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説明回というのは、動きがあまり無くて大変だなーと思いました。

2、


 家に着いた僕達は落ち着くと、お風呂に入ることにした。

 普段は妹ファーストなのだが、気を使われ僕が先に入ることになった。

 お湯に触れると、右手の親指の付け根あたりから甲にかけて少し痛みが走る。

 少し赤く腫れている。

 意外にコーヒー熱かったんだな。


 それと、ヤンキー君に殴られた左肩は痛い…。

 妹と二人の世界に引きこもっていたせいか世の中の情勢に疎いところがあり、ナイフや包丁で殺人を犯す人がニュースで流れているのを見ても他人事のように聞き流していたが、もう他人事には思えない。

 日本人は平和ボケしていると言われても全く実感はないが、自衛の手段は確実に必要であることは認識できた。

 携帯のGPSは当たり前として、しっかり対策を練る必要がある。

 両親にも相談して小遣い貰わないとな。

 

「すうーっ、……はああぁぁぁ……」


 湯船に浸かり、深く深呼吸をすると心も体も落ち着いてくる。

 あまり考え込んでも気分は良くならないので、嬉しかったことを思い出すことにする。

 その方が精神的には安定するし、目を瞑り努めて笑顔を保つようにする。

 脳内でごちゃごちゃ後ろ向きなことを考えている時でも、顔だけは笑顔にしていると脳が勘違いして勝手に脳内で前向きな気持ちになると本に書いてあったが、実践してみたところ案外その通りかもしれないなーと思う。


 そして、思い浮かぶのは妹の顔だ。

 昨日は特に嬉しそうにしていたので自然と笑顔が作れる。

 まさかの提案に抵抗はあったけど、悪くない案だと思い出しその時の状況を整理してみる。

 




――――「ねえねえ、兄さん」


 布団の上で寝そべりながら、ラノベを読む僕に話しかけてくるのは我が妹。

 視線を上げると、おなかの前で手を組んで腰を左右にフリフリする妹が視界に入る。

 いつものお淑やか令嬢風ではなく、素の仕草でいいことを思いついた時のいたずらっ子のような笑顔だ。

 相当満足いく提案を持ってきたんだろうと思い、僕もラノベにしおりを挟み座って妹に向き合う。

 すごく嬉しい時や楽しい時の妹は全身でその感情を表現する。

 腰をフリフリするときは、何か言いたくてウズウズしている時の癖で演技すら出来ていないところをみると、その提案に対する拒否権はないんだろうなと居住まいを正す。

 敷布団の上に正座をして僕を見つめてくる妹の目はとても楽しそうで「んー」と言っては肩を揺らし「えっとねー」と言っては頭を左右に少し揺らし、目が合うと上目使いに微笑んでくる。

 少しすると落ち着いたようで、いつものように姿勢を正し令嬢スイッチが入る。


「兄さん。そろそろ友達を作りませんか?」


 妹の提案に僕は目を見開く。

 小学5年生の時に以来、妹に友達はいない。

 僕に関しては小学2年生の時から妹意外とは関わらないようにしてきた。

 いつかは人と関わらないといけないとは思っていたけども、妹から提案してくるとは予想外だ。

 あまりのことに僕が言葉をなくしていると、妹は「うふふっ」と笑う。


「そんなの驚いてくれるなんて、もったいぶった甲斐がありました。お父さんもお母さんも優しくて、私を自由にさせ過ぎです。兄さんなんかは甘過ぎです」


 そう言う妹の眼差しは優しい。

 そのことに不満はないようだが、今の現状を打破したいんだろうなとは想像に易い。

 

「このままでは巣立たせてくれそうにないので、巣立つことにしたんです」


 そう言われ気付いてしまった。

 一生懸命守ろうとするあまり、飛び立とうとする若鳥に気付かず鳥籠に閉じ込めてしまっていたのではないかと……。


「そんな自分を責めるような顔しないで下さい。そうではないんです。私の思いついた案はとびっきり理に適っているんです。これまで友達のいなかった私が転校したからと言って、いきなり良い友達が出来るとは思っていません。だから、兄さんに協力して欲しいのです」


