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まほろば  作者: 雨霧颯太
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決戦!

新星攻撃隊によってつけられたオロチの傷は、わずか2時間で治癒してしまった。回復したオロチはその怒りに任せて東京に進もうとしていた。


「目標、移動を開始しました。東京まであと、3時間です。」


市ヶ谷駐屯地地下司令部でオペレーターが報告して来た。山根の全面の巨大モニターにはオロチの現在位置と予想進路がディスプレイされていた。山根が配置したソノブイによる警戒網が機能し始めたのだった。


東京湾では海中戦力の配備が行われていた。木更津の東京湾アクアラインを防衛線とし、その内側におやしお型潜水艦2隻が配置され、外側には多くの機雷が敷設された。潜水艦2隻が浅い深度の海に配備されたのは、撃沈される可能性が高く、もしもの場合の救助が容易に行えるようにするためでもあった。


上空ではSH-60が上空警戒し、外洋ではP3-C哨戒機がオロチを常にトレースし続けていた。


川崎側のレーザー戦車「瞬雷」1号車では砲手の矢島1曹が初陣に燃えていた。


「ぐふふ・・・燃えるぜ・・・ついにこの『瞬雷』の威力を見せつける時が来た!!」


矢島は狭い車中で叫んだ。新型戦車の「瞬雷」はまだ3輛しか存在しない。川崎側と海ほたるに一輛ずつが配備された。


「おい、矢島ぁ。もっと肩の力抜け。そんなんじゃせっかくの高出力レーザーも外してしまうぞ。」


「瞬雷」対指揮官の亀井三佐が言った。「瞬雷」の狭い車内は精密機械と計器とコンピュータの宝庫であった。ディスプレイには作戦開始時刻のカウントダウンが表示されていた。


「大丈夫です!俺が、この必殺のレーザーでヤツを倒してみせますよ。」


血の気の多い部下に亀井は深いため息をついた。



特殊戦術研究旅団が戦闘準備を終えつつあるとき、千尋は東京から出ようとしていた。編集部にいたときに偶然避難命令を受け、編集長の車に同乗していたのだ。


「20年ぶりの襲来か・・・あの時は本当にひどかったな・・・」


自衛隊や警察に誘導されていく避難民を見ながら、編集長は言った。


「えぇ、あのとき、俺は記者になろうと思ったんです。今目の前にある惨状を誰かに伝えたい。そしてその先にある真実を知りたい。そう思って・・・」


逃げる住民、最新鋭の兵器群、そしてオロチ。千尋の中である勘が働いた。


「先輩、すみません!!やっぱり俺、戻ります!!!」


そう言うと、千尋は編集長の車を飛び出し、偶然通りかかった原付を止めた。


「わるい、これを俺に貸してくれ。代わりに、あの車に乗っていいから!!」


そういって、原付の若者からヘルメットと原付を借りると、逃げて来た道を逆走していった。


「あ、おい!千尋!!」


編集長は群衆の中に消えていく後輩の姿をなす術もなく見送った。



一方司令部では、対オロチの戦闘準備の9割が終了していた。だが、敵はもう間近に迫っていた。


「目標、現在浦賀水道を北上中、あと10分で、作戦海域に入ります。」


「司令。住民の避難、完了しました。」


住民の避難完了の報告に山根は安堵した。


「間に合ったか!アレはどうだ!?」


「こちら、荒川河川敷。8式自走砲、あと30分待ってくれ!30分で撃てるようにしてやる!!」


特殊戦術研究旅団第一技術班班長の米沢二尉が言った。モニター越しでも彼は部下たちに檄を飛ばし、突貫作業で仕事をしているのがわかった。


30分・・・もつのか・・・敵は東京湾に入っているのに。もたせて欲しいと山根は願うしかなかった。山根はマイクを借りると作戦に参加する全将兵に訓示した。


「諸君。もうすぐ敵がやってくる。正直手強い。勝てる見込みは少ないが、倒さなければならない。我々は全てを尽くしてヤツを倒す。各員一層奮励努力せよ。」


作戦に参加した将兵は一同士気に満ちあふれた。それは山根の下手な演説故にではない。自分たちの義務感とプロ意識が触発されたからだ。自分の全霊をかけて敵を倒す。そんな意志に満ちあふれていた。


