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宝石

 橋渡し役の輝君がいなくなった途端、重い空気が流れ始める。

初対面の相手と二人きりになれば当たり前か。

そういう空気が嫌なのだろう。吉祥寺さんは率先して空気を換えようとしてくれる。


「そういえば自己紹介がまだだったね。私は吉祥寺カレン」


「私は玉川真由」


「真由ちゃんね。素敵な名前ね」


「あの……吉祥寺さんは」


「カレンでいいよ。真由ちゃん」


 私のたどたどしい声、引きつった顔とは逆にカレンちゃんははきはきとした声と笑顔でとても印象が良く感じる。


「それじゃあ、カレンちゃん。その……綺麗な髪だね」


「ありがとう。真由ちゃんのボブヘアも凄く可愛いよ」


 カレンちゃんはお日様のような笑顔を浮かべながらくすみのない宝石のような言葉を渡してくる。


 この笑顔と言葉で何人の男達……いや男女問わず心をときめかせたであろう。私も自然と吉祥寺カレンという少女に心惹かれ始めている。


 カレンちゃんは宝石のように輝いている。体の周りからにオーラが溢れ出ていて、道行く人達の視線を奪う輝きがある。でもそれは眩しいとか目立つだけではない。どこか儚さがあった陰と陽そのギャップがカレンちゃんを引き立てているような気がした。


 宝石以外で例えるなら散る間際の桜だ。


「お待たせ」


 カレンちゃんとの親交を深めたところで輝君がドリンクを茶色のトレーに乗せて戻ってきた。


 そして、ソファーに腰掛けるとまずカレンちゃんの前にコーラを。次に私の前にはオレンジジュースを置いてくれる。


 私とカレンちゃんは「ありがとう」と言って一口、喉に通す。

 口の中にオレンジの甘ったるさとほのかな酸味が広がる。


「ねぇ、どうしてあなたは私を誘ってくれたの? あなたの知り合いに似ているから?」


 コーラを置いてカレンちゃんは輝君に問う。

 ずっと気になっていた疑問だった為、私は耳を澄ます。


「いや。理由はないさ。強いて言うなら偶然そこにいたからかな」


 輝君は野菜ジュースを一口飲みながら淡々と答える。


 そんなわけがないと私は心の中で自己解釈をする。

 自分から滅多に行動しない輝君が私以外の人とお昼に誘うことなんて、失礼だけど異常事態だ。だから絶対に裏があると私は確信していた。


 私が考える説の中で有力なのはカレンちゃんが幼い頃に出会った女の子に似ているから。ただ、輝君が真実を口にする気がないのなら一切判明することはないけど。


「そう。偶然なのね。それでも嬉しかった。ありがとう」


 カレンちゃんは笑みを浮かべる。でも、その笑みは先程までの眩しいものではなくて、羽毛のように柔らかい笑顔だ。


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