解放!必殺の艦首砲!!
「ああ、君は『まほろば』の力を見たいのだろう?これから、いいものを見せてあげよう。」
昇はそういうと千尋を連れて、艦橋に向かった。艦橋では東京湾の様子が手に取るように見て取れた。燃え上がるコンビナートや都心、そしてこれから現れる黒い影。千尋はあまりに現実離れしているこの光景に飲まれてしまった。
「なんというテクノロジーなんだ。」
だが、千尋の時間は長く続かなかった。「まほろば」の眼前に、オロチが3体、その巨体を現したのである。しかも、その体長はさっき倒したオロチの倍を悠に超えていた。
「あ・・・あ・・・」
千尋は後ずさりした。東京を灰燼に帰したあのオロチの倍以上の化け物が3体もいるのだ。この「まほろば」ですら、ただではすまい。千尋はそう考えたが、昇は慌てるそぶりも見せず、副長の誠も涼しい顔をしていた。
「一体一体は面倒だな。艦首砲をつかう。艦首砲選択、硬X線レーザー砲、出力65%!」
昇は指令を下した。
「了解。艦首砲選択。硬X線レーザー砲、出力65%。艦首展開、反射鏡調整開始。」
「目標、敵性巨大生命体。照準セット!座標軸、焦点調整、誤差修正開始。」
「まほろば」の艦首が展開し、中から大きなビーム砲が出現した。中には反射鏡があり、光に反射して美しく輝いていた。
「出力安定、発射準備完了!!」
オペレーターが報告した。
「撃てぇ!!」
レーザー砲から発射されたレーザービームが反射鏡に反射され煌めいた。幾筋もの光条が「まほろば」の艦首でいくつも交差して艦首中央にある大きな反射鏡に収束された。
収束され、発射されたレーザービームは海を裂き、オロチ3体を粉々に粉砕した。
「すごい・・・」
千尋はその威力に驚愕した。
「『まほろば』の力は地上最強の力だ。我々ですら、その力を使うことを恐れるほどだ。だからこそ、我々はこの力を人類のために使わねばならない。そのために、どこの国家にも属しては行けないし、秘密にしなければならないのだ。」
昇は消し炭になって崩れ落ちるオロチを見ながら言った。千尋はそんな昇に声をかけられず。ただ見ていることしか出来なかった。
「さて、そろそろ基地に帰るとしよう。進路を南にとれ!」
「まほろば」はゆっくりその大きな艦体を南に向けるとエンジンを点火し、空に消えていった。
市ヶ谷駐屯地地下では司令部にいた全ての人間がその映像に釘付けになっていた。特殊戦術研究旅団の精鋭たちを蹴散らしたオロチを苦もなく倒した圧倒的な力をもつ、謎の白い戦艦。山根は筑波にいる特殊戦術研究旅団、技術開発部長長沼教授を呼び出した。
「映像を見ました。山根陸将補。結論から申し上げましょう。我々ではあのテクノロジーのすべてを体現することは出来ません。現在建造中の『すさのお』ですら、恐らくあの戦艦の1,000分の1ほどの戦力しか無いでしょう。そして我々も、オロチに有効な迎撃手段を持ち得ません。これが現実なのでしょう。」
特殊戦術研究旅団の超兵器を開発した長沼博士でも、「まほろば」クラスの科学力を持ち得なかった。長沼教授は冷静を装っていたが、悔しさを隠し得なかった。
「そうか・・・」
山根は敗北感にうちひしがれた。
「ですが、我々の技術も向上しています。時間はかかっても、必ずオロチを倒す力を作り上げてみせます。」
長沼博士はまっすぐ山根の目を見据えた。
「わかりました。よろしくお願いします。」
山根はそう言うと、通信を切った。目の前には火の海になった東京の惨状があった。これで、10年は復興にかかるだろう。多くの隊員を失った。オロチは謎の白い戦艦によって倒されたが、次に現れたときには「まほろば」が現れるとは限らない。次に来たときには撃退出来るだろうか・・・山根の問題は山積みであった。
「次は負けない・・・」
山根は誰にも聞こえない声でつぶやいた。