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特別なクラモト-後-


 詳しい人物紹介は、勿論ありません。

 考えるな感じろ状態ですね、感じてください。



「ヤーハッハッハッハッハー! 何だかんだと言われたら、答えてみたいところだけど僕は逃げる! (てのひら)ロケット射出準備OK!」


「世界の平和も愛も真実も興味ない。射ちゅちゅ……しゃつ…、発射される準備OK」



 異能力学園の中庭に追い詰められたアホ2人。

 額に玉のような汗を浮かべ、肩で息をしながら迫るのはバカ捕獲に駆り出された比較的若い教師達4名だ。


 アホ2人は策に掛かった教師を嘲笑うかのように、それぞれの異能力を使って空高くへ飛び出した。

 たがしかし、教師達だって無能ではないのだ。簡単に逃げられるなんてプライドが許さない。

 手加減して使わなかった異能力を発動させることにしたみたいだ。


「うわぁ……(もく)ちゃん、不味くない?」


「不味いね。それに、そろそろウチの2人が出勤してくるし」



 なんて会話を空中で交わす余裕はあるらしい。

 フワッと衝撃を殺して着地すると、追ってくる教師に向かって歩いていく。

 その堂々たる姿に、まだ何かあるのかと身構える。



「さあ、先生達。談話室へ行こう」


「ん、そろそろ限界」



 一体何を考えているんだと言わんばかりの視線を受けながら、一体何を考えているんだと直接言われた2人がケラケラと笑いながら、適当に答えている間に談話室に到着した。


 学園の談話室は、相談ごとや説教などで使用されることが多く、2人はそこの常連である。割合的には4:6と、意外と相談も多い。


 いつもの談話室に入ると、手馴れた様子で戸棚を開けてお茶を取り出している。

 何故そんなものが、と思う間もなくお茶と茶菓子を用意されてもてなされる。


 そんな訳の分からない状況でも、アホ2人を説教していると、説教している先生の救世主が現れた。

 まぁアホの担任と、同じグループの2人である。



「西山先生、代わります。ウチのクラスのアホがご迷惑をお掛けしました」


「あぁ斉藤先生。お疲れ様です」


「いやぁ(とおる)が申し訳ないね」


「アホな(もく)ちゃんがすまない」



 アホアホ言われている2人が適当な戯言を抜かすのを聞き流して、担任であるその斉藤先生と説教していた先生が入れ代わる。ちなみに他の3人はそれぞれの授業があるため、先に戻っていった。 



「さて、何か言うことはあるか? 別田(べった)


「夏休みの課題が多いので、減らしてください」


「無理だ、諦めろ。月岡(つきおか)


「冷房の温度上げても良いですか? 寒い」


「好きにしろ」



 慣れたもので、一々こんな事で腹を立てたりはしない。そんなではこいつらの担任は務まらないのだ。それに、どうせ後で後ろのまともな方のメンバーにボコボコにされて謝罪に回るので、自分は罪状を突き付ければ良い。


 さて、ここ異能力学園。

 非常に生徒の数が多い。従って問題児の数もそれに比例している。この程度、で済ませるべきなのか否か。


 答えは、この程度で済ませても良い。


 確かに、授業をサボり放送室を無断使用し、数名の教師を疲労させた。が、何も壊していないし、校外へは迷惑を掛けていない。

 異能力だとか年頃の子供だとか、学園の設備だとか、兎に角お金が掛かって仕方がない。


 現在の学園の基準では、何も壊れていなければセーフなのだ!

 

 ただまぁ、問題は問題だ。



「お前ら今日から1ヶ月、雑用係な」


「んなぁ~、やだなぁ」


「ォウ…ジーザス……」


「それと月岡。お前今日の小テストも壊滅だったぞ、補習な。サボったら別田とセットで雑用係を無期限延長にするから。じゃあ俺は続きの採点してくるから」



 説教がこんなにも簡単に終わるのは、まともな方2人が信用されているからである。

 それに、説教の本番はこれからである。



「補習とか、フッ…バカめ」



 談話室から出ていく担任を見送って、我慢出来ずに吹き出したまともな方の男の方。

 この4人、他の3人は低くても平均点の上にいるのだ。そして、吹き出した男子生徒は脳筋みたいなゴツい見た目の割りに、一番テストの点数が高い。


 部屋から教師が居なくなり、生徒だけになる。


 

「ねぇ2人とも、何回バカをするつもりなの? 透は良いかも知れないけど、陸馬(もくば)は普通に卒業して就職したいんでしょ? いい加減にしないと卒業すら怪しいわよ」


「そうだねぇ~、分かってはいるんだけどね~。あぁでも一応、この前のインターン先に内定は貰ってるよ。卒業さえすれば良いレベルのやつ」


「その卒業が怪しいって事に気付きなさいよ。今回は雑用で済んでるけど、停学にでもなってたらどうするの? 自分の出席日数を数えなさい」


「まあまあ(らん)ちゃん。その程度の事は折り込み済みだよ。アレで与えられるレベルの罰を見越してやってるんだから。僕達が、そんな初歩的なミスをするわけないじゃないか」


「…だから(たち)が悪いのよ、あんた達。昔からどうして、そのヤル気と計画性をもっとマシな方向に向けないわけ? 陸馬、貴方なら何にでも成れるでしょうに……」


「そう! 僕は器用で要領の良い人間だからね! その気になれば、大抵の事はどうにでもなるさ! だから今この瞬間を楽しみたいんじゃないか。……はっ! もしかして、一緒にエスケープしたかった?」


「まったく……空雅(くうが)


