表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子が求めた煙  作者: 加藤泰幸
一日目
2/20

一日目その2 ジョンの形跡

 車から出て見上げた金田ミーアの自宅は、白壁の四角柱にぽつぽつと窓を取り付けた、サイコロのような形の二階建て住宅だった。築十年も建っていなさそうだが、それは周囲の家にもいえる。博多の市街地に短時間でアクセスできる好立地の住宅街として、近年開発された地域なのだろう。高級住宅街ではなかったが、それでも私では生涯住めなさそうな所だった。


「マスター。必要であれば、中の様子を録画して会談を正常に記録します」

「不要だ」

「では録音、もしくは記帳を」

「不要だ」

「……承知しました」

 コルネットは微かに未練のような間を作り、引き下がった。やはり無表情だが、今度はハッキリと落ち込んで見えた。


「コルネットさんは、黒田さんのお役に立ちたいんですよね」

 すると、それを見た金田ミーアがコルネットの肩を軽く叩いて微笑んだ。

「どうだろうな。それより中に案内して貰えるかな」

「あ、はい。少しお待ち下さい」


 催促を受けた金田ミーアは足早に玄関を潜った。すぐに戻ってくると判断して何もせずに待ったが、そのまま五分が経過した時点で、煙草を吸うタイミングを逸した事を悟った。今からでも吸ったものかどうか迷ったところで、ようやくドアが開いたので、ほぼ一本を無駄にする事だけはなかった。

「すみません、時間がかかっちゃって。父はちょっと仕事で取り込んでて……リビングで待って頂けますか?」

「そうさせて貰おう」


 中へ足を踏み入れて廊下の突き当りの部屋に入ると、そこは二十畳ほどのリビングだった。六十型程度のテレビが奥で鎮座していて、その手前では革製のソファがダイニングテーブルを囲んでいる。内壁も白を基調としていて、いくつか置かれているチェストも明るい色合いだった。チェストの上には写真立てや置物が並んでいたが、床やソファには何も落ちておらず、実際の大きさ以上に広々とした印象を受ける部屋だった。


「どうぞ、遠慮なく座って下さい」

 金田ミーアはPコートを脱ぎながらソファを指し示した。同時に、これまでコートの下に隠れていたと思われるペンダントが、彼女の首に掛かっているのが見えた。


 私は座る前に、チェストに置かれている写真立てを手に取った。昔の金田ミーアと思われる小学生くらいの少女が中心に立っていて、左には小太りで太眉の日本人中年男性が、右には褐色肌の中年女性が中腰になっている。背後では、やはり褐色肌の男女の老人が立っていた。背景はタージ・マハルのようで、金田ミーアを除く褐色肌の三人はインドの民族衣装と思わしき格好をしている。その三人の顔をじっくりと観察してから、私は高校生の金田ミーナに視線を戻した。


「家族写真ですよ。左が父で、右が母。後ろの二人は母方の祖父母です。母の母国のインドに遊びに行った時のものです」

 金田ミーアは先にソファに座り、私の方を見ながら言った。

「三人は、純血のインド人のようだな」

「はあ、まあ」


 私は写真立てを手にしたまま、金田ミーアの斜向かいに腰掛けたが、コルネットは傍で立ったままだった。そう命じた記憶はないので、おそらく、伊達太陽がアンドロイド用の椅子以外には座らないよう指導していたのだろう。落ち着いたところでもう一度、写真と金田ミーアを交互に見ると、写真に映っている金田ミーアの母が、金田ミーアと同じペンダントをしているのに気が付いた。


「君のペンダントは、母とお揃いなのか」

「あー……いえ、これは形見なんです。母は六年前、私が中学に入る前に病死しまして」

「……そうか」

「ロケットペンダントなんですよ。チャームの中には母の写真とメモが入っています」

「メモ、と言うと?」

「願い事を書いて、ここに入れておけば叶うから、困った時はそうしなさい。……病床の母が、そう言ってペンダントをくれたんです。もちろん今は『ジョンが見つかりますように』って書いていますよ」


