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まほろば  作者: 雨霧颯太
9/17

絶望。そして

「おい。なんでや・・・なんで首の肉吹っ飛ばされて生きとんのや・・・」


近藤は恐れおののいていた。オロチは爬虫類のような切れ長の鋭い眼で近藤の「轟雷」を睨みつけていた。まるで、自分を傷つけた相手を恨むかのように。


その様子は近藤の車載スピーカーを通じて、市ヶ谷駐屯地地下総司令部に伝えられた。


「次弾装填!!」


すかさず、山根が8式自走砲に命令を下した。8式自走砲内のオペレーターたちが慌ただしく自分たちに割り当てられたコンソールパネルで作業にあたっていた。


「了解。次弾装填。自動装填装置作動。装弾開始。」


「砲心冷却開始。冷却終了まであと90秒。」


「発砲諸元入力開始、現在座標、誤差修正・・・『轟雷』12号車。近藤一尉応答せよ。」



「現在位置・・・お、おいやべぇぞ・・・こりゃ。ヤツが動き出しやがった。」


オロチが巨体をぬうっと起き上がらせた。近藤の「轟雷」に目標を定めると、一気にその巨体で襲いかかって来た。


「あかん。戸村!!」


「ホバー開始!!」 


運転を担当する、戸村二尉が「轟雷」を浮き上がらせた。市街地戦を想定に入れて開発された「轟雷」はホバー走行を行うことが出来る。空中からの降下時のスラスターとして利用することも可能であったが、本来は市街地の障害物を突破し、迅速に移動するためのものだった。時速160kmという、通常の戦車の倍以上のスピードで「轟雷」はオロチから逃げ出した。


オロチもその巨体に似合わぬスピードで「轟雷」を追尾した。その時速はほぼ100kmに達している。近藤たちの「轟雷」はホバー走行の小回りのよさを活かして、辛くも脱出することに成功したが、レーザー追尾は不可能であった。


もう一輛の「轟雷」がオロチをレーザー追尾していたが、もう一輛いないと正確な位置は報告出来ない。


他の「轟雷」はオロチの付近にはいない。万事休すかに思われたが、オロチの真正面にレーザーイビームが照射された。近藤の「轟雷」が帰って来たのだ。


「ヒーローってのはなぁ、悪者から逃げないもんや!」


近藤は叫んだ。


「すまんなぁ、戸村。お前を巻き込んじまって。」


近藤は下の席にいる戸村二尉に謝った。戸村はクールに笑って言った。


「そんなもの謝ったうちに入りませんよ。近藤さん。くじ運の悪さもここまで来たら最高ですからね。そのかわり、生きて帰ったら、A定食大盛り、驕ってもらいますよ。」


「・・・お前・・・案外安いな・・・」



8式自走砲では発射準備が整っていた。


「発射準備完了!」


「第2射。撃てぇ!!」


8式自走砲から、46cm砲弾が発射された。極超音速で目標に飛来する最強の砲弾は回避不可能な一撃であった。今度こそオロチを仕留める。かに見えた。


オロチは素早く砲弾の方向に向くと、光弾を発射した。空中で46cm砲弾が爆発した。


「う・・・嘘だろ・・・」


それが近藤の口にした最後の言葉だった。次の瞬間、オロチは身体を震わせ、猛烈な衝撃波を周囲に浴びせた。近藤の「轟雷」はビルの下敷きになり爆発し、もう一輛の「轟雷」も衝撃に耐えられず爆発した。



その衝撃波は離れた新宿にも伝わって来た。


「うわぁ!!」


千尋は急いで都庁ビルの中に入った。ビリビリと衝撃が伝わり、激しくビルが揺れていた。衝撃が収まったあと、千尋は屋上にでた。そこには紅蓮に燃える臨海副都心と、オロチの姿があった。望遠レンズ越しに見たその姿は、牙をむき出しにし、鮮血に彩られた真っ赤で禍々しい姿であった。


遠く離れているのに、まだ、安全なはずなのに、千尋は恐怖心で動けなくなった。膝は震え、唇は渇き、死が眼前に迫っていることを実感させられた。



臨海副都心炎上、46cm砲弾迎撃無力化。山根は拳をコンソールに叩き付けた。


「くそ・・・」


「山根君。す、すぐに次弾装填したまえ!」


幹部の一人が叫んだ。


「46cm砲弾はあと一発しかありません。実用化されたとはいえ、まだ砲弾の生産が追いついていないのです。昨日までで生産出来たのはわずか3発のみでした。目標が迎撃出来る以上、最後の砲弾も無力化されてしまう公算は大きい。」


山根は歯噛みした。そんなとき、8式自走砲の米沢から通信が入って来た。


「おいおい。いつから弱音吐くようになっちまったんだ?坊主。俺んとこにいた時はもっとマシな台詞はいていたぜ。」


「おやっさん・・・」


「山根。俺が整備した8式自走砲は完璧だ。照準誤差も全く無ぇ。次はヤツを仕留めてやる。お前ももっと部下を信じろ。」


音声だけの通信だったが、米沢が笑っているように思えた。


「司令。俺たちもまだ暴れたりませんよ。出し惜しみは困ります。」


影電隊長の桑原が言った。


「司令。こちらもうっぷんがたまっているのでね。攻撃許可を願います。」


やえしお艦長の堂本二佐も言った。山根はしばらく目をつむった。作戦を考える時の山根の癖である。


「30秒で勝負をつける。影電隊はこちらのタイミングに合わせ、空対地ミサイル全弾を目標に発射。一気に目標をフライパスせよ。やえしおは全管にハープーンを装填、タイミングは追って指示する。オロチの動きが止まった瞬間が勝負だ。8式自走砲の発射タイミングはおやっさん。あんたに預ける。遠慮なくぶっ放せ。」


「良いのか?俺は整備屋だぜ。」


「おやっさんは8式自走砲を知り尽くしてる。この中で一番早く、かつ正確に目標を狙えるのはおやっさんしかいない。」


「嬉しくて涙が出るぜ。わかった、まかされたぜ。お前は椅子にふんぞり返って待ってろ。」


米沢が通信を切った。司令部では、オペレーターたちがミサイルを同時に着弾出来るタイミングと座標を計算していた。瞬く間に座標と発射タイミングが計算され、影電、やえしおに転送された。


「作戦開始!」


山根が命令を下した。命令一下、影電が急旋回し、ミサイルの全弾を発射した。


「全管発射!!」


堂本がハープーンを発射させた。ミサイルがオロチを取り巻くように急速接近した。オロチは身を震わせると周波バリアを展開し、ミサイルを爆発させた。だが、それは山根と米沢の計算通りであった。


「撃てぇ!!」


米沢が絶妙のタイミングで8式自走砲の最後の砲弾を発射した。オロチは周波バリアを展開する瞬間、身体の動きが止まる。この瞬間こそがもっとも、砲弾に関して無防備な瞬間であった。


爆煙の中で、46cm砲弾の轟音がこだましていた。

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