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猫、烏、蛇、探し人


 既に設定としては存在していたペット達の人探し。





 日本特殊異能力部異能課、異能力軍には【猫】がいる。ついでに言えば【烏】もいる。さらにいうなら【蛇】もいる。


 この3匹は世にも珍しい異能力を保持する個体であり、とある人物のペットでもある。もう何が凄いって、ただでさえ保持個体の数が少なく珍しいのに、それが3匹。しかも同じ人物になついていること。さらに、この中の猫の異能力によって、3匹ともが人間と同等の知能を持っていること。


 動物の身体能力で、人間と同等の知恵が回る。道具や機械の操作なんてお手の物である。それだけでも普通に凄いにも関わらず、異能力までも携えている。


 蛇については、この世に数人しか確認されていない、異能力の二重保持個体である。珍しいなんてレベルではなく、最早奇跡の類いだ。


 そんな3匹が、我が物顔で医務室付近の通路を闊歩していた。


 おっと、ここで4番隊隊員の女が現れた。

 当然だろう、医務室周辺の区画は4番隊の縄張りなのだから。



「あら、(ふゆ)ちゃん達が揃ってるなんて……チャンス! ちょっと写真撮らせてねぇ~」



 カシャシャシャシャシャ……と、とてつもない速さでその姿を切り取ると、満足したのか隊員の女は去っていった。



『ンナァ~…』



 まったくやれやれ、とでも言っていそうな猫。多分、実際に言っているのだろう。

 この3匹。非常に頭が良いのだが、残念なことに人間語を話すことが出来ないのだ。蛇にはそもそも発声器官がないのだし、これはもう生物的な問題である。


 それはそれとして、3匹は顔を見合わせると一鳴きしてから歩みを再開した。


 先頭を猫、頭上を烏、その足に絡まっている蛇。歩いているのは猫だけなのだが、リーダーが猫っぽいので、もうそれで良いだろう。



「やあやあ冬ちゃん達、奇遇だねぇ」



 通路の脇から合流したのは、7番隊隊長の園田(そのだ) 葵漆(きな)だ。

 割と仲が良いのか、烏の足から抜け出した蛇が葵漆の肩に着地すると、そのまま右腕に巻き付いた。



「相変わらず軽いねぇ、(せき)ちゃん。ちゃんと食べてるかい?」



 皙と呼ばれた蛇が、尻尾でトントンッと小突く。鳴かない変わりのコミュニケーションである。


 

「ったい! もう! それやめておくれよ」



 突然その場で飛び上がると、烏に向かって抗議を始める。おそらく、異能力の応用で静電気を発生させたのだろう。何処かしらがパチッ、としたに違いない。


 

