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ゆっくりですが丁寧に書いていきたいなっと思ってます。

改稿済みです。後は最後まで書ききろうと思っています。


 ぱしいぃーん。


 とてもいい音が木霊する。

 ああ、今日もこの時が訪れたことに感謝しかない。


「私の妹に触れようなどと……、たとえお天道様が許しても、姉である私の許可なくしては何人たりとも許すわけには参りません!」


 胸を張り、顎をツンと前に出した僕は(・・)、視線で周りが注目していることを相手に伝える。


「クソッ、なんなんだよ。あー、こんなやつ相手にしてられっか。俺はもっと巨乳が好きなんだよ!」



 去り際に捨て台詞を残していくところがいいね、流石は三下いい味出してくれる。

 被害に遭いかけた妹をみると、冷たい視線で去り行く男たちを見ていた。


莉花(りっか)、あんなのを相手にする必要はありません。でも、可愛い私の妹に興味がそそられたという事実は大いに理解できますわ。誰が見ても莉花(りっか)は可愛いもの」


 そっと手を差し伸べ、鍛え上げた令嬢スマイルで妹を待つ。

 手を取った莉花(りっか)は少し困ったような笑みを浮かべ、しっかり手を握ってくる。

 おや、今日は恋人つなぎでいっちゃうの? 妹の細くて柔らかい手と指はどれだけ触れてても飽きない。思わず笑みが零れてしまう。


兄さん(・・・)、とっても楽しそう。今日も守ってくれてありがとう」


 そう言って僕の肩に頭を寄せてくる妹から女の子特有の甘い香りがしてきて、僕は心が満たされるのを感じながら、さっきの音を思い出す。

 予想通り扇子より定規の方がいい音がするなー。

 以前は扇子を使っていたのだが、はたいた時の音が鈍くて納得いかず研究を重ねるにつれ分かったことは、プラスティック製の定規で幅が広く薄めの方がいい音がすることが分かり、実証してみたくてウズウズしていたのだ。


 本日いい具合に不埒な輩が現れたので、いかに妹の髪が触り心地が良くいい香りに満ちているかを力説したところ、莉花(りっか)に手を伸ばしてきたのでお役御免となって頂いたわけだ。


「扇子を持っていくわけにはいかないですし、学校ではこの定規を使いましょう。他に買い物はあったかしら?」


 そう、僕達が買い物に来ているのは学校で必要なものを買い足すためだ。

 この春休みが終わると僕達は中学3年生。

 しかも引っ越しをしたため、春休み明けが転校後初登校になる。

 そのための準備をしているのだ。


「お買い物はお終いですね。思った以上に時間もかかりましたし、後はスタバでゆっくりしてから帰りましょうか?」

 

 目を細め、期待に満ちた瞳でお願いしてくる莉花(りっか)を無碍にすることなど僕には出来ない。

 



 

 僕の名前は御門(みかど)流華(るか)

 一緒にいるのが双子の妹、御門(みかど)莉花(りっか)だ。

「今日は、兄さんじゃなくて姉さんとお出掛けしたい!」という妹の要望を聞き入れ、僕は兄としてではなく姉として買い物に付き合っている。

 つまり女装しているのだ。

 切っ掛けは、僕達があまりにもそっくりな容姿のため妹が僕の服を着て出かけたところ、近所のおばさん達ですら僕達の見分けがつかなかったことが始まりだ。

「今度は兄さんが私になってみて」といわれ入れ替わってみたところ、誰にも気付かれなかったことが面白くて、いつのまにやら習慣化してしまったのだ。

 そんな僕達が転校を利用して、本気で入れ替わってみようと画策している。

 中学3年の1年間、入れ替わったままやり過ごしてみようという計画だ。

 そのための作戦会議をスタバで行っている。




 甘いものはあまり好きではないが、スタバのキャラメルマキアートは美味しいと思う。特に妹と雑談しながら飲むコーヒーは美味しい。今日は空いてたので窓際のいい席も確保できた。これからの予定を話し合いながら、昨日の妹の言葉を思い出してしまい自称気味に笑ってしまう。



――――『私が兄さんの友達を見つけてきますので、兄さんは私の友達を見つけてきてください』

 