 金田ミーアは胸元でチャームを触りながら、懐かしそうに呟いた。願掛けを信じているというより、母との取り決めを大事にしているようだった。私は彼女の時間に入り込まず、立ち上がって写真立てを元の場所に戻したが、それが合図になったかのようにリビングのドアが開いた。入ってきたのは、写真に写っていた日本人男性だった。



「お邪魔しています。太陽探偵事務所の黒田です」

「ミーア……お前、本当に探偵なんかに頼んだのか……」

 男は挨拶を無視し、ソファにどっしりと体重を預けた。私もソファに戻り、名刺を取り出してダイニングテーブルの上に置いてから、もう一度座った。

「太陽探偵事務所の黒田です」

「さっき聞いたよ。金田(けい)だ」

「お嬢さんが、私にアンドロイドの捜索を依頼されたのは、ご存知のようですね」

「もちろんだよ。前々から相談は受けていたからな。買った方が安い、諦めなさい、と言い聞かせていたんだが、聞く耳を持って貰えなかったようだ」

 呆れたような声だったが、実際に呆れているのだろう。それを受けた金田ミーアは小さく顔を伏せただけで、何も言わなかった。


「買った方が安いというのは私も同感です。探偵への依頼はあまりお勧めできない」

「なら、この依頼は受けないでくれないかね。それが大人ってもんだろう」

「それはお断りします」

「はあ?」

「断る、と言ったんだ。他の要素ならともかく、年齢を理由に金田ミーアの依頼を断るつもりは、俺にはない」

「……そいつは結構。商売繁盛ですな」

 金田慶は鼻息を鳴らしながら眉を顰めた。私の言葉遣いが気に入らなかったのか、断られた事が気に入らなかったのか、もしくは両方だろう。



「ファラピン人の若者も尊大で困っていたんだが、これはファラピン人云々でなく、最近の風潮なんだろうかねえ」

「ファラピン人と付き合いが?」

「うちは農家で、ここから車で少し走った所に大きめの畑を持っているんだ。で、出稼ぎに来たファラピン人の農業指導もやっていてね。ところが、どいつもこいつも教えて貰う者の態度じゃない。かといって、高圧的に出ればファラピンマフィアが出てくるかもしれない。あれだろ? ファラピンは拳銃密輸大国でもあるんだろ? 困ったものだよ」

「全ての出稼ぎ労働者とマフィアに繋がりがあるわけではない」

「どうだかね。福岡にはファラピンマフィアがウヨウヨいるんだ。接点が無いとは思えない」


 それほどまでに警戒するのならば、農業指導自体を辞めてしまえば良さそうだったが、金田慶がその提案を素直に受け入れるとは思えなかった。そもそも提案する義理もないので、私は居住まいを正して話を変えた。


「ところで、先程も仕事で立て込んでいたようだが?」

「農家にだってデスクワークはある。農薬の発注だよ。久しぶりにやる羽目になったぜ」

「なるほど。ジョンがいなくなったので、事務が回ってきたわけか」

「そういうわけだ。事務用アンドロイドではないハウスロイドでも、うちみたいな個人事業主の事務ならこなせるんで、これまでは任せていたんだよ。まあ、その意味ではジョンが戻ってきた方が助かるんだが、ここで大金を使うつもりはない。……いいな、ミーナ。いくらかかるのか知らないが、料金はお前が払うんだぞ」

「分かっています」

 金田ミーアは小さな声で言った。それはコルネットよりも機械的に聞こえた。



「なるほど。では、もう少し聞きたい事が……」

「すまんが、これ以上はまた今度にしてくれないか? まだ仕事は残っているんだ。とりあえずあんたと挨拶しに来ただけなんだよ」

 金田慶は一方的にそう告げると、私の名刺をポケットに突っ込んでから立ち上がり、リビングから出て行った。


 ドアが乱雑に閉められた後で金田ミーアを見ると、彼女の表情はまだ沈んでいた。だが、そこへコルネットが近づいてきて、玄関前で金田ミーアがやったように肩を叩いてみせた。無表情で叩かれたのがツボに入ったようで、金田ミーアは小さく噴き出してから、気持ちを切り替えるように首を横に振った。


