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副隊長。それ何回目ですか?

 酒に強いのか弱いのか?




 ここは大衆居酒屋。

 雑多に飛び交う言葉に紛れて愚痴も飛ぶ。


 日本特殊異能力部異能課、異能力軍3番隊隊員。たまにはお酒の力を借りて楽になりたいし、溜まっている不満を吐き出さなければやっていられない。

 異能力軍は、思っていたよりも忙しい。


 

「それにしても、斉木(さいき)さんってこう言うお店にも来るんですね。正直意外でした」


「確かに! もっとこう、オシャレなバーとかに行きそうですもんね」


「良く言われるけど、私は居酒屋さんの方が好きなんだよ。1人ならバーでも良いけどね。そんなことより、食べよう。冷めたら勿体ないし、まだまだ追加されるからね。私の奢りだし、遠慮せず好きに食べて飲んでいってね」


「いただいてます」



 メンバーは4人。3番隊副隊長の斉木 レラ。

 あとモブ3人……は流石に可哀想なので紹介しよう。あまり特徴は無いが、強いて言うなら身長の高い浅井(あさい) 哲也(てつや)。黒縁眼鏡の馬場(ばば) 春彦(はるひこ)。見た目だけなら遊び人な千原(ちはら) 隼人(はやと)


 そんなことはどうでも良い。

 4人は出張先での仕事が終わり、その足で飲みに来ている。帰宅は明日、朝にチェックアウトの予定だ。

 3番隊は大きなモノから小さなモノまで、結構頻繁に飲み会が開かれる。特別お酒が好き、と言う訳ではないが、お酒を飲んで愚痴を溢す事が多い。何か言っても、それはお酒のせいである。



「今日は…って言うか、今日もですが、やたらとお礼言われましたね……」


「そうね、私達、見てただけなのにね」


「僕らがやったのって、本当にただの雑用とかの手助けですよね……」


「出張してまでやる事だったんすかね? あれ、俺達居なくても問題無かったんじゃないの?」



 揃いも揃って長く深いため息を吐く4人。

 確かに、今回も出張の意味が分からないものだった。

 今回は土砂崩れで塞がった道路の、土砂を撤去して道路を補修、清掃、周囲の地盤の補強をして終わりだ。

 かなりの大規模で起こった土砂崩れだが、山奥で人災も無し。交通も限りなく少ない上に迂回路の方が広く安全。たがしかし、いざと言うときに国が想定する交通ルートであり、誰も使っていないが大切な国道である。


 故に、それなりに急ぎの復帰が求められた。


 その地区の業者に、自衛隊の重機部隊、そして異能力軍3番隊。

 なのだが、何せ業者は仕事のプロフェッショナルだし、自衛隊だって普通に優秀な人材が揃っている。むしろ、人数が多く体力もあるので、その辺の異能力なんかよりもずっと役に立つ。


 現場を手伝ってくれと呼ばれたにも関わらず、そこで見ていてと椅子とドリンクを用意された挙げ句に、終れば必要以上に感謝を押し付けられたのだ。

 何もしなさすぎて罪悪感に心を蝕まれた4人は、何か出来ることを、と手伝いを申し出たのだがやんわりと却下。そこに居てくれるだけで士気が上がるとかなんとか……

 いたたまれずに、こそこそとその辺に転がっている雑用をしていたのだが、それが見付かって無駄に喜ばれた挙げ句に雑用すらも取り上げられた。


 何のために自分達が呼ばれたのか。

 異能力が必要だったからではないのか。

 ただ見ていただけで、何故士気が上がるとかほざいているのか。


 とっくの昔に、3番隊員のキャパは超えている。


 最近、飲む酒の量が増えたらしい副隊長と、優秀だが何かに秀でている訳ではない隊員3人の溜め息は止まらない。


 ふと、何かを思い出した……眼鏡が口開いた。



「そう言えば、斉木さん」


「なんだい? 馬場君」



 そう、馬場だ。



「彼氏さんとは上手く行ってるんですか? 」


「ん"ん! ゴホッゴホッ…」



 そのリアクションで全てを察した。流石、空気読める部隊No.1!

