の生徒を募集する。私も花恋も高校から花影に通うことになった、所謂『外部生』である。これは珍しいことではなく、この学校の半分は外部生だ。花影高校の一年生の生徒会役員は、花影中学校で生徒会に所属していた二名が引き続き選ばれる。しかし、入学後に大変優秀だと判断された外部生がいた場合、三年生が抜けて新体制になるときに選出されることも稀にあるらしい。つまりあの二人は大変優秀な生徒らしい。


「あっ君が転校生ちゃん? めっちゃ可愛いじゃん!」


そんな二人のうち、眉が少しハノ字になっている茶髪の男が、大変優秀な生徒とは思えないくらいチャラそうな口調で愛中さんに話かけた。もう一人の短髪の男は、ハノ字眉に無理やり連れてこられたのか、愛中さんにはあまり興味がないようだ。


「そ、そんなことないですよっ…! あたし、愛中杏です。あんって呼んでね!」

「あははっ、可愛い~! 俺は園宮(そのみや)(あきら)、よろしくね、あん」


その言葉に「うん。よろしくね、晃君」と語尾にハートマークがつきそうな声で返事をする愛中さん。その瞬間場が静まり返った。愛中さんに夢中で質問していた男子や、生徒会の二人のファンは何とも言えない表情だ。そんなことお構いなしに愛中さんとハノ字眉は二人の世界に入っている。 皆が二人に注目する中、ハノ字眉の隣にいる短髪君だけがこちらを見ているのは気のせいや自意識過剰ではないはず。

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