迷惑な奴ら
んんー? 僕と華村の関係について聞きたいだと……?
……昨日、学校で華村と会話をしたのは朝だけだし、しかもほんの数分しか話していない。だから他のクラスの奴が見たとは考えにくいよな……
ということは……ケーキバイキングで一緒にいた所を見られた可能性があるな。そして付き合ってるとか、変な勘違いとかされていたらたまったもんじゃない。
はぁ……これは面倒なことになってきたぞ。とにかくそいつの口封じをしなきゃいけねぇな……
──
昼休み。僕が弁当を食べようとした時、急にそいつは現れた。
「……君が相馬君だね! 少しお話があるんだけれどいいかな!」
茶髪で赤色のメガネをかけた、元気な少女が僕の机にやって来た。僕は勝手に男を想像していたので、少し驚いてしまったが、すぐに平静を装う。
「……ん、今ハンバーグ食ってんだよ。後にしてくれないか」
「おぉー美味しそうなハンバーグ! 手作り?」
「見りゃ分かるだろ……冷凍食品だ」
「あーうん。今どきの冷食って美味しいもんね!わかるわかる」
「なんのフォローにもなってねぇぞ」
まったく失礼な奴だな。こういう人のテリトリーにズカズカと入ってくる人はどうも苦手である。
「で、早速だけど本題に入るよ!」
「最初から入れよ」
「むっふっふ、これを見てもそんな態度がとれるかなー?」
そう言ってそいつは、黄色のカバーのついたスマートフォンを渡してくる。そこには僕が思った通り、華村と僕がケーキを食べている写真が表示されていた。
……盗撮とはどうも立派なご趣味をしてらっしゃることで。
「ふっふっふ、さぁ! キミは一体女王ちゃんとどんな関係だと言うのかい!」
「……」
「おやおやー? 答えられないのかなー? やっぱりそういう関係なのか……え、ちょっと君何してるの?」
「……」
僕は素早くその渡されていたスマートフォンを操作し、それらの写真を全て削除していた。もちろん『最近削除した写真』からもしっかりと削除をした。抜かりはない。
「……はい消去」
「ああー!! なんてことをー!!!」
そいつは膝から崩れ落ちる。感情オーラも黄色から青色へと一気に変化していった。
その光景を見ながら食うハンバーグはさっきよりも何倍にも美味しく感じられた。いわゆるメシウマというやつだろうか。よくわからんが。
「スマホパキ割らないだけ有難いと思え。……というかお前さぁ……そんな盗撮なんかして何が楽しいんだよ」
「わ、私の……スクープが……スクープ……」
「スクープスクープうるせーぞ。もしかして新聞部の奴か?」
僕がそう言うと、そいつはムクリと立ち上がって食い気味に話しかけてきた。
「そうですよ!! 私は新聞部に所属している深瀬真希ですよ!!」
「うるさいうるさい」
深瀬の感情オーラはいつの間にか真っ赤になっていた。
「あー!! もー!! 一面間違いなしだったのに!!」
「……ウチ学校の新聞部はそんな低俗な記事を書くのか?」
「表新聞じゃそんなこと書かないよ!!!」
表新聞……? 聞きなれない単語に僕は戸惑う。
「なんだよそれ」
「表新聞ってのは学校で配られる、君らがいつも貰ってる新聞のことだよ!! 私が狙ってたのは裏新聞の一面だよ!!」
「裏新聞……?」
……もう嫌な予感しかしない。裏ってついてる時点で絶対まともじゃないもん。
「裏新聞ってのは、ネットでこっそり有料配布してる、この学校の裏側の情報を載せてる新聞のこと!! そんなことも知らないの!?」
深瀬はキレ散らかしながら、裏新聞について説明してくれた。
「クソみてぇな新聞だなそりゃ……」
こんな時代にも裏サイトみたいなもんがあるのかよ……しょーもな。
「……ちなみに幾ら?」
「月500円!!」
「たっか」
だいぶ強気な値段設定だな……まだ〇コニコの会員になった方がマシレベルだぞ……
「も、もういいっ!! 写真無くてもいいもん!! 見たもん私!! 書いてやるもん!! 震えて寝とけっ!」
「陰キャ男子と氷の女王がケーキ食ってたって、写真もなしに誰が信じるんだよ」
「はっ! た、確かにっ!」
「さてはお前バカだろ」
「バッ……! バカじゃありませんけど!!」
そして深瀬は「バカって言う方がバカだもんー!!」と捨て台詞を吐いて、どこかへと行ってしまった。
───
放課後の屋上。僕はLimeで華村を呼び出し、 昼休みに起こったことを伝えた。
「……ということがあったんだ」
「そんなことが……すみません、私のせいで」
「いやいや華村は何にも悪くないって。悪いのはあの腐った新聞部の奴だから!」
華村に謝られて心が痛くなる。華村は本当に悪くないんだから謝らないでくれよ……
「……しかしこうなってくると厄介だな。このままだとまた一緒にいる所を新聞部に写真を撮られて、あることないことを記事に書かれてしまうよなぁ……」
「私達はただの協力関係で、やましいことは何もないと新聞部の方に言うべきなのかもしれませんね」
「新聞部がそれを信じてくれるとは思えない……だからそれはダメだ」
アイツらが信じてくれるとは思えないし、信じたところでどうせそれを記事にするのだろう。だからこの問題を解決するには……新聞部を口封じして、記事にさせないことが必要なのだ。
「そ、それじゃあどうしたら……」
「新聞部を脅して記事にさせなきゃいい」
「でもそんなこと……」
「できるさ。……さっきから聞いてんだろ? 深瀬。ビビってねぇで出てこいよ」