胎動
「しかし、あの戦艦は・・・俺たちの常識を遥かに超えている・・・」
彼はベッドに身を委ね天井を仰いだ。クリスの話から察すると、白い戦艦は当時の技術水準を大きく上回っている。正確に機関部を撃ち抜く能力、一撃で巡洋艦を破壊する魚雷、そしてミサイル。一撃で艦隊を消滅させるほどの威力を有するのは核しか無い。しかし、その後の海域で放射能による被害は全くなかった。
おそらく現在の科学力でも、あの白い戦艦の技術力に追いついていないのかもしれない。彼はそのまま、まぶたを閉じ、眠りの世界におちていった。
次の日彼は出版社の編集部にいた。今後の取材の報告と記事の売り込みのためだった。
千尋と編集長は編集部の奥にある応接スペースにいた。騒がしい編集部の音が離れていた応接スペースにも伝わって来た。
「確かに、お前の記事は面白いし、読者も多少ついてる。だから誌面を割いてるわけだが、もういいだろう。部数も落ちて来たしな、お前にはやって欲しい仕事もあるんだ。」
編集長は言った。30代後半とまだ若いが、一国一城の主と言った風格を持った男だった。
「そんな。先輩・・・お願いします。もう少しこれを追いたいんです!!」
千尋は食い下がった。今年32歳の千尋と編集長とは編集社の先輩、後輩の間柄で、かれこれ10年の付き合いだった。千尋が編集社を辞めてからも彼は仕事を与えたり、何くれと無く面倒を見ていた。
編集長はため息をついて千尋の目を見て言った。
「わかった。アメリカ行きの予算おろしてやる。だが、今度で最後だからな。」
「ありがとうございます!!先輩!!」
千尋の顔が一気に明るくなった。千尋は何度も編集長に頭を下げると、編集長は苦笑いし、手を振って応接スペースをあとにした。
同時刻、太平洋上を哨戒中の特殊戦術研究旅団所属の潜水艦「つくよみ」が海中の異変を察知した。
「つくよみ」は対オロチ対策の一環として開発された、新機軸の潜水艦であった。その形状は各国のどの潜水艦とも異なっていた。台形状の扁平な構造、後方に張り出した潜舵を兼ねた安定翼、艦首にはソナーなどの各種センサーが装備されていた。また、超伝導電磁推進を実用潜水艦で初めて実用化し、70ノットの最高速力を誇っていた。
「艦長、水温の異常な上昇をキャッチしました。二時方向、深度500です。モニターに出します。」
水測員の早瀬一曹が言った。
「つくよみ」の発令所には大きなモニターが装備され、ここに各種の戦術情報が集約されて表示される仕組みになっていた。表示された情報を見て、艦長の松本二佐がうなった。表示されたサーモグラフィーの範囲が異常な早さで動いていた。
「これは明らかに生物だ。しかも早い・・・間違いない。奴らだ。本部に連絡。オロチ発見。本艦はこれより目標を追尾するとな。」
「つくよみ」は機関出力をあげ、オロチの追尾を始めた。
「つくよみ」スペック
全長:120m
全幅:40m
武装:対空、対艦ミサイルVLS32基
魚雷発射缶8基
各種ソナー、センサー装備
安全限界深度:800m
最大速力:70ノット
機関:最高機密