 あまりに突然のことだったので理解が追い付かなかったが、よくよく考えれば莉花(りっか)が僕のことを心配しての提案だったんだろうなと思う。

 僕達には友達がいないから。

 いや、妹を傷つけるような友達はいらない。

 そう思っているうちに、ちょっとした人嫌いになってしまっていたから。

 莉花(りっか)は僕が人と関わろうとしないことに気付いていたんだと思う。

 いきなり友達を作ろうと言っても、僕が賛成しないと予想していたんだろう。

 だから、転校を機に入れ替わろうだなんて言いだしたんだ。

 

 あの莉花(りっか)が一歩踏み出し変わろうとしている。

 僕にも変わって欲しいと思っているんだろうな。

 妹を守るのが兄の役目だが、妹の成長を支えるのも兄の役目だ。

 妹の期待に応えるのも兄の務めだろうと思う。

 このミッションだけは絶対に成功させてみせる。それが妹の願いだから――――

 



「あ、姉さん今話聞いてなかったでしょう? もうっ、大事な作戦会議中なんですから他の事は考えないで下さい」


「ふふっ、ごめんなさいね。まさか守っていたつもりが莉花に心配させていたとは思わなかったもの。妹の成長に驚かされるばかりね。今回のミッションは本気で取り組むと約束したでしょ? 安心なさい。可愛い妹の友達は私が責任持って見つけてあげますからね。大船に乗った気持ちでいて頂戴」


 僕は心を込めて妹の目を見つめる。

 笑顔の練習をしていた時に気付いたことは、目だけは誤魔化せないということだ。

 本気で相手のことを考えて見つめる時と、形だけ優しそうな笑顔とでは一見しただけじゃ分からないかもしれないけど、慣れてくると瞬間的に見分けれるようになる。

 心からの笑みには心が伴っていないと作り出すことは出来ない。

 いつも心から笑えるわけではないので、心から笑顔になれることを思い出せばいい笑顔は作れるのだ。

 僕が思い出すのは、初めて莉花が心の内を曝け出して僕の胸で大泣きした時のことだ。

 あの時、心から妹を守っていこうと決めたんだ。

 もう悲しい思いをさせたくない、ずっと傍にいてあげたいと。

 


「うぅ~。姉さんの目が優しすぎる~。む~、その目は反則だよ~」


 口を尖らせ膝の上で手を組んで、親指をもじもじさせながら照れる妹には胸がきゅんきゅんしてしまう。

 よく見ると、つま先も一緒にもじもじさせているのを見ると辛抱できなくなり、そっと頬に口づけをする。


「あう~」といいながら僕の肩に少し寄りかかってくる妹の頭を撫でながら、どうすれば良き友を見つけることが出来るだろうかと思案する。



 その時、通路で人とすれ違った時に肩がぶつかったのだろうか。

 コーヒーを持ったおさげのメガネっ子がふらつきながら、僕達のテーブルの目の前まで来るとコーヒーを落としてしまう。

 もったいない! と思い咄嗟に手を出して掴むと勢い余ってカップを少し潰してしまい中から熱いコーヒーが少し零れる。

「あっつ!」結構熱かったけど、なんとか掴み取ることに成功しほっと息をつく。


「ごめんなさいね。少し零れてしまいましたが、助けることが出来ましたわ。折角の美味しいコーヒーですもの。よかったですわね」


 笑顔でコーヒーを差し出すと、メガネっ子は受け取り少し動揺している。


「あ、ありがとうございます。あの、すみませんでした。熱くありませんでしたか? 私の不注意でご迷惑をおかけしました」


 ペコリと頭を下げるメガネっ子に、なんだか妹を重ねて見てしまう。

 丁寧な子だな。もっとドジっ子なのかと思ったけどいい子だね。


「コーヒーが無事でよかったわ。それキャラメルマキアートでしょ? 私も大好きですのよ。お仲間ですわね」


 僕が微笑むと、やはりメガネっ子は動揺している。

 とっておきの対妹慈愛スマイルのまま微笑んでしまったから驚かせちゃったかな? 

