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エナジーブルース

 誰も触れなかったけど、誰もがわかっていたと思う。男子生徒が一人、休んだ理由は。きっと明日も来ない、もしかしたらその先も、いやずっと来れないかもしれない。だってその子はイジメの主犯。あんな事があれば、不登校になっても仕方がない。


292(腹痛)


 そんな事はどうでもいいくらい、今日の私は調子が悪い。まぁ、これは仕方ないやつだけど……。


Q:イジメを行っていた者は、全部で何人でしょうか?


 教室の空気は悪い。まぁ、これも仕方がない。そう、不可抗力。つまり、仕方がないこと。


「いや、ギターはFが難しくてさ」

「わかる!」


 愛梨が同級生と喋っていた。どちらから話しかけたかはわからないけど、楽器の話をしていることはわかる。まぁ、仕方ないよね。私は楽器のことよくわからないし、そういうことはわかる者同士で話したほうが楽しいし。あの()()()()、ずっと話す機会うかがってたんだろうな「楽器の話ができそうな転校生が来た!」とか、思いながら。


「愛梨と私は、教室では、W()e() a()r()e() ()()()()()()()といった顔で過ごしていた」


 私と愛梨は、教室では話さない。そう決めたわけじゃないけど、愛梨が話しかけてこないから……。気を使っているのだろうか? 私がわりと真面目なキャラだから。


「仕方ない。愛梨が決めたことだし」


 はぁ、仕方がない、仕方がない、仕方がない。成長(オトナニナル)とは、仕方がないを積み上げることである。いや、ちょっと待てよ? 私と愛梨は昨日、一緒に帰った。同級生共は、それを見たはずだ。じゃあ何故気にしない? 私と愛梨の友情を。



 翌日――――私も愛梨と教室で、少しだけ喋った。でも、愛梨はほとんど、楽器の子と話していた。でもでも、帰りは私と。292(腹痛)が酷くて、この日はそんなに会話を()()()()()()()のが残念だけど。一緒に帰ったんだ。



 翌々日――――私も楽器の子と、少しだけ喋った。思えば私はこの子と、ほとんど話したことがない。だから仕方ないよね、私が「☓☓☓☓さんがそういう曲聴くのって意外だね」と言われても。(その日の帰り、音楽の話で盛り上がった私達三人は一緒に教室を出る。それから駅でジュースを買って、少し喋って、全員ばらばらの方向へ。つまり、同じ電車のはずの愛梨は、私とは逆方向の電車に乗ったということ。)



 翌々々日――――292(腹痛)はまだマシにはならない。愛梨は教室で話す相手がまた増えて、その中の一人からりんごちゃんというあだ名をつけられていた。髪が、赤いから。本人もなんだか嬉しそうだ。愛梨はきっと、赤い髪を気に入っているから。でも私は、愛梨と呼ぶ。

 あとこの日の私は通院日だったから、一人で先に帰った…………ということは忘れないでおこう。(楽器の子には家の用事だと嘘をついたけど、愛梨には帰宅後「今日は病院だったの、ごめんね」と一通送った。その事について返信はないまま、愛梨は別の話を送ってきた。昨日話していたCDを貸してほしい、と。だから私はかばんに、指定されたCDを一枚入れて――――それからしばらくして――――同じアーティストのCDを追加で二枚いれたんだ。)



 それからさらに何日か経過し、292(腹痛)がマシになった頃――――教室の後ろの黒板の隅に、小さく書かれていた。


『りんごは同性愛者』


 それを見つけて消したのは、楽器の子。愛梨もそれを見てしまったけど……特に何も言わず、周りも触れずにいた。でも私は知ってる、楽器の子に愛梨が小さな声で「Thank you」と言ったのを。


「酷いことする人がいるね」

「あんなの、カムしたら日常茶飯事だよ」


 帰り道、愛梨はスマホを触りながら私に答えた。今日は二人、二人の帰り道。


「まぁ、気にしても仕方ないよね。誰がやったかわかんないし」

「何人かに話したの?」

 

 レズだってこと。


「ん、ああ。この前カラオケ誘われて、その時かな。ま、お酒飲んでたし」

「えっ」

「ん? ああ、☓☓☓☓はそういうの気にするタイプか。だよね……まぁ、私服だったし大丈夫だよ」


 私が驚いたのは未成年の飲酒についてじゃない。愛梨が知らぬ間に、カラオケに行っていた事。もしかしてあの日? 私に「今日は用事あるから」って言って、駅で別れた日? どうして、言ってくれればいいのに……。


「ああ、ごめん。おまえクラスの人と仲良く無さそうだし、誘うと気を使うかなって」

「な、なにそれ」


 うわ、明らかに私の性格が原因なのに、嫌な言い方しちゃった。あと今、おまえって言った? おまえって言ったよね。


「私気をつかうの下手でさ、そうだ今度カラオケいこうよ。私の奢りで」

「わ、私も出すよ。割り勘にしよ」


 あれ? なんで私、一瞬で機嫌良くなっちゃったの? キモチワル。


「書いたのあいつかなぁ。ま、いっか。隠す気ないし、少ない中から犯人探すのって気分悪いし」

「な、何人なの?」

「カラオケ一緒に行ったのは五人だよ。あ、後から隣のクラスのやつとかも来てたっけ。やっぱわかんないや」


 まさか、記憶が曖昧になるくらいお酒飲んだの?


「年齢確認とか……大丈夫だった?」


 なんか、飲酒を肯定してるみたいだな私。


「ん、なんか隠して持ち込んだやついてさ。ジンなんて久しぶりに飲んだよ。いや、そいつ以外飲もうとしなくてさ、でも盛り下がるじゃんそういうの? マジでエナドリと飲んだからやばかったよ――――」


 ジンって確か、キツイお酒だよね? エナジードリンクとお酒一緒に飲むのって、問題になってるやつじゃない? ねぇ愛梨、学校にバレたら停学だよ? ちょっと周りを信頼しすぎじゃないかな。


「ねぇ、愛梨そういうのやめたほうがいいよ」


 言わないとね、友達だし。でも……否定されたらどうしよう。


「あはは、嘘だよ! 誰も酒なんて飲んでねぇって。私こう見えて真面目だからさ。ああ、まぁガチで親の酒持ってきたやつはいたけど、見せびらかしたかっただけみたいだし。昔っからさ、あるんだよ。そんな感じで私にアピってくるやつ。なんでだろうね、よくわかんないけど」 


 良かった……。


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