世界の趨勢
「まほろば」が姿を消し、戦争が終結して40年後、人類は未曾有の危機が襲来した。巨大生物の襲来である。1989年、東京に姿を出現したのを最初に、ニューヨーク、ロンドン、上海、パリ、リオデジャネイロ、サンフランシスコ、シドニーなど、世界の主要都市に出現、これらの都市を壊滅させ、犠牲者の数は数百万を超えた。
中国では「神龍」、アメリカでは「ウォータードラゴン」、日本では「オロチ」と呼ばれた全長100メートルをはるかに超える巨大生物は、海より出現し、ミサイルも砲弾も通用しないこの生物は諸都市で暴虐の限りを尽くした。
常識の範疇で計り知れない生物を前に、人々は街が滅びるのをただ待つことしか出来なかった。
人類もまた手をこまねいていた訳ではなく、各国で専門のチームを創設し、研究、武器開発をそれぞれ始めていた。
日本では、1995年より特別予算が採択され、防衛省内に陸上、海上、航空自衛隊とは別に特殊戦術研究混成旅団、通称オロチ部隊が新設された。
武器開発も行われ、2000年に日本独自のステルス戦闘機「影電」、対地攻撃機「新星」が初飛行し、量産ベースに乗った。また、隠密性を重視した日本初の超電磁推進潜水艦「つくよみ」が就航、オロチ探索に乗り出していた。
しかし、どんな新兵器を作り出しても、オロチを撃退しうる有効打にはならなかった。
フリーライター、広瀬千尋は朝の鋭い日差しに目を覚ました。彼のオフィス兼自宅は資料で溢れ、ベッドの傍らには「幻の白い戦艦は今!!?」と題された週刊誌がぞんざいに広がっていた。
突如携帯の着信音が鳴り、眠気まなこをこすりながらボタンを押した。
「もしもし・・・はぁ、はぁ、すみません。ですから、今度アメリカにですね・・・」
ぼさぼさの寝癖頭をかきむしり、彼は誰もいない空間にお辞儀をした。
「クリス・マッケンジー氏の取材のアポとってあるんで。今度はもっと詳しく聞いてこようと思っているんですよ。・・・そんな眉唾話って・・・いや、俺はあの戦艦はいると確信してるんですよ。・・・はい。わかりました。明日編集部に顔出しますんで、そのとき詳細を・・・はい。では!」
彼は電話を切った。
偶然アメリカでクリスと出会ったのが6年前、ニューヨークがオロチに襲われてすぐの取材だった。
クリスは「あのジャップの白い戦艦ならきっとあんなウォータードラゴンなんてたちどころに倒していただろう。」と漏らしていた。
クリスのただならぬ雰囲気に引きよせられ、彼はクリスに取材を申し込んだ。
クリスは千尋に自分がグラマンを操縦して遭遇した悪夢について話した。取材を重ねるうち、彼は確信した。白い戦艦は確かに存在すると。以来、彼は白い戦艦を追い続けているのだった。