6番隊、機械音痴矯正作戦
遂に連載が!
と、いうことは無くただの日常生活でした。
思いつき次第載っけていきます。
日本特殊異能力部異能課、異能力軍は年中無休24時間営業である。だが人間は、そうはいかない。よっていくつかのグループに分け、交代で休んでいる。
本日、副隊長こと大郷 琴音は、休日ではあったが特殊任務に当たっていた。
場所は異能力軍6番隊の事務室に併設された、プレハブの休憩所である。
大郷は、きちんと部下に事情を説明しているし、部下達もその理由に納得している。それどころか、彼等は皆、大郷を応援していた。
ただでさえ休日出勤、しかも優先度の高い特殊任務だ。本人が志願したとは言え、大変な事なのは見え透いている。
「良いですか、六道隊長。ここに0~9と五十音の頭文字が一緒になったものと、受話器が閉じたものと開いたマーク、米印とシャープが書いてあるボタン。全部で15個がありますね」
「あるね。でもこれは米印ではなく『スター』ないし『星印』。シャープではなく『イゲタ』と言うんだよ。アスタリスクが90度回転しているし、シャープとは傾きが違うでしょう?」
「へぇ~。でも今は別に関係無いです。この中で、六道隊長に使って欲しいのは、受話器が開いたマークです。このボタンの意味は分かりますか?」
「んん~、このイラストから考えるに、受話器を取るのだろうね。電話をかける、若しくは電話に出る事が出来るのではないかな?」
「その通りです。試しに、私がこの携帯電話に電話をかけますので、電話を出てみてください」
大郷副隊長は一度その場を離れ、休憩所から出るとタブレット端末を取り出した。
そう。既にスマートフォン等の携帯型PCが当たり前の時代である。それも板状だけでなく、腕時計型や眼鏡型、アクセサリー型など様々な形がある。
時代が進むにつれて、2つのタイプに別れたりもしている。多くの機能を携えた物と、必要な機能だけに特化した物。前者は機能分の大きさが必要な為にタブレットが主流である。それに対して特化した物は比較的小型化しやすく、機能を備えた便利なアクセサリーとして身に付ける人が多い。
何故この中に、二つ折の携帯電話が生き残っているのかと言うと、安価であることに加えて、根強い愛好家が存在するからである。
ちなみにだが、異能力軍では無線として使えるアクセサリーが数種類あり、各自好きなものを使用できる。
そんな事はさておき、大郷は多機能タブレット派らしい。
「大郷さん頑張ってるよなぁ~」
「なんか、ガラケーの使い方を教える度にボタンの数が減っていくらしいよ」
「俺、この前『メールはまだ早かったみたいですね』ってぼやいてたのを聞いたぞ」
「あっ、こっち気付いた。頑張って下さいね~」
割と近くにいた隊員に軽く手を振っていると、休憩所の扉が開き六道が表れた。
「……どうしましたか?」
「これを開いてボタンを押せば良いのかな? 音がなっていて止まらないんだ」
「これは呼び出し音です。この携帯電話に着信があることを知らせています。なので、六道隊長はこれを開いてさっきのボタンを押して下さいね」
「ほぉ~良くできてるね~」
「そうですね。連絡手段の確立で、人類は大きく発展しましたからね。ではもう一度かけますから、応答して下さい」
お前は時代遅れだと言われたのを知ってか知らずか、相も変わらずニコニコしながら休憩所に戻る六道。
大郷は軽く伸びをしながら、もう一度呼び出しをかけている。
最近、部下達からやたら甘い物を渡される大郷は、今朝も貰った飴玉を口に入れて噛み砕いた。
『琴音さん。思ったのだけどね、僕の異能力なら携帯電話要らないんじゃないかな?』
『六道隊長が聞こえても、私達には聞こえませんから。どうやって私達に情報を伝えるつもりですか?』
『そっかぁ~、そう言えばそうだねぇ』