「あいよ。アホ供、歯ァ食いしばれ」

 


 言っても聴かない無駄に知恵の回る奴には、鉄拳制裁が手っ取り早い。これが教師からなら問題になるかも知れないが、生徒同士、それも親友と呼べる者からならば軽い喧嘩として処理出来る。

 そもそも、この一発を貰うことまでを読んで騒ぎを起こしている。覚悟は出来ていた。


 男も女も関係ない。この親友(バカ)2人には、手加減するだけ無駄である。

 そんな事をとっくに悟っている空雅は、陸馬と透の頭頂部に思いっきり拳骨を叩き込む。


 ゴッ…と鈍い音が二回鳴り、談話室の床を転がり回って悶絶している2人に、更に追い討ちをかけていく。



「そうかそうか、俺の拳がそんなに嬉しいのか。喜べ、そんなお前らにもう一発プレゼントだ」


「待って空雅! 流石の僕でも2発は想定外だから!」


「だから罰になるんだろうが、文句あるなら増やすぞ言ってみろ」


「どうせ拳骨でしょ? 空雅の豪腕ゴリラ! バーカバーカ、バナナでも食べてろ!……ってさっき陸ちゃんが言ってました」


「……ほう…筋トレの成果が出てきてるみたいだな。そのゴリラの暴力を追加してやる、よ! オラァ!」


「ヌァあァぁアあァァ! 痛イィィイ! 僕そんな事言ってないしぃ……」


「どーしてボクまでぇぇ…!? 全部陸ちゃんが悪いのに…」



 再び転げ回る2人。

 誰も一発で済ませてやるなんて言っていない。


 そして、追い掛けていた教師が4人だったので、それぞれ最低でも4発はお見舞いする予定である。

 鉄拳制裁を施すことが一番多いが、耐えれば良いと思われてはいけない。

 肉体的な苦痛ともう1つ、精神的なお仕置きを用意している。



 ゴッ…ドゴッ…と、結構エグい音を鳴らして合計4発のゴリラの鉄拳が猛威を振るった。


 10分程悶絶してそれなりに痛みが引いた所で、今回の罰の止めを刺しに行く。



「欄ちゃん…まだあるの?」


「ええあるわよ。もう1つ。陸馬は4回、無償で依頼を完遂させなさい。評価が低かったりしたらやり直しだから。透は、陸馬の手伝いね。終わるまでは、このバイクの鍵を預かっておくから。透のお母さん(陽菜おばさん)にはもう話を通してあるから、スペアもセカンドバイクも封印よ」


「陸ちゃん! 今すぐ依頼を探しに行こう!」


「……欄、準備に口座のお金を使っても良いかい?」


「許可するわ。ただし、何を幾つ買って幾ら使ったかは共有しなさい。レシートで良いからとっておくこと」



 話は終わった、と部屋を出ていく。

 許可を貰っているとはいえ、授業を抜けているのだ。例え途中からだろうと授業には出席しなければならない。

 急ぎ足で欄と空雅は教室に向かう。


 とぼとぼ歩いているのが、陸馬と透だ。

 歩く衝撃や大声が頭に響いて痛いのである。

 取り敢えず、保健室へ行って頭が割れていないかを確認してもらうらしい。

 まだふざけているのかと言いたいが、割りと本気で痛い。ちょっと弁解してる余裕が無い。




 これで事件は解決した。


 …………とは行かないのが、ここ異能力学園だ。


 夏休みの課題が多いと言うのは、生徒達のほぼ全てが思っていること。

 放送室を占拠してまで言うことか? とは思ったが、放送で流れていた要求には全面的に賛成なのである。


 これから暫くは、同様な問題児が同じ理由で騒いだり、ふざけて課題を減らせとの文句が飛び交うだろう。


 陸馬と透は、それが狙いである。

 自分達が火付け役となり、夏休みの課題の量への不満を表面化させる。

 1教科毎には少ないかもしれないが、科目が増えれば総量はかなりのモノだ。


 上手く行けば、来年以降の課題が減るかもしれないし、教科毎の連携が更に密になり課題がやり易くなるかもしれない。


 2人とも、理解しているのだ。

 本当に通したい意見は、同じ意見を持つ者同士を集めて発言力を増すべきだと。


 ただ、そんな面倒な事をするつもりはない。

 今回、意見を大声で述べた事でそれに賛同する者が出てくるだろう。この中に、この意見を通そうと活動してくれる人が現れるのを願っている。


 熱心な活動家が現れれば、2人の勝ちである。

 生徒達が共通の不満を持ち、それを教師が強く認識しているこの状況でも、十分に目標を達成している。


 2人は満足そうに、痛む頭を抱えて保健室へ向かう。





 ……まぁそんな事よりも、2人には大事な事がある。



「今回も楽しかったねぇ~」


「そーだね。パラグライダーで登校した時ぐらい楽しかった」


「空雅と欄ちゃんも参加すれば良いのにねぇ~」


「真面目だもんねぇ~」




 そうゆう事である。

 意見だとかそんなのは建前でしかないのだ。


 この騒ぎを起こすことそれ自体が、2人には娯楽なのである。


 なんて傍迷惑なのだろうか。

 人をおちょくる事が趣味なのだろう。


 こんな2人は、空雅と欄に連れられて、授業後に職員室へ謝りに行った。

 そして、全くお前達は……と苦笑して許されたのは、人柄と日頃の行いと、もっとヤバい人が居るからである。






 


 



 正直、こんな友達が居たら面白そうだと思っています。

 とても仲良くなるか、本気で距離を取るかの2択ですね。

 

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