「ありがとうございます、コルネットさん。……で、どうしましょうか。父を無理矢理にでも呼び戻しましょうか」

「いや、タイミングを見てまた来よう。それより、君の気持ちを確認したい。本当に依頼するのか?」

「はい。気持ちは変わりません」

 金田ミーアの声に力が戻った。それほどまでに慕われているジョンがどんなアンドロイドなのか、私も少しだけ興味が湧いた。


「分かった。なら受けよう」

「本当ですか……ありがとうございます!」

「対等な取引になるんだ。礼を言う必要はない」

「それでも、お礼を言いたいんです。……それに、年齢を理由に断るつもりはないって言ってくれた事も、ありがとうございます。黒田さんが杓子定規に判断する人じゃなくて、良かった……」

「……書類を持ってきていないので契約は明日になる。調査は早期開始するに越した事はないので、これから調べてみよう。今日の分はサービスだ」

 まっすぐに好感を投げかけられる事に慣れていない私は、平静を装ってそう告げたが、内心では少し狼狽えた。とはいえ、彼女の言葉に気を良くしてサービスにしたわけではない。無論、一回り以上年下の少女に下心を抱いているわけでもない。中洲に戻ってきて初めての仕事で、少し入れ込んでいるだけの事だった。


「いいんですか?」

「どうせ暇な身だからな。明日、結果や料金の詳細な説明を聞いて、その時に気が変われば契約は反故でも構わない。それで良いか?」

「もちろんです。宜しくお願いします」

 彼女の返事を受け、私は名刺をもう一枚取り出して渡した。

「このメールアドレスに、ジョンの写真を送って貰おう。返信として、明日の打ち合わせ時刻を伝える。……後は君のアルバイト先で事情を聞きたいが、先方に連絡しておいて貰えるだろうか。探偵が話を聞きに行く、とだけ告げて欲しい」

「やっておきます。お店は大英(だいえい)という喫茶店です」

「宜しく頼む」


 私がそう告げて腰を上げると、金田ミーアもすぐに立ち上がり、目の前をすり抜けてドアへと向かった。すれ違いざまに見た彼女の瞳が、父の前でだけ曇っている理由を考えたが、明確な答えを出す前に玄関へと案内され、私とコルネットは金田家を出た。







 ◇







 事務所駐車場に車を戻した私は、徒歩で冷泉公園方面へ向かった。中洲を横断する事になるが、風俗店よりも飲食店が多い地帯なので面倒な呼び込みは受けずに済む。だから金田ミーアも、この道を通ってアルバイトに行っていたのだろう。


 途中でポケットから携帯端末を取り出すと、ジョンのホログラフィー写真がもう届いていた。端末上部で小人のように映し出された彼は、温厚そうな白髪の老人で、ロイド眼鏡を掛けていた。さながら痩せたカーネル・サンダースといったところで、年齢的には金田ミーアの祖父のように見える。その特徴を頭に叩き込んだところで、冷泉公園に着いた。そこから更に三分程歩いた所に喫茶・大英はあった。雑居ビルの一階に入っている黒壁の店で、純喫茶風のシックな外観だった。


