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まほろば  作者: 雨霧颯太
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深海の激闘

自衛隊特殊戦術研究旅団、通称オロチ部隊所属の最新鋭潜水艦「つくよみ」は発見したオロチの追尾を開始した。


水測員の早瀬一曹は目標の位置を正確に報告した。


「よし、このまま一定の距離を保ったまま追尾する。全艦物音をたてるな。」


最新鋭潜水艦「つくよみ」は情報収集能力と静粛性に特化した潜水艦である。船体表面は無反響タイル層に覆われ、電磁誘導推進を採用することで速度の上昇と、騒音の除去に貢献していた。


「つくよみ」は速度を50ノットまで増速し、オロチの追尾を行った。


艦長の松本二佐はオロチの生物としての能力に驚いていた。


「なんと言う生物だ・・・こちらは50ノットを出しているというのに、まだ放されているとはな。まさに化け物だ。」


「現在、目標は潮岬南方、100キロを通過しました。このままのコースを行くと・・・」


水測員の早瀬一曹が今後の位置予測をディスプレイに表示させた。


「東京に上陸・・・か。直ちに位置情報を本部に送信。急げよ」


「つくよみ」によって、予測された位置情報は、直ちにオロチ部隊本部のある防衛省市ヶ谷駐屯地地下司令室に送られた。


オロチ発見の報を受け、司令室では防衛大臣、自衛隊各隊の幕僚長以下自衛隊トップの面々が顔を揃えていた。


「なんということか・・・20年前の悲劇の再来とは・・・」


各幕僚長は頭を抱えていた。


「ともかく、住民の避難をさせねば・・・」


「しかし、オロチが来なかった場合はどうする?責任問題になるぞ・・・」


非常時になりかけている中で、消極的とも言える声がささやきあっていた。


「はいはい。もう〜。責任とか、あとでどうとでもなりますから、ちゃっちゃとやりましょう?責任とるのがお嫌なら、私がとりますんで。はい。」


明らかに緊張感の抜けた声が司令室に響いた。オロチ部隊司令官山根陸将補であった。


「山根君。しかしね。」


「こうしてる間にも奴らくるかもしれないんですよ。命令も出してもらわなきゃ、戦う準備も出来んでしょうが。ね。早く決めちゃってください。」


ショートボブの髪型にメガネ。嫌らしい坊ちゃんと言った感じの外見のこの若い将官がオロチ部隊のトップであった。外見と言動に似合わず、戦術指揮能力と戦略眼は防衛省でも随一の人材だった。


「わかった・・・しかし、山根君・・・」


「はい!命令出ました。これより、特殊戦術研究旅団は、直ちに首都圏防衛のため、展開いたします!」


上司の言うことを大声で遮った山根は司令部の各員にすぐさま指令を出していった。住民の避難、各地に分散配備した特殊戦術研究旅団の展開、全てが迅速に準備されていった。


そのころ、高速で東上するオロチを追尾した「つくよみ」はある異変を察知した。


「おかしい、目標の動きが止まりました。映像に出します。」


早瀬が言った。ディスプレイされた映像にはオロチが身体を丸めた映像が映し出された。


「何をしようって言うんだ・・・」


「つくよみ」の司令所にいる面々は、固唾をのんでその様子に見入った。オロチは口を開くと何かを叫んだようで、さらにその巨体を震わせた。


数秒もしないうち、大きな音が「つくよみ」にこだました。びくっと震わせたオロチは真っすぐ「つくよみ」に向かって来た。


「しまった!!アクティブソナーのつもりだったのか。増速し、爆雷散布。急げ!!」


松本は素早く命令すると、「つくよみ」その速度を最高速度まであげた。たちまちのうちに、「つくよみ」とオロチの差が広がっていった。


散布した爆雷に触れ、オロチの速度が止まる。かに見えたが、更に速度を上げ、オロチは「つくよみ」を追って来た。


「後部魚雷発射管、5番から8番、魚雷装填、タイミングに合わせて発射。」


松本はさらに魚雷の準備を命令した。「つくよみ」の装備する魚雷は、雷速70ノットを誇る高速ジェット魚雷である。速度、威力ともにこれを超える魚雷は日本に存在しなかった。


「発射!」


松本の号令とともに4本の魚雷が驚くべき早さでオロチに向かっていき、爆発した。


「つくよみ」は尚も速力70ノットを保ったまま、現場海域を離れていた。


「はぁはぁ・・・」


松本をはじめとした、「つくよみ」のクルーは死の恐怖に直面していた。最新鋭の潜水艦、最新鋭の魚雷。それが時間稼ぎの目くらましにしか使えないという無力感、そして、自分たちが乗っているのが人智を超えた化け物の前では、単なる棺桶に過ぎないと言う事実。


「つくよみ」にはもはや、オロチ追尾は不可能であった。


海上に浮上した「つくよみ」に司令部から通信が入って来た。


「大丈夫だったか。松本。」


相手は山根だった。


「もうしわけありません。我々は・・・オロチ追尾を続行出来ませんでした・・・」


悔しさと無力感で、松本は拳を握りしめた。


「あぁ、いい。いい。大丈夫だ。気にするな。『つくよみ』が沈められ、お前さん方が死ぬ方が遥かに手痛い損害だ。追尾は、現在、航空自衛隊に移行した。直ちに帰投するように。」


「つくよみ」の遥か前方で雄叫びをあげるオロチと、更に上空には百里基地所属のRF-4EJ-改が見えた。松本たちの闘いは惨敗に終わった。


「つくよみ」とRF-4EJ-改の報告を元に、目標の予想進路が東京にあると判明した。


特殊戦術研究旅団は直ちに戦闘準備を開始した。

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