『カカッ』


『ニャォン!』



 猫と烏が機嫌良さげに鳴くと、園田を置いて歩き出す。

 目的地がすぐそこなのに、わざわざ時間を掛ける必要はないのだ。



「ああそうそう、あの子なら宮村(みやむら)くんに呼ばれてそっちに行ったよ。多分、一番隊の事務室か訓練棟じゃないかな」


『ナン…ンナァ』


『カァァ』


『……』



 蛇と烏が床に降り、猫と向かい合う。すると、何かが伝わっている会話が繰り広げられて、何かが決まったようだ。


 クルリと進行方向を変えて、来た道を引き返す。1番隊は、逆方向なのだ。



「じゃぁね~。私は(かなで)君に用があるから」



 蛇だけが振り返ると、尻尾を振って返事をした。ちなみに、今は烏の足に絡まって空を飛んでいる。



「うーん、やっぱり装備を軽くした方が良いのかなぁ……?」







 こう見えて、3匹は結構武闘派である。有事とあらば、7番隊お手製の武装をして現場に登場したりする。しかも、機動力があり普通に強い。

 野性的な戦いも、知恵を凝らした作戦も自由自在。冗談抜きに、3匹を使命した作戦依頼が下ることもある。


 機会があれば、それぞれの異能力を詳しく説明しよう。

 ざっくりと言うと、烏は電気が出せて、蛇は力が強くて毒と薬が作れて、猫は他の生き物と融合する。そんな感じだ。


 ちょうど猫が異能力を使うらしい。



『ン~…ニャ!』



 鳴き声に合わせて烏と蛇が、猫に体当たりする勢いで突撃する。

 すると、猫の体に触れた所から溶け込む様に消える。その瞬間はちょっぴりグロテスクだが、それは置いておく。


 烏と蛇が完全に溶け込むと、時間差で猫に変化が始まる。体毛が白から灰に変わり、体格の3倍程の翼が生え、尻尾に鱗を纏って蛇になる。

 こうなるにはかなり厳しい条件があるらしいが、今は関係ない。


 その姿は神話で出てくるキメラを、小さく可愛らしくデフォルメしたのをイメージしてほしい。

 ベースは凛々しい獅子ではなく、可愛い白猫である。顔が変わらなければ威圧感もほぼ無い。羽が生えて尻尾が蛇になった猫であった。


 初めて見た人間は始めに驚き、次に笑顔で写真を撮るレベルの異形なのだ。



『ニャン』



 変わらずに愛らしい鳴き声をあげると、翼を広げて廊下の窓から飛び出した。建物を飛び越えてショートカットするつもりらしい。

 

 

「あっ、猫さん!」


「おぉもうそんな時間か…」


「今日なんか良いことあるかもな」



 と、そこかしこで声が聞こえる。

 異能力軍では、日常でキメラ状態の猫を見ると良いことがあると言われている。根拠はない。流れ星に願いを唱えるのと同じようなものだろう。実際に、見る機会は少なく見れればラッキーではある。


 なお、時間とは特に関係ない……筈だ。


 障害物が無いとは便利なもので、あっという間に1番隊の事務室に到着した。

 換気の為か開いていた窓から入り込むと、あっという間に3匹に分かれて周りを見渡す。



『カァァウ』



 烏が一声上げると、男の肩に飛び移った。結構ガッツリ目に爪が食い込んでいるし、乗られた男は痛い痛いと騒いでいるがそんなのは些細な問題である。


 そんな男の下に猫と蛇が集まって、じぃぃ~っと顔を見つめている。



「あの子ならついさっき出ていったぞ。5番隊の所にバギーを借りに行くって」



 痛みに慣れたのか、爪を緩めたのかは知らないが、大人しくなった男は朗らかに言う。


 なんてこった、また入れ違いか! みたいなリアクションをとる3匹。ちょっぴり不機嫌になってきている猫が、烏にパンチを喰らわせる。


 

『ァァ…』



 序列でもあるのか、悲哀を漂わせる鳴き声。蛇が烏にすり寄って、元気出せよと言っている様だ。


 烏を殴ってスッキリした猫は歩き出す。今度は普通に廊下を進む。5番隊は結構近所なのだ。



「お、世奈(よな)…と猫ちゃん達じゃないか」



 大柄な男が目線の高さに居た烏に声をかけ、その下にいた2匹に目を向ける。


 この男は5番隊の偉い人だった気がする。そして、3匹の探し人は多分この偉い人に用が有ったのではないか。

 こうしては居られない、また入れ違いになるのは御免なのだ。


 猫は走りだし、烏はそれに追従して空を飛ぶ。蛇は烏に捕まっている。


 

「あ、ちょっ! 無視!?」



 男は苦笑いをすると、後ろから声を掛ける。



「多分訓練場の奥、五郎左衛門(ごろうざえもん)の所に行ってみな!」


『カァァァ!』



 了解、そんな感じに烏が鳴くと、3匹は窓から飛び出して走って訓練場に出る。ここは二階だが、烏は飛べるし猫も身軽に降りていく。蛇は烏と飛んでいるので、このくらいの高さは何の苦でもない。


 猫が融合をしないのは、結構疲れる上、異能力を勝手に使うのはあまり褒められた事ではない。異能力は基本的に危険なモノだからである。街中であれば、突然刃物を振り回すのと何ら変わらない。異能力にもよるが、簡単に人を傷付けることが出来る。

 だからこそ、異能力保持者は自らの危険性を認識し、必要になった時にだけその力を使うのだ。


 賢い3匹は、その事をよく理解している。


 まあ、イタズラに使う位には特に問題ないだろう。何せここは異能力軍。お互いの特異性を認め合っているし、知識もマナーもきちんと教育されている。異能力に関しては、割と寛容である。