 

「はい。時々しか来ませんが私も好きです」


 緊張しているようで笑顔がぎこちないが、物腰の落ち着いた柔らかい感じの子だ。少し話しただけなのに人となりが滲み出ていて好感が持てる。


「もしよろしければ席は空いてますので、ご一緒しませんか?」


 思わず誘ってしまった。妹の友達にいいかもしれないと思ったのも影響していると思う。


「いえ、ありがとうございます。これ以上ご迷惑をお掛けするわけにはいけません」


 頭を下げるとメガネっ子は行ってしまった。


「姉さん、いい子でしたね」


「ええ。莉花のお友達にと思ったのですが、上手くいかないものね」


 まあ、まだ始まったばかりだし焦ることもないか。

 後は家で話し合うことになり帰途に就く。





 普段は歩いて帰るのだが、通学はバスも許可されているため今日はバスで帰ることにした。

 久々のバスに油断していたこともあり、すっかり酔ってしまった。


「兄さん、大丈夫?」


 兄を気遣う優しい妹が背中を摩ってくれるのだが、どうやら逆効果だったようだ。

 さっきから飲んだコーヒーが外に出たいと叫んでいる。

 まだ家までは距離があるのだが、残念ながら水を入れても安心できるような袋は持ち合わせておらず、途中下車することにした。

 せめて、せめて、側溝か電柱まではいかねばと気力を振り絞り目的の場所に着くと、気が緩みコーヒーが溢れ出してきた。

 

 エレエレエレエレと流れ出すコーヒー。

 莉花(りっか)には離れるよう伝えてあるから安心だ。

 髪もアップにしてもらっていて、ほんとよかった。

 とてもじゃないが髪を気にするゆとりはない。

 すべてのコーヒーが流れ出し、人心地付こうとしたら髪を掴まれ後ろに引っ張られた。

 え? 体をねじり後ろを向くとヤンキーと思しきソフトモヒカンのお兄ちゃんがご立腹だった。

 そっと足元を確認すると、あら、コーヒーが付いてるじゃないですか。

 ちょっとコーヒーが付いたぐらいでヒドくない? とは思うけど、悪いのは僕だろうなと思い、謝ることにした。


「ごめんなさい。周りを確認するゆとりはなかったの」


 髪は握らないで欲しいんだけど……、そんな心の声は届いていない。


「あ゛あん?」

 

 あかん、このヤンキー君はおつむが足りてない。

 僕は男とはいえ、今はだれが見ても女の子に見えているはずだ。

 なのにヤンキー君には関係ないようだ。

 間違った男女同権を見た気がした。

 このままでは暗い未来しか見えてこない。

 仕方がないから、先手必勝の離脱を試みるか。


「ごめんなさい!」


 謝って油断させておいたところからの、右ローキック。

 ゴスッ、っとかなりいい感触だったのでいけたのでは? 思った通りヤンキー君は髪を手放した。

 よし、逃げよう!

 チラっと顔をみると鬼がいた。

 鬼の右手が動いたので、ヤバイと思い咄嗟に肩でガードするが勢いを逃がしきれずモロに衝撃が来る。


「ぐうぅっ!」


 不意打ちローキックは効いていると思うのだが、なんという威力。

 今の状態で逃げても逃げきれない。

 なんとか隙を作って逃げなくちゃいけない。

 歯を食いしばり、足から腰へと力を繋げ左ひじの引きを利用して全身全霊の右ストレートをヤンキー君の左頬に叩きこむ。

 


 が、――かすっただけだった。


 

 ヒイィィィィ!

 終わった。

 反撃を恐れるあまり身を縮めるのだが、衝撃が来ない。

 あれ? っと確認すると、何故か膝をついているヤンキー君。

 あ、逃げよう。

 バス停の方を見ると、口が半開きになり青い顔をする莉花(りっか)を見つけたので手を引っ張り、一目散に逃げだした。


 最近筋トレを頑張っていたので少しはやれるんじゃないかと思っていたけど、僕には喧嘩は向いていないようだった。

 次出会ったら確実にやられる。

 着ている服が学ランだったので中学生と思って侮っていたが、もしものための対策を考える必要があるなと考えを改めた。

 日々の筋トレは妹を守るために行ってきていたのだが、外敵は予想以上に強大であり、今のままでは対処出来ない。

 僕達と同じ中学生が男女の見境なく絡んでくるかもしれないと想定しておかないと、莉花(りっか)に万が一のことがあってからでは遅すぎる。

 運の悪い出来事だったけど、今後のことを考えると良かったのかもしれないとも思う。

 自分たちが想像している以上に自衛の手段は持たなくてはいけない。


 

 1年間もの入れ替わりを成功させるためには、もっと綿密な計画が必要かもしれないと僕は心を引き締めた。








読んでくださりありがと~

ぼちぼち更新していきたいと思ってます。

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