ガガガガッ! ギー! ドドドド!(或いはアニメソングのメタルっぽさ)
ガガガガッ! ギー! ドドドド! 朝からけたたましい音。これがディストーションをきかせたギターの音だったら良かったのに。
「工事、朝早くない?」
「ちゃんと挨拶に来てくれたわよ」
挨拶するならさ、受験を控えている私にじゃないかな? 主婦なんかより、不安定で危うい存在でしょ?
「行ってきます」
学校までは徒歩、電車二本、自転車というなかなか忙しい道筋です。一番長いのは電車。私の乗る駅ではすでに座席は奪われ済みだから、ずっと立っていることになる。
「うわっ」
という声が、思わず出そうになった。長い金髪のお兄さんが、朝の電車の中にいたから。びっくりするほど似合わない。ASAGAERIだろうか?
彼の周りは少しだけ空いている。
あのファッション、細いジーンズにバンドTシャツを突っ込んだその姿は紛れもないメタラー。あんな80年代のステレオタイプみたいな人、始めて見たよ。
「ふふ」
思わず笑いそうになってしまった。だって、時代錯誤のファッションをしてるのにイヤホンがワイヤレスなんだよ? そんなハイテク、似合わないでしょ。一体何を聴いてるんだろ? やっぱりメタルかな? 案外実はアニメソングだったりして。アニメソングって結構メタルな音鳴らしてるの多いし。
「ヘヴィメタルのへヴィとは?」
私の予想では、アニメ業界の半数以上がメタル好きだと思うんだけど。
「おはよ」
「はよ~」
エイティーズお兄さんのおかげで、その日の私は上機嫌で学校へと上陸。今日帰ったらアニメソングを色々聞いてみよう。私が思っている以上に、ロックがあるかもしれない。
「うわ、またやってるよ」
教室の隅で、露骨に強すぎる脇腹つつきをくらわされる男の子。苦笑いしてるけど、あれは痛いだろうな。(苦笑いは笑顔だろうか?)
「男子ってなんで無駄にああいうことするんだろうね。痛くないのかな?」
「ん……そうかもね」
私は知ってる。教室ではぎりぎりじゃれ合っているように見える彼らの裏の顔。今「男子って~」と御託を言った後ろの席の馬鹿女も、きっとご存知のはずだ。
イジメ――――あの男子グループが隠れ家としている校内のある場所で行われる、ただの暴力。私は過去に何度か、意図的にそれを鑑賞しに行ったことがある。
罪悪感はもちろんある。でも私が見ても見なくとも、その暴力は変わらない。先生にチクったりすれば変わるのかもしれないけれど、私にだって都合があるんだ。「知っていることを教えてくれ」と真顔の教師につき合い、無駄に時間を消費するわけにはいかない。アイ・アム・クラス順位十五位前後、調子いいときで十位以内。その成績をキープする努力。それにより年相応の楽しみを充分に味わえないという痛みと、彼の受けている痛みどちらが重い?
『キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン』
一回目のキンコンカンコンと二回目のキンコンカンコンでは音程が違う。調べてみれば、ドミレソ・ドレミド・ミドレソ・ソレミド。うわ、思ってた以上に違うじゃないか。私は糞耳か?
「音程よりハートだぜ」
その日最後のキンコンカンコンを聞いてしばらくした後、私は誰もいない廊下から職員室の開いた窓をめがけて紙飛行機を投げた。よし! 上手く入った! さすが私。毎日部屋で練習しただけある。
「おい! 誰だ!」
廊下に教師が出てきた時、私の姿はもうそこにはない。素早く、素早く立ち去ったから。(計画的犯行! 計画的犯行!)
「殴られるところを見させてもらった、お礼だぜ。バキュン」
あの紙飛行機には、誰が書いたか特定されぬようグダグダに崩した字体で、あるメッセージが書いてある。
「3年D組の出席番号23番がイジメられています故、然るべき対処をお願いしたい。かしこ」
まぁD組の担任なら上手くやるだろう。あいつは、なかなか出来がいいヤツだからさ。