「協力? 何をすればいいの?」


 そう言って貰いたかったのだろう、とってもいい笑顔で見つめてくる。


「んふふ。えっとですねー、お互い友達がいませんので良い友達の見分け方にも問題があるかと思うんです。ですが! 異性の視点からみていい子なんじゃないかなーと判断することは可能のような気がするんです」


 人差し指を立ててほっぺに指を当てる姿は、今考えているように見せかけて、実はすでに決定していることを小出しにして楽しんでいる時の仕草だ。


「それは僕が莉花(りっか)の友達候補と接触して見極めるってこと?」


 いい案ではあるだろうけど、人の内面なんて少しの関り程度で分かるものではない。といった感じで質問してみる。

 僕が疑っているように見せかける方が、莉花(りっか)も計画が披露しやすいだろう。


「いえいえ、その程度で人は測れません。長期的にじっくり友人候補を見つけてもらいたいんです。ですから中学3年生の1年の間、私が兄さんになりますから、兄さんが私の妹になって欲しいんです。つまり……」


 僕を見つめる妹の目は楽しそうだ。

 何が言いたいのか、だいたい分かってしまった。

 しかし最後まで妹に言って貰おう。

 彼女の提案なのだから。


「私が兄さんの友達を見つけてきますので、兄さんは私の友達を見つけてきてください。それだったら兄さんも安心でしょ? 兄さんがお墨付きを与えた子だったら、私も安心して友達になれると思いますし、何よりも私が兄さんを演じてみたいと思ったんです。演目は私の好きな中二病男子になりますが……」


 少し伏し目がちに僕の意見を伺う妹は、期待に満ちている。

 僕が否定しないと分かっているんだろうが、少し心配している感じだ。


 もう小学生のころにいじめられて泣いていた妹ではない。

 二人だけの世界に逃げ込んで、他人の目から逃れ続ける日々は終わったのだ。

 傷ついた妹のために色々と無理難題を熟し、女装して妹のお姉ちゃんになったりもしたり、兄妹で入れ替わって遊ぶことも慣れっこだが、それはあくまで一時のものだけだ。

 本当に自由に他人に成りすまして演じることなんて出来るはずがない。

 だが、今回の転校を機に1年間丸々お互いを演じながら友達を作ろうという計画は、僕達にとっては一粒で二度美味しい。

 自分たちが役者になって楽しみながら、友達を作るという目的まで用意された完璧プラン。

 なるほど、実に有意義な1年になりそうだ。

 僕の気持ちまで立ててくれ、そして一歩外の世界へ踏み出そうとしている。

 ここで応援せずしては兄を名乗れまい。

 思わず笑みが零れる。

 僕の妹は賢いだけでなく頑張り屋さんだ。

 楽しまなくちゃ人生面白くないと、父さんがよく言っているけど莉花(りっか)もやっぱり僕達の家族なんだ。

 だんだんと家族と考え方が似てくる妹を思うと、胸が熱くなる。

 


「よし! 妹のために、妹になってみますか!!」


 

 僕は妹の提案に対し、全面的に協力すると誓ったのだった――――





「楽しむことも大事だけど、莉花(りっか)を守ることを第一に考えないとな。しっかし友達を探して欲しいかー。流石は我が妹、兄の心がよく分かっている。いい友達見つけてあげないとな。」


 そう口に出してみると、学校生活が楽しくなりそうで待ち遠しい。

 今まで学校が楽しいだなんて思ったことがなかったが、妹のマジックに掛かってしまったようで妹の計画の素晴らしさに感服するばかりだ。

 どんな風に役を演じるかも、しっかり話し合わないとな。

 今日の疲れが嘘のように抜け、妹ととの作戦会議に思いを馳せながら風呂を上がった。



 夕食後、早速転校後の方針についての作戦会議の続きを始める。

 僕達が会議に使用している部屋は寝室。

 引っ越ししてからそれぞれの部屋が二階に宛がわれたのだが、一部屋は共同の勉強部屋として、もう一部屋は共同の寝室として使用している。

 以前は家族全員同じ寝室で寝ていたので、今更別の部屋にする必要はないとの妹の判断だ。

 お風呂上がりの妹はいい香りがするので、僕としても異存はない。

 仲のいい兄妹が寝室を共にするのは、ごく当たり前のことなのだ。

 ここに問題は存在しない。


 