矢島はゴーグルを付け直し、照準機にかぶりついた。


山根の訓示が終わって、3分後突如海面が爆発した。目標が機雷群にかかったのだ。この機雷群はオロチの接触と同時に他に仕掛けられた機雷も一度に爆発する仕掛けにしてあった。


爆圧に負けて、オロチは海面に姿を現した。


「攻撃開始!!!」


山根の号令のもとに一気に攻撃が開始された。


木更津、川崎沿岸に配備された地対地ミサイルが一挙に発射された。爆煙があたりを包んだ。しかし、「瞬雷」と「轟雷」に搭載された高精度赤外線センサーがオロチの姿を捉えていた。


「撃てぇ!!!」


「瞬雷」指揮官の亀井、「轟雷」指揮官の沼田が同時に叫んだ。「瞬雷」から赤い一筋の光が放たれた。レーザーならば、オロチの周波バリアの干渉を受けることなく貫くことが出来る。「瞬雷」は最大出力でオロチめがけてレーザーを照射した。


「轟雷」の射程距離は4000m。オロチに砲弾が届くギリギリであったが、140mmライフル砲を連発した。現行の戦車より貫通力、命中精度に優れた「轟雷」は砲弾の雨をオロチに降らせた。


「攻撃中止。」


爆煙のため周囲が見えない状況のため、一時攻撃が中止された。

砲弾とミサイルとレーザー射撃の洗礼を受け、生きているのだろうか。一同は固唾をのんで待った。


爆煙が晴れたとき、作戦に参加したものたちの絶望はぬぐい去れないものだった。

何事もなかったかのようにオロチが悠然と立っているのである。


「馬鹿・・・な。」


司令部の幹部の一人が椅子から転げ落ちた。


「ふざけるなぁぁぁぁ!!!」


川崎側の「瞬雷」矢島一曹がレーザーを発射した。

レーザーは、オロチの表面の極小さな面積を焼いたに過ぎなかった。


「まだだ!!」


新星6機編隊が急降下爆撃をかけた。いや、かけようとした。オロチは口を開け、上を向いた。オロチの口から、光のようなものが飛び出すと、新星6機が爆散した。


次にオロチは巨体を震わすと、大きなうなり声にも似た声を出した。


「まずい!!全隊、退避・・・!!!」


山根は叫ぼうとしたが、叫ぶ前にその衝撃波が攻撃部隊全てに襲いかかった。その凄まじい衝撃波は「瞬雷」をはじき飛ばし、「轟雷」を転覆させ、魚雷攻撃をかけるべく低空飛行していたSH-60編隊を海面に叩き付け、MLRSを爆発させた。


「・・・」


しばらくの間、司令部では誰も音を発しなかった。


「生存者をまとめて退却・・・急げ。」


山根もそれ以上は言わなかった。オロチが東京に上陸するのは時間の問題であった。ちょうどそのとき、荒川から知らせが入った。


「司令。8式自走砲。準備完了だ!いつでも行けるぜ。」


米沢が息を弾ませながら言った。それは、山根が最も待っていた瞬間だった。


「これが、最後の決戦だ・・・」


ついに、オロチ部隊最後の決戦が始まる。




小笠原諸島遥か南の孤島。その地下である艦が目覚めようとしていた。

廊下を軍靴の音を響かせて白い軍服の男が歩いていた。とある部屋の前に立ち止まると、彼は持っていたカードキーをリーダーに差し込んだ。


扉が開くと、そこにはたくさんのコンピュータや計器に囲まれた部屋があった。白衣を着た科学者と思われるものたちが忙しく動き回っていた。


前方には大きなガラスが張られており、外の様子が見ることが出来た。彼は、白衣の中に一人だけ混じった軍服の男に話しかけた。


「艦長。ヤツが現れました。東京に配備された攻撃部隊は全滅と、エージェントから報告が入っています。」


「艦長」と呼ばれた男はまだ若く、30代に見えた。艦長は静かに目を閉じていった。


「そうか・・・これの完成まで待って欲しかったのだがな。主機関の稼働試験が成功次第、『まほろば』を出撃させる。」


艦長は一歩前に出て、ガラス越しにあるものを見下ろした。

そこには数多くのケーブルにつながれた、白銀に輝く戦艦の姿があった。


60年の歳月を経て、伝説がついによみがえる。






レーザー戦車「瞬雷」スペック


全長:25m

全幅:6m

武装:7.7mmバルカン砲

   高出力フッ化重水素レーザー砲 1門

乗員:3名



   



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