 そんなこんなで3匹は目的地に到着した。


 どうやら、探し人が居た様だ。

 指笛を二回吹いた探し人が左腕を差し出すと、そこに烏が止まる。左腕から肩にかけて革製のアームカバーが装備している。爪対策は万全だ。

 烏と一緒に着地した蛇は、腕を伝って首から腰に巻き付く。

 最後に猫が足元にすり寄る。



「んだよ。探したって? 四ツ橋さんに伝えたぞ、少ししたら戻るって。なんだ聞いてないのか、まあいいや。冬、混ざる(・・・)ぞ」



 そう言って服を捲り上げた探し人。一緒に居た袴の男と制服の男が慌てて目を反らした。いくら服を捲ったのが本人だとしても、年頃の女である。訴えられたら勝てる気がしない。



「…ん…ぅ…よし、いいな」



 真っ赤な髪を持ち上げて、白い猫耳が生える。履いていたズボンを少しずらすと、同じく白い尻尾も生えてくる。大きな変化はこのくらいだが、もっと言うなら瞳孔の形が変わり、爪が硬く鋭くなった位だろうか。


 不思議な事に、違和感がない。

 普通、このように格好をするとコスプレ感が出てくるのだが、この姿が当たり前だと言わんばかりの馴染み具合である。

 

 

「【自爆猫】の到来であるな。華夜殿が味方で心強いかぎりだ」


「あ~そうっすね。味方にもトラウマ植え付けるレベルですもんね」


「あの程度に耐えられないとか、コッチの方が信じられないって。たかが手足の1本や2本でガタガタ言いやがって、達磨にすらなってないっての」


「いや華夜ちゃん。それが普通だから」


「そんな普通は知らない。アタシにはアタシの基準がある」


「それでこその華夜殿。頼り甲斐が在ると言うもの」



 等と和気藹々と話しているが、3人はそれぞれバギーに乗って訓練場を走り回っている。

 会話は全てヘルメットに内蔵された無線機を通している。何故バギーに乗っているのかと言うと、趣味と次の作戦の為と趣味である。特に華夜と袴の男は、普段からバイクの乗って楽しんでいる人間だ。

 制服の男は、単純にバギーの保守点検を任されているだけで、たまたまこの場に居合わせた為に付き合いで乗っている。これは仕事の一環だ、袴の男は直属の上司だし、猫耳の女は隊こそ違うが役職から離れた別のポジションで、上司達と同列だと考えて良い。

 やっぱり誘いは断れない。


 所で、猫以外の2匹はと言うと、蛇は首元から顔を出して一緒になって風を切っている。心なしか楽しそうに見える。

 烏は、頭上を飛んでいる。まるでコッチの道なら楽に走れると、先導している様だ。


 そのまましばらく走り、運転にも慣れた所で解散する。


 

「冬、お疲れ」


『フニャ~ァ、ナンナン』


「フフッ…分かった分かった。ちゃんと作ってやるから。勿論、世奈と皙にもな」



 今さらだが、探し人もとい飼い主の女、華夜。真っ赤に染めた髪が特徴的だ。服装も制服ではなく、所謂ビジュアル系のファッションをしているので、何処かに居れば誰かが知っているだろう。

 一般人が関わりたくない感じの見た目をしている。


 そんなのに、3匹はすこぶるなついている。猫は何時から一緒なのか分からないし、烏は怪我から助けられてからもう数年。蛇は卵から孵した。何だかんだで華夜は面倒見が良いのだ。それに、賢い3匹にはそれぞれの価値観があるし、賢いからこそ華夜になついている。


 

 









 探し人も見付かったので、3匹の後を追うのは仕舞いにしよう。

 





 猫耳には、こんな理由があったんです。

 3匹には詳しい異能力の設定も作っています、特に冬ちゃんの異能力の発動条件はかなり絞っていますが、まあ関係ないですね。


 今回、あえて男性女性ではなく、男と女にしました。動物がメインでしたしね。雄と雌にしようとも考えましたが、やめときました。

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