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あなたは何者?

パソコンを新調したおかげでクラウドに眠っていたこの作品がサルベージできたおかげで投稿できるようになりました

「お待たせしました」


 一旦区切りがついたところでウエイトレスが料理を運んでくる。

 テーブルに頼んだ料理が並ぶ。全ての料理が並び終えたところで、ウエイトレスは伝票を伝票差しに差して、「ごゆっくりどうぞ」軽く会釈をして、去っていく。

カレンちゃんは早速、両手を合わせ「いただきます」と感謝すると慣れた手付きでナイフを右にフォークを左に持ってハンバーグを切り、口に運ぶ。


「うん。この庶民的な味が堪らないのよね」


 そう言ってカレンちゃんは次々とハンバーグとご飯を交互に口に運ぶ。その食べっぷりはフードファイターを彷彿とさせる。まるで今までかかっていたリミッターを解除したような勢い。

 私と輝君はカレンちゃんの食べっぷりに圧倒されて、手が止まってしまう。


「食べないの?」


「い、いや。食べるさ」


「う、うん。いただきます」


 カレンちゃんに促され、私と輝君はほぼ同時に料理を口に運ぶ。

 醬油ベースのあっさりとした味付けが口に広がり、野菜の触感とうどんののど越しが美味しさを引き立てる

「ねぇねぇ、二人は部活に入ったりする?」


 カレンちゃんは料理を飲み込むと再び会話を始める。


「私は陸上部に入るつもりかな」


「陸上部なのね。真由は足が速いのね」


 期待に満ちた視線が私に刺さる。

 確かに一般の女子生徒から見れば私は断然速い方だと思う。でも、みんなが期待するほど速いかと言われれば私は違うと思う。

 中学からずっと練習し続けているけれどそれでも所詮は地区大会止まりの実力しかない。

 だから、期待されてもそれに応えられるとは限らない。

 うどんを口にする。さっきまでつるんと喉を通った麺が上手く呑み込めない。


「輝は何部に入るの?」


「僕は帰宅部になるかな」


「あ。私と同じね!」


 同士を見つけて嬉しいのかカレンちゃんは身を乗り上げ、輝君と鼻が触れそうになるほど、顔を近づける。

 輝君は気まずそうに視線を逸らす。しかし、カレンちゃんはそのまま話を続ける。

 そんなやり取りを私はモヤモヤした気分で見ていた。


「帰宅部ってことは別に習い事とか趣味とかやっているの?」


「いや、アルバイトだね」


 輝君の言葉にカレンちゃんは思わず首を傾げる。そして、ゆっくりとソファーに腰掛けなおす。

 ほっと安堵の息を吐く。


「……私達の高校ってアルバイトは禁止な筈じゃない?」


「大丈夫。許可は貰っているから」


 世永谷高校は原則、アルバイトを禁止している。

一応、許可さえ貰えばできるけど、当然例外を認めるということで審査は厳しい。

輝君の家庭事情は非常に複雑だ。

 幼い頃に両親と離れ、中学を卒業するまでは宮大工を営む祖父の家で生活していた。しかし、その祖父が今年になって腰を悪くし、宮大工を辞めざるを得なくなってしまった。

 かろうじて六十歳を迎えている為、年金は貰えている。しかし、それだけで二人の生活を支えるのは厳しく、輝君がアルバイトをしてお金を稼げなければまともな生活を送れない。


「そうなの」


 ちゃんと理由があるならいいやと言わんばかりにカレンちゃんは理由を追求することなく、納得する。

 意外だった。好奇心が旺盛そうなカレンちゃんのことだからしつこく理由を聞いてくると思っていた。アルバイトせざる得ないという状況で色々と察しているのか。……ないとは思うけど、輝君の家庭事情を知っているのか。

どちらにせよちゃんと気遣える人なのは確かみたい。


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