「私が中二病風男子で、兄さんが令嬢風女子生徒を演じることは決定しましたよね。どのように演じるかは少しづつ詰めていくとして、転校初日の第一印象をどのようにするかは今後の動きに直結しますので、今決めたいと思います」

 

 敷布団の上で正座する妹の気合は十分だ。

 友達作りを考えた時、僕達の趣味を受容してくれるくらいの懐の深い友達を見つけないといけない。

 そう考えると、第一印象は目立った方がいい。

 好感の持てる印象を与えてしまった場合、相手の想像通りでなかった時に相手が勝手に失望してしまう。

 期待を持たせるよりも、興味を持ってもらった方がいいだろう。

 そうすると、この人はどんな性格なんだろうと前向きに見てくれ易い。


「人との関りを断っていた僕が言うのもなんだけど、目立った方がいいと思うよ。澄まして期待されるより、興味を持ってもらう方が次に話しかける時、楽だと思うんだよね」


 今の僕は胡坐をかいて、両手を後ろにつき楽な姿勢で話している。

 折角のイベントなのだから、目立ってちょっと羽目を外すくらいがいい。


「いきなりハードル上げてきましたね。確かにそうかもしれません。普段なら絶対に賛成しませんが、演じてる時は不思議と恥をかいても自分が貶められてる気がしないんですよね。いつもの私はこうじゃなくて、今は演じてる役の私だからと思うと何故か平気といいますか、へっちゃらなんです」


「それ分かる! 自分自身に恥があるんじゃなくて、役の行動に問題があると思ったら逆に楽しめたりするよね」


 こういう時は双子だなーと思う。

 演じる時のメリットを少し話すだけで共感出来る。

  

「逆にデメリットの方だけど、ほんとの自分はこうじゃないんだと思う気持ちに対しては対処できそうかい?」


 誰しも人に認めてもらいたいという気持ちはあるからね。

 演じるということは自分を隠すことでもあり、なりたい自分を先取りして演じることによって自分を近づけることでもある。

 その間にどうしても、本当の自分とのギャップが生まれてしまう。

 今回は性別まで入れ替えてしまうわけだし、本当の自分を見せることが出来ない。

 かなりの自己受容が出来ていないと辛くなるだろう。

 そこをしっかり見つめていかないと、1年も続けることは出来ない。


「その辺に関しては、ちゃんと覚悟しています。兄さんになり切って楽しんじゃおうと思っていますし、友達を騙すようで申し訳ないですが一番大事なのは家族なわけですし、……今は兄さんに分かって貰えるだけで満足です」

 

 胸の前で両手を組む姿は、恥ずかしさを堪えている時のサインだ。

 自分で言ってみたものの照れてるんだろうな。


 なるほど、僕が莉花(りっか)を大事にしている限りは大丈夫ときたか。

 まあ、楽しむことが大前提ではあるし、僕がしっかり見てれば今は問題ないか。


「そっか。じゃあ、とことん目立ちますか! 目立ち方も自分が楽しめて、今後こんな風に生きてみたいと思えるように演じたいねー。第一印象は興味を持ってもらうこと。そこで引いちゃう子は友達候補にしない。ふるいに掛けるようで申し訳ないけど、みんなと仲良くする事なんて不可能だしね。友達探しは楽しみながらがいいね」


 いつの間にか正座になって互いに向かい合い、その後も演出の仕方を話し合う。

 学校生活を楽しむために莉花(りっか)と話し合える時が来るとは思ってもみなかった。

 人は成長するんだなーとしみじみ思う。

 莉花(りっか)は自分のために僕にお願いするという体をなしているが、実際は僕に友達がいないことも心配しているんだろうと思う。

 以前の莉花(りっか)とは違い、今の莉花(りっか)は自分のためだけにそこまで熱くなれるとは思えない。

 兄さんのために、っていう感じがありありと見て取れる。

 僕は大事にされてるなーと思う。

 

 さてさて、僕達のデビュー戦はどうなることやら。

 期待と不安が入り混じりながら、作戦会議は続いていく。







ちびちび更新していこうと思っています。

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