新たなる敵
避難勧告が解除された東京に住民たちが戻って来た。廃墟と化した東京にはほとんど無傷な建物がなく、それぞれが、それぞれの家の前で、これからの自分たちの前途を思い悩んでいた。
編集長は、オロチの襲撃によって倒壊した出版社を回り、千尋の行方を探し、東京を歩き回っていた。倒壊した新都庁の都庁ビルで編集長は千尋の壊れたカメラを見つけた。
レンズは砕け、中のデータも粉々になっていたその無惨な拾いあげた編集長は千尋の死を実感した。
「千尋・・・」
編集長は千尋の分身と言うべきカメラを抱きしめ、若きフリーライターの死を悼んだ。
「これで良かったのですか?」
東京上空、2万5千m。航空機による追尾もほぼ不可能な高度に零式桜花はいた。桜花は自らの体内にいる人に尋ねた。
「あぁ、フリーライター広瀬千尋は死んだのさ。もう先輩とは会えない。悲しいことだけど、後悔はしていない。俺は君たちに出会えたのだから。」
「千尋さん・・・これから、『まほろば』に戻ります。全速力で行きますから、気をつけてください。」
「桜花さん。俺はパイロットじゃない。Gに耐えられないよ。」
「大丈夫です。この機は人員の輸送も考慮されて設計されています。耐G中和装置も完備されています。安心してください。私の制御ですから。」
モニター越しで桜花は微笑んだ。無機質な人工物であるはずの桜花。だが、千尋の目の前にいる桜花はまるで本物の人間よりも人間らしかった。千尋もまた笑って、桜花の微笑みを返した。千尋を乗せた零式桜花はその速度をあげ、一気に音速まで達し、空に消えていった。
地球遥か上空、衛星軌道上にある物体があった。それは、さながら宇宙空間に浮遊する城と形容されるべき代物であった。外面は白く輝き、宇宙ステーションとは遥かの異なる外見をしていた。
宇宙空間であるのに重力が存在するその宇宙城と言うべきものの中で、男が一人玉座に座っていた。その傍らに腹心と思われる男が一人立っていた。傍らに立っていた男が玉座の男に報告した。
「ミカエル様・・・生体兵器5号から8号の信号が途絶えました。」
「我々の生体兵器を破壊するものがいるとはな。面白い・・・アメリカはどうだ?」
ミカエルと言われた。人物は側近に尋ねた。
「生体兵器1号と2号がアメリカの大西洋艦隊と交戦中です。あと少しで終わるでしょう・・・」
「始まるな・・・世界の終わりが・・・」
ミカエルは低く笑った。
「我々七大天使が降臨したその時、世界の終末が訪れる・・・ふふふはははは・・・」
ミカエルたちの背後には巨大な人型をした7体の機械が現れた。そのどれもが神々しく、そして禍々しく見えた。
世界の終末が訪れるのか、そして、「まほろば」は七大天使を止めることが出来るのか。物語は続いていく。
まほろば 第一部完です。
次回、まほろば第二部をお楽しみください。