 3人は、シレ~と目を逸らすが、無駄な足掻きだ。


 異能力軍3番隊副隊長、斉木 レラ。

 普通に美形で、普通以上に仕事が出来る。人当たりも良く、人望も集めている。家事が出来ない等と言う欠点もなく、性格も悪くない。


 彼女の悩みは、彼氏に逃げられ続けている事だ。


 グズ男に引っ掛かっている訳ではない。

 真面目に誠意を持って付き合っているのだが、結婚直前になると決まって破局を迎えている。


 さてと、長くなるので覚悟して欲しい。



「はぁぁぁ~、聞いてくれるわよね? と言うか聞いて、慰めて。今回は、今回こそは! 良い感じだったの。お互いの両親に挨拶する予定…日程まで決めてたのに……ほら、私達はさ…こんな仕事してるじゃない。最悪、明日は戦場で、そのまま死ぬ事だってあり得る。でも私は、この仕事に誇りを持ってやってるのよ。それに今の時代、私達の存在は絶対に必要になる。だから、辞めたくないの! 何回言わせるのよ! 何回だって言うし、私の気持ちは変わらない! 私は、異能力軍を辞めるつもりは無いわけ! ……でも、彼はそれでも良いって言ってくれたの。私が満足して納得出来るまで続ければ良いって言ってくれたのよ。……本当に、今回ばっかりは誰も悪くないのよ……海外転勤ってなに!? 期間不明!? 早ければ7年で一旦戻る!? ただでさえ、家に帰れない私達なのに! 保持者は、おいそれと日本から出られないのに! パスポートを国に管理されてるのよ!……そりゃ断って欲しいわよ、でも彼の夢のためだから…止めてくれなんて言えないじゃない! だから二人で話し合って、別れる事にしたの。」



 ジョッキに残っていたビールを煽って泣き崩れる斉木を、どうしたものかと顔を見合わせる。

 切っ掛けを作ったのはお前だろ? 何とかしろよ、と目線で訴えられた馬場が声を掛ける。



「待つことは出来ないんですか?」


「そりゃぁね、その話もしたわよ。当然じゃない。あんな好い人を逃がすなんて勿体ないもの。でも、だからこそ…別れたのよ。最短で7年よ? 私の為にそんな拘束出来ないししたくないの! それだけの期間があれば、彼なら向こうで幸せになれるわ。だったらそっちの方が良いじゃない! それに画面とかスピーカー越しでしか会えなくなる。そうなって再会したときに、今みたいな関係に戻れるのか不安なの! この感情は、何処にぶつければ良いのよ!?」


「あ、落ちた」



 言うだけ言って寝落ちした斉木。

 魅力ある女性だが、3人が手を出す事はないだろう。

 馬場と千原は彼女持ち、浅井は一児のパパである。モブだと言うだけで、普通に充実した日常を送る3人なのだ。


 それに、斉木が寝落ちすることは珍しくない。いつも2~30分もすれば勝手に目を覚ますので、それまで放置するのだろう。



「斉木さん。また仕事中毒になるのかな?」


「それな、倒れない様にフォローするぞ。いまメール回した」


「サンキュ。……なぁ、斉木さんの手前言えなかったんだけどさ、俺、結婚が決まった。来月末に籍を入れてくる」


「マジか、暫く言えないな」


「結婚祝い何が欲しい? 飲み会は……あ、幹事俺だわ」




 千原が結婚するらしいが、特に関係ないので深く掘ることは無いだろう。


 3人は、適当に時間を潰した。

 愚痴は限り無いのだ、それに異能力軍には濃い人間が揃っている。話題は尽きない。


 そしていつも通り、斉木は30分弱で目を覚ました。

 仮眠でスッキリして、言いたい愚痴も言って、一通り慰めの言葉を貰って満足した斉木が、仕事に打ち込む宣言をした所で解散した。

 まぁ、同じホテルで部屋を取っているので、フラフラの眼鏡……馬場を介抱しながら戻っていった。



 











 仕事はなにもしなくても上手く行くのに……

 隊長とか部下達は充実してるらしいのに……

 いや、別に割りと充実してる方だとは思うけど……


 ちなみに、斉木さんの元カレ達はまともな人間達です。

 危険な異能力軍を続けてほしくないのは当然でしょうね。将来は子供を、と考えればせめて危険の少ない後方や事務の仕事をして欲しいと願うのはおかしくないと思います。

 皆、しっかりと考えて斉木さんと対立しています。

 その事を理解しているので、斉木さんはウガァーっと仕事に打ち込みます。


 察しの良い隊員達は、そっと差し入れしたりフォローを入れます。


 3番隊は、人の良い人間が揃っています。

 特に、副隊長の斉木はとても魅力のある女性です。どうか、良い人が見つかりますように願っています。 


 


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