「マスター、中の記録はいかがしましょう」

「不要だ」

「……承知しました」

 今度は、コルネットを慰めてくれる少女はいない。その必要もなかったが、私は言葉を付け加えた。


「お前は、伊達さんといる時もそんなに精力的だったのか?」

「はい。それが私の仕事ですので。必要であれば、提案頻度を変更します」

「現状のままで構わん」



 私は投げやりにそう言って、大英のドアを開けた。内装はヴィクトリアン様式とはいかなかったが、木製のテーブル席が四卓、それからカウンターが五席備わっている。薄暗い雰囲気を醸し出すペンダントライトの下には、既に客がいた。カウンター席にはパスタの写真を撮っている男女のカップル、窓際のテーブル席には有閑マダムが三人、その隣ではスーツ姿の中年男が一人。中年男はノートパソコンを叩いていて、彼の傍では同じくスーツ姿の女性型アンドロイドが立っていた。


「いらっしゃい。二名? アンドロイドも食べるなら、専用椅子を持ってきますけど、どうします?」

 カウンターの奥から、エプロンを着用したベリーショートの女性が出てきた。年齢は二十代後半辺りなので、おそらくは彼女が『友達のお姉さん』だろう。私は手を横に振って返事をし、全体を見渡せる奥のテーブル席に腰掛け、コルネットは傍に立たせた。メニューを手に取り、目に付いたミートソーススパゲティを注文すると、女性は気だるそうにカウンターの中へと戻っていった。


「マスター」

「……何か食べたかったのか?」

「食事をせずとも活動は可能です。しかしながら、この『ビックリ! えりざべすパフェ』に興味があります」

「お前の学習に三千円を払う余裕はない。少し静かにしていろ」

「承知しました」


 コルネットを制した私は、他の客の声に聞き耳を立てた。一番離れているマダム達の会話が、もっともよく聞こえたが、内容は育児に関する雑談だった。マウント合戦と言っても良いかもしれない。会話の合間を縫うようにしてカップルの声も聞こえてくるが、最近のテレビ番組の話で、これも取るに足らない。キーボードの音しか鳴らさない中年男は目で観察したが、特に不審なところはなかった。一番の不審者は、私のようだった。


 それから暫く待つと、女性店員がスパゲティを運んできてテーブルに置いた。深い皿の中で少量のパスタが絡み合っていて、若い女性受けしそうな見た目だったが、相応に食欲をそそるハーブの香りもしていた。女性店員はすぐ奥に戻らず、カウンターの中で洗い物を始めたので、スパゲティを食べながら彼女も観察したが、妙な動きは無かった。私は情報収集を諦め、手を上げて店員を呼び戻した。


「はい、どうしました?」

「話がいっていると思いますが、私、探偵の黒田という者です」

「あら……もしかして、ミーアちゃんが連絡してくれた件? それならそうと言ってくれれば良かったのに」

 女性は口調を崩した。親しみというよりも、やや呆れたような喋り方だった。


「申し訳ない。腹も空いていたもので」

「もちろん、ご飯を食べてくれるのは歓迎しますけどね。奥で話しましょうか」

「いや、ここで構いません」

「でも、他のお客さんが……」

「スパゲティを食べながら聞きたいのです。別に、聞かれて困る話にはならないのでご安心を」

「……手短にお願いしますね」

 女性は根負けして私の向かいへ座った。中年男がちらりと私を見たが、すぐにノートパソコンへ向き直った。私は彼に意識を向けつつも、テーブルに名刺を置いた。



「改めまして。探偵の黒田です」

「店主の織田絵里(おだえり)です」

 間近で見る彼女は生気のない顔をしていた。第一印象では二十代後半だったが、本当は私と大差ない年齢かもしれない。


「金田ミーアのアンドロイド、ジョンが失踪したのはご存知ですね?」

「もちろんです。いなくなった時も、あの子が店に駆け戻ってきて『どうしよう』って相談してきましたから」

「その時は、どう対応したのです?」

「ちょうどお店を閉めた時だったから、私も店の周りだけ見て……あとは、警察に相談する事を勧めたわ」

「大した対応ではないようだが、いなくなった理由に思い当たりはない、というわけですか」

「ないわ。ジョンとは従業員室で話した事もあるけど、至って普通のアンドロイドよ。強いて言えば、ミーアちゃんを慕っているようだったけど。ミーアちゃんがアンドロイド大好きだから、その分、仲が良いんでしょうね」