『ええ、なのでこれからは携帯電話を携帯して下さいね』
気の抜ける返事を聞いた大郷は、小さく苦笑を溢してから、約束ですよと言い電話を切る。
何度繰り返したのか分からないやり取りである。
六道 叶多。
彼は何処か可笑しい、と言う事はない。確かに少し抜けている所はあるし、機械は使えないし、本当に伝わっているのか不安になるゆるふわ具合だが、常識の範囲内だ。
彼が携帯電話を携帯しない理由の1つはただのうっかりなのだが、もうひとつの理由が存在する。それは、彼の知覚範囲の広さである。
異能力を<知らぬ風無し見えぬ姿無し感じぬ波は無く、聞かぬ音は無し。心向くまま見抜く万物の眼>と言う。非常に長いため、仲間内ではTPSやトップビュー等と呼ばれている。
要は、遠くの事まで分かりますよ、と言ったものである。
これにより、職場内であれば全て、現地作戦中でもほぼ全ての情報を知る事ができる。そのせいで、わざわざ携帯電話を使わなくても声を聞くことが出来るのだ。
知るだけで伝えられないので、大郷は携帯電話を持たせようとしている。
仕事中であれば、無線を使うことが出来る。大郷の本当の狙いは、休日等に発生した緊急の連絡を六道に伝える手段を得ることである。現在は大郷が六道の住む家に行き、直接口頭で伝えている。
あまり関係無いが、六道の異能力には代償が存在しない。その代わり、異能力発動中はおびただしい量の知覚情報が頭に流れ込む為、常人には処理出来ずにパンクすると言われている。ただし、試した事が無ければ試す方法も無いので、あくまでも言われているだけである。それが事実であるならば、六道の情報処理能力は異常とも言えるほどに高いだろう。
なのに、彼は機械音痴であった。
「さてと、六道隊長。そろそろお昼にしましょうか」
「そうだね。今日のお弁当はなんだい?」
「ガパオライスとトムヤムクン風スープ、それと普通のサラダです」
この2人、主に大郷だが交際は無いと言い張っている。もうじき三十路という大人が何を……と思わなくもないが、ここは遅れてやって来た青春だと見守ってやるのが、空気を読む大人の対応である。現に、この通い妻的な関係を知っている隊員達は、正直羨ましいと思いながら静観しているようだ。
と、ここで昼休みにやって来る隊員達に囲まれる六道と大郷。6番隊は、隊員どうし仲が良く特に隊長副隊長との距離が近い。それも六道本人の雰囲気に加え、大郷が近くに居なければ周辺の隊長に機械や装置の使い方を聞きに行く事が多いからだ。
なんというか、六道は憎めない性格をしている。
大郷に関してだが、彼女は面倒見が良い姉御肌の為、普通に信用と信頼が集まっている。それと、機械音痴矯正の苦労人として、ある意味尊敬されていた。
何より、六道がパソコン入力に成功したときに、泣いて喜んで居たのを全員に見られているし、どれだけ苦労して教えたのかを隊員達全員が知っている。
だからほら、皆が心配して甘味や快眠グッズ等のストレス緩和アイテムを渡していく。
「どうですか? 進んでますか?」
一人の隊員が、大郷に進捗を問う。
緊急時の連絡手段が、知覚範囲内だと信じて語りかける、若しくは大郷に連絡するしかない。と言うのは、やっぱり不安になるのだ。
「ええ、電話には出てくれるので、携帯電話を携帯するようになれば完璧です」
「…完璧……」
完璧とは、当初の目標は何だったか。と首を傾げながらも、お疲れ様ですと休憩に戻っていった。
六道は馬鹿でも阿保でも無いので、教えればきちんと理解してくれる。折り返しの電話がかかってくる日も近いだろう。
この6番隊では、何時しか副隊長にお菓子を渡すのが習慣となり、メンバーが入れ替わった後も続いていくのだが、それはまた別のお話。
演説シリーズもありますので、興味があればそちらもどうぞ。