「なるほど。警察へは同行しなかったのですか?」

「していないわ。私も早く託児所へ行って、子供を引き取らなきゃいけなかったから」


「お子さんがいるのですね。そういえば、旦那さんもこちらで働いているとか」

「ええ。旦那は経営や営業を担当して、私は店の中を見ています。なので、あまり旦那が店に来る事はありません。ミーアちゃんのアンドロイドがいなくなった日も、旦那は営業中だったので、子供は託児所に預けていたんです。……まあ、本当に営業に行っていたのかは怪しいけれど。どこかで飲み歩いていたに違いないわ」


「旦那さんの名前と、お子さんの年齢は?」

「織田清彦(きよひこ)。子供は三歳。……ねえ、これ、ミーアちゃんの件と何か関係あるのかしら? もしかして私が疑われているのかしら?」

 織田絵里の声には、明らかに不満の色が混じり始めた。疑うかどうかを判断する為の聞き込みで、現時点では怪しいところがないのだが、それを告げても余計機嫌を悪くするだけだろう。私は落ち着いて肩を竦めてみせた。



「いやいや、そんな事はありません。つい話が脱線してしまっただけで」

「……どうかしらね。男って、嘘だけは一人前だから」

「どうやら、私に限った話ではないようで」

「まあ、ありきたりな不満よ。夫がミュージシャンのコンサートに行くと偽って……まあ、色々とね。……最近、家庭を作った事をいつも後悔しているのよ。黒田さんは指輪はしていないけれど、未婚かしら」

 おそらく、他の客がいる手前、生々しい話はしたくないのだろう。私はそれ以上彼女の家庭環境を掘り下げず、頷いて返事をした。

「お察しのとおりです」

「未婚サイドからすると、どうなの? 若いうちに結婚して子供作っておけば良かった、とか思わない?」

 織田絵里は、私を吟味するかのように覗き込みながら尋ねた。彼女の興味に付き合うつもりがなかった私は、頭の中で趣味の引き出しをひっくり返した。


「愛とは後悔しない事。アリ・マッグローがそう言っていました」

「何よそれ。アリ……マグロ……? よく分からないけど、理想に過ぎる言葉ね」

「それよりも大体の話は伺いましたので、スパゲティを頂いても構いませんか?」

「そういえば、食べながら聞きたいとか言った割に、まだ一口も口を付けていないじゃない」

「話に夢中で、食べるのを忘れてしまったのです」

「……食えない男」

 織田絵里はのっそりと立ち上がり、またカウンターの奥へと戻ってしまった。彼女が冗談を言ったつもりなのか、ただの皮肉なのかは分からなかった。



 私は残ったスパゲティをすぐに平らげたが、席に座り続けた。暫くするとマダム達が会計を終えて店から出て行ったが、他の客はまだ動く気配がない。結局、私は十分ほど経った所で席を立ち、また織田絵里を呼び出して会計を済ませ、店を出た。


 少し歩くと、すぐに冷泉公園の前に戻ってきた。大がかりな花壇と噴水が印象的な広めの公園で、何名かの子供が寒風も気にせず走り回っている。それとは対照的に、うだつの上がらない大人も気だるそうにベンチに腰掛けていた。園内禁煙の看板は見当たらなかったが、私は念の為、公園の外周を回りながら煙草を吸った。近年は路上喫煙禁止地区が拡大しているが、ここはまだ吸える場所だった。公園は広く、ちょうど一周したところで一本吸い終えたので、吸殻を携帯灰皿に押し付けて、博多駅の方へと足を向けた。



「マスター、事務所はそちらではありません」

 半歩後ろを行くコルネットが、すぐに声をかけてきた。

「分かっている」

「ジョンが向かったのも、違う方向です」

「それも分かっている」

 私は声を押し殺して返事をし、決して後ろを振り向かずに、続きを口にした。

「誰かが、後をつけている」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